32部
「申し訳ありません。事情を知らない末端の一部が山本勘二を襲撃してしまったようです。」
薄暗い部屋の中で、小谷が頭を下げる。
「大丈夫ですよ。あの程度のことで私達の計画に支障が出ることはありません。
予想外だったのは、あの伊達という刑事が現れたことでしょうね。」
椅子に腰かけた状態の男がいい、小谷が
「どうやら『秘政会』のことも知っていたようなので、ご指示通りにUSBを渡したことが裏目に出なければよいのですが・・・・・・」
「あの無駄な情報の中から本当に重要な物を見つけられるかどうか、それが山本勘二という人物を測る試金石なんですよ。見当違いの物に飛びついて、一時の栄誉を受けるのか。
それとも、真実にたどり着くための鍵をその手に握ることができるのかは彼次第です。」
腰かけた男の口元には余裕の笑みが浮かぶ。小谷は
「黒木俊一の動きも計画からは少しズレを感じます。
やはり、あの者を重用するのは限界が来ているのではないでしょうか。
優秀すぎる男の手綱はいつまでも握り切れるものではない、早めに切り捨てるべきだと思います。」
「さすがは小谷さんです。僕も同じことを考えていました。
でも、まだその時期じゃないんですよ。黒木さんぐらいならいつでも切れますけど、難攻不落の城にいるあの人を討つためには、まだ味方がそろってませんからね。」
「ですが、山本勘二が真実にたどり着いてからでは、我々の動きが完全に止められてしまいますよ。」
「これは驚きましたね、あなたまで山本勘二という男を高く評価するようになったんですか?
あれほど黒木議員の発言を馬鹿にしていたあなたが?」
「私は知らなかったんです、あの男が信繁さんの息子だなんて。
あなたならこの意味がわかると思います。この会も・・・・・・」
「おっと、それ以上はやめておきましょう。
小谷さん、我々の目的は議会制民主主義と呼ばれる不効率かつ無意味な制度を廃止、真に国を思うものによる政治形態を新設することです。
外国のまねごとをするのではなく、外国に波及させられるような新制度を日本から始めて行こうじゃないですか。そのためなら、誰が創めた(はじめた)かとか、どれほどの犠牲を払ったかなんて些細なことですよ。」
「申し訳ありません、少し感情的になってしまいました。
黒木議員の処遇に関しては、十分にご注意ください。」
「わかってますよ、今回の選挙でこの国は改革の大きな一歩を踏み出します。
その一歩が黒木さんの最後の一歩になるでしょうね。」
「わかりました。あと不安材料としては、例のあの男ですがどうされますか?」
「彼は危険ですね、できるだけ早く消したいのですが、うかつに動けない状況を彼が作り出しているものですから、慎重にタイミングを計っています。
まあ、彼の件は僕にお任せください。小谷さんはしばらく身を隠して、『佐和田さん』のお手伝いでもしといてください。」
「わかりました、『SH』のご指示のままに。」
小谷はそう言って、部屋を後にした。『SH』と呼ばれた椅子に腰かけていた男は立ち上がり、
「私が『SH』 でいるのも、もう少しだけになるでしょうけどね。」
つぶやいた男の口角は上がり切っていた。




