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46部

『・・・・・・・・・・・・・父が隠し持っていた秘密の手帳に全て書かれていたそうです。』

 山本は特別犯罪捜査課の面々の都合が会う日を選んで、全員を集めたうえで、前島大臣が話したことを録音しておいた音声を流して、

「ということなので、俺の親父たちの事件に関しては真相がわかりました。

皆には忙しい捜査の中で、貴重な時間を割いて頂きありがとうございました。

 以上を持ちまして、俺の親父たちの捜査を完全に終了します。

今後はこの音声データを使って、どこまでできるかを総監と相談しながらになります。」

 山本が言い終えると上田が

「よかったんですかね?真相がわかってもどうしようもないわけですから、素直に喜んでいいものかわからないんですけど。」

「まあ、よかったんちゃうか。これで山本が本腰入れて捜査に参加できるようになったんやから」

 竹中が肩をすくめて言う。山本が

「本当のご迷惑おかけしました。ただ、捜査はしてましたから。」

「あ、あの~・・・」

 声に反応して、全員が声の方を向くと伊達が右手を軽く上げていて、

「俺の紹介とかしてもらっていいですか?

 なんかずっと、『お前誰だよ』みたいな視線を感じるので。」

 山本が思い返すと、自分以外のメンツと伊達が合うのはこれが初めてであることに気付いて、

「北海道から異動して来た伊達だ。報告上色々と聞いていると思うが、仲良くしてくれ。」

 全員の脳裏に鉄パイプで犯人の顔面を強打したとか暴力団を丸々一個潰したという報告がよみがえる。

「はあ・・・・・・」

 全員が声を併せて返事をすると伊達が

「何ですか、その反応?」

 竹中が笑いながら

「そらそうやろ。お前の報告を聞いただけでは、頭がぶっ飛んでる奴が来たみたいな感じやで。

それに、俺はお前のせいで監査室にまで呼ばれてんねん、無茶な捜査許可してるんちゃうかってな。」

「いや、竹中さんが呼ばれたのはまた別の・・・」

 今川が言いかけたところで、竹中が

「うるさいねん。とにかく上司の判断は仰げよ『独断龍』!」

「あはは、わかりました。できるだけ努力します。」

 伊達が返し、黒田が

「伊達君は巡査部長です。この課で言うと大谷君と並んだ役職で、他の人は警部補以上ですから、大谷君以外の人の命令には従ってください。いいですね、伊達巡査部長。」

「あ、そうなんですね。了解です。」

 伊達は少し黒田の威圧感に負けているように他の人からは見えたが、『独断龍』とまで呼ばれる男が言う通りにするとは厳しく言った黒田を含めて全員が思わなかった。

「とりあえず、捜査状況の報告をするは。

まず、山本達が見つけてきた『佐和田』を名乗る男の中に新聞社に勤務していた谷義治言う男がいたから、調べてみた。詳細を頼むは今川。」

 竹中が言うと、今川は資料をもって

「谷義治は前科前歴はありませんし、自動車免許の更新は二年前に正規の手順を踏んで更新していました。普通の一般人として生活しているようですが、住所や現在の職業に関しては一切情報が入りませんでした。」

「あと、『佐和田』についてもわかったで、二年前にメディアの偉そうなやつが集まって、マスコミの在り方を討論した会合に『サワダタカフミ』いう人物が来てて、偉い人のプライバシーは公開されんと弱者のプライバシーを何のためらいもなく公表するようなマスコミは間違ってるみたいなこと言ってたらしい。その『サワダタカフミ』はもうすでに亡くなってるらしいけど、そいつのことを妄信的に信じてた記者が何人かいたらしい。」

 山本が

「その記者が現在の『佐和田』を構成して、その『サワダタカフミ』の言うことを実行しているというわけですか?」

「まだわからんけど、その可能性は高いやろ。

実際に、谷も沢田の発言に感銘を受けてたみたいやで。」

「谷の行方がわかればもっと正確なことがわかると思うは。俺らは以上かな。

三浦たちは何かあるか?」

 竹中に話を振られた三浦は

「そうですね、週刊誌を賑わしてた議員などの警護はうまくいってますし、他の調査に関してはあまりうまくはいってないですね。特に贈収賄の関係は政治家が黙ってしまって、全く進みません。

 週刊誌などに記事を送り付ける方法ですが、海外のサーバーを経由したり、人目につかない場所のポストを使っていたりで、出所を特定するのは不可能ではないかと思われます。」

 三浦が言っている横で加藤も頷いている。大谷が

「僕の方も、他省庁からのクレームを聞く限りでは、事件の捜査に関連してというより、『佐和田』という記者に恐怖感を持ってる印象でした。」

「なるほど、捜査はあまり進まないという感じか。」

 山本が考え込んだところで、伊達が

「週刊誌の記事もめぼしいものが無くなったのであれば、犯人グループが新たな動きを見せる可能性もありますよね。

 何か今までにはなかったような現象ってないんですか?」

「SNSで誰かを批判したりとかは今までにはそんなに取り上げられんかったのに、考えなしに呟いてアホみたいに批判されることなら最近もあったやろ。」

 竹中があきれた感じで言う。伊達が

「SNSが普及してまだ時間が経ってませんからね。取り締まりもザルですからやりたい放題なんでしょうね。」

「とにかく、谷を探そう。大谷、上杉さんに頼んで、例の信号のカメラの映像に谷が写ってないかを調べてもらってくれ。」

 山本が言い、大谷が

「全国のカメラを探すとなると大変ですよ?」

「いや、ここに書いてある日に、大学の憲法学者の取材をしているからその周辺を探して、追跡できないかを試してもらってれ。」

 山本はメモを大谷に渡し、大谷は受け取って、

「わかりました。上杉さんに確認してきます。」

「とりあえず、他にも『佐和田』を名乗っている奴らがいたから、そいつらの身元がわからないかを各出版社などで確認してくれ。以上、捜査に戻ってくれ。」

「了解」と言って各自捜査に出て行った後で、伊達が山本に

「小谷から預かったUSBの報告はいいんですか?」

「これの処遇は黒田さんに任せる。」

「そうですか。ところで、前島大臣は『SH』について何か言ってましたか?」

「悪いな、部屋を出た後で思い出したんだが、部屋に戻れる雰囲気じゃなくて聞けなかったんだよ。」

「なるほど、また時間がある時にアポが取れないか大谷君に頼んでおきますよ。」

「そうだな。」

  親父の事件の話で完全に前島大臣が『SH』なる人物と会談したという話を忘れていたことを今になって山本は悔しく思った。


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