47部
「今朝、当局に届いた音声データは、週間晩夏の編集長を名乗る男性と『サワダ』という人物の会話が録音されていました。
それでは実際にお聞きいただきます。」
ニュースで男性のアナウンサーが言うと「ザザッ」という音が聞こえ、
『お久しぶりです、サワダさん。
警察から、身元不明の焼死体があなたではないかと聞いていたので、ご連絡を頂いたときは驚きましたよ。
そ、それで、スクープがあると言っておられましたが、どのような内容でしょうか?』
『井上さん、あなたにとってスクープとはなんですか?
私人のプライベートを公にさらすことですか?
それとも、公人の悪事を公表して糾弾することですか?
社会が望む情報ですか?』
『どうされたんですか、急に?』
『いえ、最近は報道の自由だとか知る権利だとかの話に興味がありましてね。憲法学者の先生方にも聞いたりしてるんですよ。
今売れに売れてる週間晩夏の編集長の井上さんなら、何て答えられるのか興味がありましてね。
それで、どうですか?』
『アハハ、社会正義だとかではご飯は食べられませんよ。
私はただ、売れるネタをスクープだと思ってます。
編集長にもなれば、直接取材をしたりもないですから、他人のプライベートを覗く趣味も他人の悪事も関係ありませんよ。
作ったものが売れるかどうか、売れるものを作るためなら、他人がどうなろうと私の知ったことではありません。』
晩夏の編集長の井上は、当然の事のように答えている。それに対してサワダは落ち着いた声で、
『そうですか。
そうですよね、そうでなければ誰が書いたかわからないような記事を誌面に載せるわけがないですからね。』
『そ、その節はありがとうございました。
原稿料などのご相談は伺います。
ですから、この事はご内密にお願いできないでしょうか?』
井上は明らかに焦っている。サワダは口調を変えずに
『別にお金が目的ではないですから良いですよ。
それに別の会社の雑誌も晩夏のように私の記事を載せてくれました。』
『そうですね、最近の週刊誌の売り上げのほとんどがサワダさんの記事のおかげでしょう。
うちもほとんどの記事をサワダさんのもので埋めてから売り上げが上がりましたから。』
『要するにあなた方は企業としてまったく努力せず、出元のわからないような記事で、他人を貶めて利益を得てきたわけですよね?』
『そ、それを言われると反論の使用もありません。
そ、そんなことよりスクープとは何なんですか?』
井上が必死に話題を変えようとしていることが伝わってくる。
『そうですね・・・、見出しは「出版業界の闇 売れたらそれでいい?」ですかね。』
『サワダさん、どういうことてすか?
もしかして、今までの事すべてあなたが・・・・・・』
そこで音声データは止まり、アナウンサーが
「改めまして、今、お聞きいただいたのは、週間晩夏編集長の井上氏とサワダと呼ばれる男の会話でした。
この音声から、週間晩夏だけでなく各出版社から発売された週刊誌が、このサワダという男の書いた記事を載せて利益を得ていたということをハッキリと話されています。
さらに、井上氏は利益のためなら国民のプライバシーを侵害しても良いかのような発言をされています。
同じく報道を行っている我々としては看過できない発言です。」
男性アナウンサーが痛烈に批判する。
その後はパネルに両者の発言が書き出されたものが登場して、それに対して出演しているコメンテーター達からも批判が続いている。
その様子を見てニヤリと笑う男の後ろで、椅子に縛られグッタリとして頭を垂れている井上がいた。




