5部
「お前らどう思う?」
竹中の突然の問いに今川と大谷は困って、今川が
「自殺に追い込むことが教唆にあたるという判例はあったと思います。
だけど、週刊誌などのメディアを使用して間接的に追い込んだとなると、自殺教唆で犯人を逮捕することができるかは疑問ですね。」
「ちゃうわ、山本と上田の関係や。」
「まあ、仲いいですよね。」
大谷があまり関心無さそうに言い、今川が
「何か気になることでもあるんですか?」
「あるやろ。山本は黒田ちゃんと同棲してるのに、未だに一回も触られたことすらないらしいで。つまり、山本はそっち系か?」
「いや、ただ上司に手を出すような人じゃないだけなんじゃないですか?」
今川が言うと、大谷も
「その程度の疑いで、上田さんとそういう関係だと思う方が無理ありますよ。」
「あの二人だけで捜査することもあるし、仲良すぎるのも怖ないか?」
「それは、あれじゃないですか。ずっと二人で捜査して来たんだから、二人の方が楽ってこともあると思いますよ。」
今川が言い、竹中が
「それはお前も一緒やろ。俺と大谷みたいに後から追加されたんと違って、一緒に捜査して来たんとちゃうんか?」
「違いますよ。僕と加藤・藤堂は、あの『坊ちゃん狩り』の捜査で人手不足だったから、派遣されて、そのまま一緒になってるんで、上田さんほど長く警部と一緒に捜査してませんよ。」
「えっ、そうなんか?でも、同じ所轄にいたんやろ?」
「ええ、でも、警部の部屋は僕らのいた所から切り離されてましたし、一緒に捜査したことはありませんでした。」
「じゃあ、何でお前らが派遣されたんや?若いもんばっかやないか。」
「僕と藤堂はキャリアですから、部署の中でもお客さん扱いで持て余されてたんです。特に藤堂はキャリア意識が高かったので疎まれてましたし。
その時の課長からすると厄介払いができてよかったんじゃないですかね。」
「加藤さんは何でなんですか?」
大谷が聞き、
「藤堂とまともに話してたのが僕と加藤だけだったからかな?
でも、加藤の場合は藤堂にウザがられても話しかけてただけなんだけどね。」
「なるほど、加藤さんよくわからない人ですけど、いい人なんですね。」
大谷がそう言い、竹中が
「ってことは、山本と上田はお前らよりも長い付き合いで、一緒にやって来たってことか・・・・・」
「そうですね、あの五條さんって人の銀行強盗事件も二人で解決されてますし、そのあたりから信頼関係があるのと、二人にしかわからない話っていうのもあるんじゃないですか?」
「ちょっと待ってください。三浦さんはどうなんですか?」
「そうや、三浦のこと忘れてたは。どうなんや?」
「すみません、僕も三浦さんのことは忘れてました。
三浦さんは上田さんの部下だったらしいですけど、僕らと同じ部署で普段は捜査されていて、僕らと一緒に警部の捜査に加わったので、上田さんほどじゃないですけど、警部は信頼してるんじゃないですかね。」
「なるほど・・・・・・、気に入らんな。」
竹中があごに手を当て、考え込んでから言ったのに対して、今川が
「三浦さんより上田さんの方が信頼があることですか?」
「ちゃうは。お前ら俺を呼ぶときなんて呼ぶ?」
「竹中さんですけど?」
今川が意味がわからなかったから聞き返す感じで答える。
「じゃあ山本のことは?」
大谷が
「『警部』ですね。」
「そうや、それおかしいやろ。俺も警部なのに、年下のあいつがみんなに『警部』って呼ばれて、俺は名前っておかしないか?」
「そうですか?」
今川がどうしていいのかわからず、聞き返し、大谷が
「でも、ずっと皆さん山本さんのことを『警部』って呼んできたわけですから、仕方ないんじゃないですか?」
「じゃあ、お前ら、山本のいんとこでも俺のこと名前で呼ぶやろ。『警部』って呼ばんのはなんでや?」
「それは『警部』で呼ぶとどっちのってなるかなと思ったので、呼び分けのためにですね・・・・」
「それや。それにやな、百歩譲って、お前らが呼ぶのは我慢しよかってなってもやで、黒田ちゃんも山本のことを『警部』って呼んで俺のことを『竹中さん』って呼ぶんは許せんやろ。」
「それを言ったら、課長代理を『ちゃん』づけで呼ぶのもどうかと・・・」
大谷が言いかけたところで
「よし決めたで!これからは山本のことも『山本さん』って呼べよ。わかったな!」
竹中はそう言うと歩くスピードを上げて、先に行ってしまった。
「どうしますか今川さん?」
「仕方ないから、竹中さんがいる時は警部を『山本さん』で呼ぶことにしよっか。」
「そうですね。」
「何してんねん、早よ来いや。」
竹中が廊下のずいぶん先から大きな声で言ったので、今川と大谷は少し笑ってから、竹中の下に向かって走り出した。