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44部

「はじめまして、警視庁特別犯罪捜査課の山本勘二と申します。」

「同じく伊達です。」

 財務省の大臣室に入り、山本と伊達が挨拶をする。正面に座っているのは財務大臣前島和夫である。テレビなどで見たことがあるが、実際にはかなり痩せていてげっそりとしている印象を二人は受けた。

「お忙しい中、わざわざ来て頂いてすみません。

この度の週刊誌などの苛烈な報道に関して、出版業界には大きな財政的な利益があったことは否定できません。

しかし、その報道の矛先となっている企業の株価は暴落し、上場企業でありながら赤字をかかえてしまっています。これ以上、世間を刺激するような捜査は国の財務を管理する我らとしては見過ごすことができない状況になってしまっているんです。

もちろん、あなた方の職務上仕方ないことなのかもしれないですけど、国家の経済を停滞させれば国民の生活に深刻なダメージを与えるということもご理解いただきたいのです。」

前島が言う。山本はかなり腰が低いことに驚いた。横にいる伊達も後で聞いた時にどうやら同じ感想だったようだ。

「おっしゃることはわかります。しかし、今回呼ばれたのは『佐和田』という記者が焼死体で発見されたことが報道されたからですよね?

 他の企業のことは関係がないのではないですか?」

「そうですね・・・・・・・。

私も自分の言葉で話しますが、あの『佐和田』という記者が財務省の世間に公表できない秘密を握っていると脅迫してきたことがありました。

 当然、そんな脅迫に負けることはできませんでしたので当時の責任者が要求を跳ねのけたそうです。その時から、少しずつ財務省内での不祥事が週刊誌などに載るようになりました。

 『佐和田』という記者が話題になれば、今まで報道の規制をお願いしていたところも勝手なことをしかねないというのが事務次官の判断です。

 ご存知だと思いますが、私は仕事ができないと言われて何もさせてもらえません。

その代わりに問題が起こるたびに私に原稿を渡して読んで来いと言われる始末です。」

「辞任されたらいいんじゃないですか?」

「北条君には辞めたいと言ってるんですが、派閥の長が許してくれないので、北条君にもどうしようもなくて。あっ、この話はここだけの話にしてください。北条君に迷惑が・・・かかりますから・・。」

「北条総理とは仲がよろしいんですか?『君』付けで呼ぶなんてなかなかしないですから?」

 伊達が聞くと、前島はチラッと山本を見て、

「私が財務官僚をしていた時からの友人です。もう一人の大恩人とあわせて、今の私がいるのは北条君とその恩人のおかげです。本当にありがとうございます。」

 前島は頭を下げた。その場に恩人二人がいないにもかかわらず。

「なぜ頭を下げるんですか?ここにその恩人は誰もいないのに。」

 山本が聞くと、前島は焦ったように

「それは・・・・・・その・・・、感謝しきれない思いが表面に出ただけです。

不快な思いをされたなら謝ります。」

「あなたの元秘書の小谷さんからは・・・・・」

 山本が『小谷』の名前を出すと、前島は『ビクッ』となった。山本が気にせず続きを言う。

「あなたは金に目がない最低の政治家だと言っていましたが、そんな印象はないですね。」

「小谷君は私を嫌っていましたから。

公設秘書の小谷君が一生懸命地元を回ってくれたりしてる間に、他の秘書から政治資金パーティをして資金を集めた方がいいと言われて、その通りにしてたら、自分が一生懸命外回りしてるのにパーティばっかり開いてるんじゃないみたいに映っていたようで、結局辞められてしまったんです。」

 前島は落ち込んだように言う。山本が

「その資金はどのように使ったんですか?」

「選挙費用に充てました。私は全く関係ない場所から出馬しているので、色々と地盤固めにお金がいるので。」

「そうですか・・・・。

まあ、当初の話に戻りますが、身元不明の遺体があり、その手掛かりがないので公表して情報を得る必要はあります。財務省や他の省庁に融通を利かせられるほどに我々も余裕はないと思ってください。」

 山本が言うと、前島が焦ったように

「あ、そ、そうですよね。こちらからまた何か文句が行くかもしれないですけど、気にしないでください。」

「わかりました。行くぞ、伊達。失礼します。」

 伊達が先に部屋を出て、山本も出ようとしたとき、

「勘二く、あっ、山本警部だけ待っていただけますか?」

 伊達が振り返り、山本が伊達に目で合図すると伊達はそのまま駐車場に向かった。


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