38部
「それにしても、山本と伊達のコンビが佐和田の外見をつきとめるなんてな。
お手柄やんかなあ、黒田ちゃん?」
竹中が言い、黒田が
「ですが、警部が接触した人物ではなかったということですし、『佐和田』を名乗る人物が複数いると考えると、焼死体で発見されたのが警部の接触した『佐和田』である可能性も否定できません。
今、大谷君に頼んで前歴者との照合をお願いしていますが、苦戦しているようですし、捜査が進んだと言えるほどの成果はまだ見えていません。
何より伊達巡査長が警部の捜査の邪魔になっていないかが気になりますしね。」
「何や、やきもちかいな。そんなに一緒にいたいんやったら命令すればええやろ。
私と捜査しましょうって。」
竹中がふざけた感じで言う。黒田は相手にせずに今川に
「現在の記事の出元は判明しましたか?」
「いえ、まだです。各出版社を回っているんですが、最近では記事がすり替えられることも新しい記事が送られてくることも無くなってきたということです。
現在の記事に関しては、独自の取材に基づいて書いているみたいです。」
「そうなんや。俺が疑って記事見せてもろうたけど、言ったら悪いけど、他の出版社の二番煎じか劣化版の佐和田の記事って感じでろくな情報はなかったで。」
竹中が面倒くさそうに言い、今川が
「上田さんや三浦さんの方はどうなんですか?」
「私が受けている報告では、上田さん達は三橋元教授の家を調べて、盗聴器を一台発見したそうです。近所にはいくつかマンションがあり、監視とまではいかなくても様子をうかがうことができた部屋はいくつかあったようです。
現在は盗聴器の出元と、三橋元教授の自殺前後で部屋を契約あるいは引き払った人物がいなかったかを調べているそうです。
三浦さん達は、最近の週刊誌で叩かれている人物の警護などをしていますが、あまりうまくはいっていないみたいですし、何より政治家サイドの協力がないですから、八方ふさがりと言った感じらしいです。
ですが、幸いなことに自殺者は増えていませんし、住居に対するイヤガラセも減ってきているようです。」
「そうか~・・・・・・・、じゃあ三浦たちには警護を所轄に任せて、山本らの見つけた佐和田の写真をもとに、写真の人物を知ってる出版関係者がいんか探すように言ってもらえます?
俺らも調べますけどさすがに人手が足りてないですからね。」
「わかりました。警部達は憲法学者を回って取材しに来た人物の確認をするそうです。
今回のように新たな佐和田が見つかるかもしれないと警部は言っておられました。」
「黒田ちゃんさ、山本のことせめて苗字で呼ぶとか、名前で呼ぶとかしんと距離がある感じがするで。もっと自分から攻めていかんと。」
「わかってます。部屋で一緒にいる時とかはちゃんと名前で呼んでるので大丈夫ですから。
って、そんなこと今はいいんですよ。
そうだ、竹中さんに言うのを忘れていましたが、監査室から竹中さんに呼出しが来てました。
一段落したなら、この後で行っといてください。」
「なんで俺やねん。監査されるようなことした覚えないけどな~」
「捜査情報を週刊晩夏に流したじゃないですか。他にも色々と・・・・・・」
今川が言い、竹中が手を『ポン』と打ち、
「ああ、あれか。まあ、罠張ったわけやから許してくれるやろ。
それに坂本監査室長ともしっかり話してみたかったからな。
今川は出版社周りの続き行っといてくれ。俺一人で行ってくるわ。」
竹中は手をヒラヒラと振りながら部屋を出て行った。今川が黒田を見ると
「本人がああ言ってるんですから、そうしてください。」
「わかりました。」
今川は竹中が一人で監査室に行くことに不安しかなかったが上司二人の命令には逆らえる気がしなかった。今川は心の中で『これ以上問題を起こさないでください。』と思った。




