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40部

「僕にわざわざ部下の人を紹介しに来てくれてるんですか?」

 面会室のガラスを挟んで五條は楽しげに言う。

「そんなわけないだろ。こいつが聞きたいことがあるからってうるさかったから仕方なくだ。」

 山本は面倒くさそうに言い、伊達と立ち位置を変える。

「初めまして、伊達といいます。

私が今、捜査しているのは、憲法学者を訪ねるジャーナリストの『佐和田』という男のことです。

あなたはご存知ですか、この佐和田を?」

「えっ、さあ、サワダという知人は何人かいますけど、ジャーナリストになった人がいたかまではわからないですね。」

「そうですか・・・・・・。それではご友人の影山光輝の弟に関して関してはどうでしょうか?」

「えっ、秀二君についてですか?どうして?」

「ジャーナリストの佐和田が取材した憲法学者の周りに、その男の姿が何度か確認できました。

事件に関係しているかはわかりませんが、訪ねた学者の8割くらいは影山秀二が先に訪ねていたことがわかっています。

 たまたまにしてはかなりの高確率です。あなたが知っている影山秀二はどんな人物ですか?」

「僕も会ったのは2・3度だからあまり詳しくはないですけど、ひきこもりで勉強もせずに、一日中無駄なことにばかり時間を使っていると影山が言ってました。」

「ひきこもった理由は?」

「影山が優秀すぎたからではないか、と僕は思ってます。

学校の成績は常にトップで、運動もできて、社交性も高かったからいつでも誰かが周りにいるそんなお兄さんに対して、秀二君は別にできないわけじゃないけどお兄さんと比べると・・・って感じだったらしいです。」

「それは誰から?」

「影山の幼馴染の人からですよ。たまに一緒に食事に行った時に秀二君の話になって、それで聞いたんです。」

「なるほど、優秀なお兄さんと比べられたくなくて何もしなくなったですか。」

「影山と秀二君はお父さんが違うんですよ。それで秀二君のお父さんとしては、お母さんが一緒なのに影山が優秀で秀二君がそうでないとなると父親として自分の方が劣ってるみたいなくだらない考えを持ってる人だったので秀二君にきつくあたってたって聞きました。」

「くだらないな。両親が同じ兄弟でも、できる子とできない子がでるのに、父親が誰かとか母親の違いとかで比べること自体が間違ってんだろ。

 その子にできないことが別の子にできることもある、比べることを勉強やスポーツに限定するから、その子の個性を潰してしまうんだよ。」

 山本があきれた感じでいい、伊達が

「他人と比べて優越感を得て自分を保つのが人間です。

負けているところばかり見つけてウツになるくらいなら、誰かの欠点を見つけて優越感に浸りたいんですよ。その点では、影山光輝は弟に対して優越感しか感じていなかったということでしょうね。」

「影山は特に弟と自分を比べてはいませんでした。

どちらかというと相手にもしていないって感じがしました。」

 五條が言い、伊達が

「それはどういうことですか?」

「仲間で飲んでいたときに、一人が『秀二君最近どう?』って聞いたんですけど、その時に影山が『秀二って誰?』って聞いたんですよ。存在自体覚えてないって感じでした。」

「『飲んでいた』ということは、酒が入っていたからそんな冗談を言っただけだとは思いませんでしたか?」

「あっ、影山は酒を飲まないんです。アルコールに弱いからと言っていつもソフトドリンクを飲んでました。」

「素で弟の存在を忘れるくらい相手にしてなかったってことですか。」

「あの~何が言いたいんですか?」

「別にどういう人物なのかを聞いてるだけですよ。他に何があるんですか?」

「山本さんはこの間の面会に来た時に影山が関与していた証拠を持ってくると言っておられました。それに、わざわざ刑務所の中の僕に聞かなくても、誰か影山の家族事情を知ってる人間なら聞けたはずです。

 何か僕にしか聞けないことがあったから来たんじゃないんですか?」

 伊達は後ろで立っている山本を見て

「こう言ってますけど?」

 山本はため息を一回ついて前に出て、伊達はそれを見て後ろに下がった。山本が

「まず言えるのは、影山が関与している証拠はつかんでない。

五條に聞きに来たのも、伊達が一度お前を見てみたいと言ったからだ。

 ただ、そうだな。

今のお前の話を聞いて、俺は一つの仮定ができた。」

「何ですか?」

「相手にもしてくれない優秀なお兄さんのことを弟が恨んでいた。

だから、自殺に見せかけてお兄さんを殺した。」

「三橋に追い詰められて自殺したのではなく秀二君に殺されたと考えてるんですか?」

「比べられる対象がいなくなれば、自分が幸せになれるかもって考えたかもしれないな。それに自殺するような人間だったのか影山光輝という男は?」

「確かに僕も自殺するような奴だとは思ってませんでした。でも、警察がそう判断したんでしょう?」

「警察は主に部屋に争った形跡があるか、自殺するような背景があるかを判断材料とする。

何回か捜査資料を見たが、部屋に争った形跡はなく、三橋に追い詰められていたという背景だけが浮かんできた。だから、自殺と判断された。

 それも計算のうちで、秀二が光輝を殺したならあり得るだろ。

眼中にない弟に殺されるなんて予想もできないからな。」

「例えそうだったとするなら、秀二君を逮捕するべきであって影山は被害者であるってだけで、山本さん達の推理するような現在の事件に影山が関与していることにはなりませんよ」

「そうだよな。じゃあ、これはどうだ?

光輝が死んだ後で、秀二が光輝の書いた計画を見つけて、優秀な兄が作った計画を実現することができれば、自分も認めてもらえるのではないかと考え、影山の計画をあたかも自分の計画のように実行している。」

「それこそ、証明ができないことですし、秀二君に直接聞くしかないでしょうね。」

「まあ、そうだろうな。

さっきも言ったけど、今日来たのは『伊達が』お前に会いたがったからだ。

次はもっとまともな仮定を持ってきてやるよ。じゃあな。」

 山本はきびすを返してドアから出ていっった。伊達が

「あなたのように自分の犯罪を悔い改めないような人をただ閉じ込めておくなんて無駄なことをしている、この国の司法制度に感謝するんですね。」

「どういう意味ですか?」

「犯罪者が更生しないなら、殺してしまう方が社会のためでしょう。

あなたは罪を悔いないなら、あなたも殺されるべき社会の敵だと言ってるんですよ。

 まあ、この国の犯罪者処遇の方針が転換されないことを祈っておいてください。」

 伊達はそう言って部屋から出て行った。

「悔い改めるって何だよ。更生するってどんな状態だよ。俺にはどうしたら良いのかわからないんだよ・・・・・・・」

 五條は下を向きながらひとり呟いた。


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