31部
「もしもし、俺や。何かわかったんか?」
竹中は大谷からの電話に出て聞いた。大谷が
「先ほど上杉さんから連絡が来て、財務・法務・厚生労働省から報道の差し止めを行うように釘を刺されたそうです。
このトップにいる大臣は少なからず悪い噂が付きまとっている人達なので、そこからの指示があったものと推測されると上杉さんが言ってました。
詳しくは総監から北条総理に問い正すところまで行くと言っておられたので、現段階での報告と、あと、他の報道機関からの取材には答えることは厳しそうなので、晩夏の情報が不正確だとして、未だ身元不明の焼死体のままで発表をするようです。」
「他は何かあったか?例えば黒田ちゃんからの情報について、なんか進展があったとか?」
竹中が聞くと大谷が
「そうですね、黒田さんからの情報を頼りに未確定情報の贈収賄について、今回の事件に絡めて企業に話を聞いたところ、週刊誌報道などで株価が下がるのを恐れたのか正直に話してくれました。」
「贈収賄を認めたってことか?」
「そうなりますね、ただ贈収賄は贈賄側と収賄側が認めて初めて成立するので、政治家側が否定したため、立件はできませんが裏どりは確実にできたと言えると思います。竹中さんはどうですか?」
「こっちはあかんな。週刊誌の報道が出た政治家をあたってるけど、『報道は事実無根だ。さっさと嫌がらせの犯人を見つけろ』の一点張りや。
実際に張り込んでみたけど、石投げるやつも落書きしに来る奴も現れんしな。逆に報道関係のやつらがワラワラおって、あんまり近づけへんしな。」
「そうですか。テレビの情報番組とかも全体的に週刊誌とかの記事が正しいみたいに報道してますから、かなりの数の嫌がらせが出てるみたいですね。
関連して逮捕された人が、この2・3日で100人近くなってますから。」
「まったく、何が正しいかを見極めることもできひんのに行動だけ早いやつとかなんやねん。
その行動力もっと違うことに使えへんのかな。」
「仕方ないですよ。それぞれに抱えた個人的な不満とかを明確な悪を批判することで解消してるようなもんですから。ようはストレス発散のために会ったこともなければ見たこともない、全く知らない人を安全なところから批判して、楽しんでるだけの人達ですからね。」
「悪趣味としか言いようがないな。
そんなことするくらいなら、大声出して歌いながらランニングしてる方がよっぽどええは。」
「えっ、竹中さんそんなことしてるんですか?」
「してへんは!誰かを悪く言って優越感に浸るくらいなら、ランニングしてる方がいいって話や。」
「そ、そうですよね、さすがに東京でそんな人がいたら恥ずかしすぎて街を歩けなくなりますからね。また何かわかりましたら連絡しますね。失礼します。」
大谷が電話を切り、竹中が横で張り込んでいた今川に向かって、
「今のって、そんな恥ずかしいことやったんか?」
「え、え~と、大谷はきっと歌が下手なんですよ。だから自分なら下手な歌を歌って走るのは無理だなと思ったんじゃないですか。」
「そういうもんか。今度歌がうまくなるコツでも教えたろかな。」
竹中が満面の笑みで言い、今川も『そうですね』と話を合わせた。
今川は最近、竹中と一緒にいることが多いから知っているが、竹中の『してへんは!』といった行為は毎朝の竹中の日課であり、今日の朝も平然と行っていた行為だった。




