48部
「井上編集長ですが三日前に『取材に行ってくる』と言い残して、編集部を出たあと、現在も一切連絡がとれない状態のようです。」
各テレビ局に同様の音声データが郵送されていたようでどこの番組でも音声データを公表していたため、急きょ井上編集長の所在を週間晩夏に確認して三浦が報告した。
伊達が
「まさか、週刊誌の編集長に自分達の雑誌が佐和田の記事でできていることを話させるとは、新しい動きが斬新ですよね。」
「憲法学者を回って、報道の自由や知る権利について聞いていたのも、テレビでこのニュースを流させた後に、国民に訴えるための準備だったのかもしれないな。」
山本が言い、加藤が
「どういうことですか?」
「おそらく、音声データを送り、話題が拡散したあとで、憲法学者の名前と見解をまとめた資料を送り、週刊誌などの無秩序状態を許してはいけないという流れに持っていきたいんだよ。」
加藤はまだ首をかしげていたので竹中が、
「偉い学者さんが、憲法分野の観点から見てやり過ぎやとか、憲法に違反していると言ったら、今まで週刊誌とかに苦しめられてた人らが一斉に異議を唱えるっちゅうことや。
プライバシー侵害されたって裁判起こす奴もおるやろうな。」
「今までは、どこから自分の情報が漏れているかわからないから泣き寝入りするしかなかったのが、週刊誌とかの報道が違法行為だと認定されることによって、報道した出版社に責任を追求でにるようになるってことですね。」
上田が言うと、加藤も何となくわかったようで、
「井上編集長と連絡がとれなくなってるのも、音声データのことを否定されないために監禁もしくはそれ以上の危害が加えられているからってことですよね?」
「話した本人が反論できないようにしとかないと、素性のわからない誰かより、編集長の反論の方が説得力が増すからな。」
山本が言い、三浦が
「でも、実際のところかなり捜索は難しそうです。
どこに行くと言っていなかったみたいですし、携帯の電波は当然見つかりませんし、捜索するための手がかりが一切ない状態ですから。」
「大谷、防犯カメラは?」
山本が聞くが、大谷は首を横に振ってから、
「ダメですね。まだ、捜査情報として処理する準備が整ってなくて、検索するシステムが完璧じゃないので、追跡にはもう少し時間がかかるようです。」
「こういう時に役立つんやと思ってたけど、そうやないんやな。」
「監視社会だと批判されないように法務省の官僚が色々と注文をつけてくるらしくて、警察庁としては即利用していくことが前提だったので、溝が深まって、さらにややこしいことになっていると上杉さんが言ってました。」
大谷が言う。
「とりあえず、竹中さんと今川・三浦・加藤は『佐和田』探しをしてください。
俺と残りの奴で井上編集長について捜査します。
大谷は上杉さんに『何とかしてください』って伝えといてくれ。」
「えっ?僕は捜査に参加しなくて良いんですか?」
大谷が自分も捜査に加えてほしいと言わんばかりに言い、山本が
「また、テレビ局に同様の何かが送られてくる可能性もある。情報収集しながら、上杉さんの方の様子もうかがっといてくれ。
今のところ、佐和田探しも井上の捜索もあの防犯カメラが頼りだからな。」
「わかりました。」
大谷が答えたところで、竹中達が出ていき、山本達も出ていく。
部屋に残った大谷はテレビをつけて、何回聞いたかわからない例の音声データを聞いた。




