33部
「いや~、悪いね勘ちゃん。学会とか色々と立て込んでてさ、なかなか時間ができなくて。
今日はあの美人さんが一緒じゃないの?」
山本は伊達とともに石田に会おうとしていたが、石田の都合が合わず、3日経ってからやっと会うことができ、石田が言った。
「残念ながら、お前があの人と会うことは一生ないだろうな。」
「え~、なんでだよ。結婚式とか俺は絶対に呼べよ。そうしないとお前の関係者サイドは誰もいない状態になりかねないからな。」
「別に結婚する気もないし、式を上げる気もないから大丈夫だ。」
「何をそんなに怒ってるんだよ?」
石田が意味がわからないといった手の動きを入れてきた。
「色々と面倒なことを吹き込んでおいて、しらばっくれてるんじゃねえよ。」
「あれ、まあバレちゃったんだ。いいじゃないか、一人でできないことも二人ならできることだってあるんだぞ。親父さんたちの事件を解決することが夫婦の初めての共同作業なんてのもありだと俺は思うけどな。」
石田がニヤニヤしながら言うが、伊達が
「お二人の世間話に付き合うほど俺も暇ではないので、本題に入りますね。
石田准教授、あなたは前回の警部とお会いされた際に、憲法学者を訪ねるジャーなリストの話をされていたと伺いましたが、それを詳しく教えてもらえますか?」
「ああ、その話ね。
新聞記者が報道の自由についてとか知る権利について、学者の立場からの見解を聞いて回ってるんだとさ。僕のところにはまだ来てないけど、僕の知り合いは基本的に全員会ってるから、僕のところも来るかなと思って、回答を用意して待ってるんだけど全然来ないって話をしたよ。」
「その新聞記者の名前はわかりますか?」
「あの時は思い出せなかったけど、一昨日の学会で会った先生が佐和田って新聞記者に同じことを聞かれたって言ってたよ。」
「その先生がその記者に会ったのはいつですか?」
「学会の前の日だったらしいから、三日前だと思うけど?」
「石田、そいつは本当に『佐和田』って名乗ったのか?」
山本が聞き、石田はきょとんとした顔をして、
「え、うん、そう聞いたけど俺は。」
「おかしいですね警部?」
「ああ、佐和田が生きていたとしたら、あの焼死体は誰だって話だ。」
「ああ、そう言えば身元不明の焼死体が佐和田っていう名前のブラックジャーナリストだとかいう週刊誌の報道があったな。えっ、あれって本当なの?」
石田が言い、伊達が
「佐和田と特定できたわけではありませんし、あれは一部の人間をあぶりだすためのこちら側が仕掛けた罠でもありました。しかし、佐和田である可能性が高いと我々は思っていたので、生存していたという情報は貴重です。」
「へえ、そうなのか。それで罠の効果はあったのか?」
「石田、関係ない奴に捜査情報は流せない。」
「警部いいじゃないですか。色んな省からクレームが来たみたいですよ。どこかまでは言えませんが不都合な情報を握られた人間が圧力をかけたんでしょうね。」
「お、おい伊達。まあ、話してしまったものは仕方ないな。
とりあえず、学会で会った先生っていう人を紹介してくれるか。その人から直接話を聞いた方が話が速そうだからな。」
石田は名刺入れを探して、一枚の名刺を取り出し、
「これだよ。東京大学憲法分野教授・足束史郎先生だ。学会でも有名な先生だからあまり失礼のないように頼むぞ」
山本は名刺を受け取り、
「悪いな、それは保証できない。」
「まあ、そうだろうと思うけど、できるだけ頼むよ。
そっちの若い刑事さんも勘ちゃんが失礼をしないように見張っててくださいね。」
「さあ、僕からはそれはお約束できないですね。」
伊達が笑顔で言い、石田が
「どうして?」
「僕が警部より早く失礼なことをする可能性が高いからです。」
石田はものすごい勢いで山本の方を見る。山本は黙ってうなずき、石田が
「せめて俺の名前を出さないようにお願いしたいもんだよ。」
「善処します。」
「アポ取りに使えれば、別にもうお前は必要ない。」
伊達の発言に不安を覚え、山本の発言にめまいすら感じながら、石田は
「もういいよ。好きにしてくれ。」
「それじゃあ、そうする。邪魔したな。」
山本が出て行き、伊達も頭を下げて出て行った。
「そうだ、先に足束先生に謝っておけば俺の被害は少なくて済むな。」
そう言って、急いで石田は電話に手を伸ばした。




