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26部

「それじゃあ聞かせてもらおうか、何でこの人を狙ったんだ?」

 伊達は山本を指さして、ヘルメットをかぶっていた男に聞いた。

「そんなことより、こいつらの身元が先だろう。

どこの誰かも知らない奴に襲われたんじゃ、納得できないからな。」

 山本が言うと伊達はコクリと頷いて、

「まず、氏名と年齢、所属してる組織を言え。」

「な、名前は言える、でも組織は言えない。言えばあとで必ず殺されてしまう。」

「それほど大きな組織ということだな。わかった名前を言え。」

 伊達が言うと男は

「木村だ。」

「こっちでまだ寝てるお仲間は?」

伊達がもう一人の髪の毛をつかみ、顔を上に持ち上げる。

「そ、それは弟だ。頼むから手荒なことはしないでくれ。」

 木村と名乗った男は一生懸命になって伊達に懇願している。伊達はその様子を見て、

「それじゃあ、組織の名前を言え。」

「いえないと言っただろう。言えば確実に殺されるんだ。

警察は信用できないからな。」

「そうか仕方ないな。」

 伊達はそう言うと、まだ眠っている男の顔面に向かってパンチを繰り出す。

「お、おい何をしているんだ、弟には手を出さないでくれって言っただろう?」

「木村、お前は勘違いしているようだから教えといてやるよ。

ここは取調室じゃないし、人目もない路地裏だ。どんな方法でお前らから情報を得ても、まともな証拠にはならないだろう。それなら、真実を聞き出すために俺は手段を選ぶつもりはない。

 例え、お前に話させるために弟に暴行を加えすぎたとしても、チンピラの言うことと俺の言うことなら警察は俺の言うことを信用してくれるはずだ。」

「そ・・・、そんな・・・、そんな理屈が通用すると思ってるのか?

人を殺せばお前も犯罪者になるんだぞ。」

「だ・か・ら、お前は勘違いをしているんだよ。

警察は正義の集団じゃない。正しくないこともするし、なにより警察が守るべきなのは犯罪をしていない一般国民であって、お前らのような犯罪者ではない。

 警察に助けて欲しいなら、社会から逸脱するような行為をしないように自身を自制し、常に他人の迷惑になっていないかを考え、犯罪行為をしないように心がけて生活するべきだ。」

「そうだとしても、暴力によって自白を強要することは認められないぞ伊達。」

 山本が言うと、伊達は振り返り、

「関係ありません。俺が知りたいのはこいつの知っている限りの真実です。

人権保護思想は確かに尊いものです。でも、それを犯罪者にまで適応すると、治安は悪化するんですよ。守られる人権は法の中で生きる人の物を最も尊重し、法から外れたものには重度の制限をかけるべきです。」

「人は平等だ。犯罪を行ったかどうかにかかわらず、全ての人の権利は守られなければいけない。

それが、法を基に社会を形成するようになった人間という生物が積み重ねてきた尊い財産だからだ。」

「間違った遺産を後世に残すべきではない。全ての事柄を権利だ自由だという言葉で正当化して、自分の行いの不当さや横暴さに目をそらしている人間が増えているんじゃないですか?」

「私人間の権利の対立に関しては民法などで調整が行われてるわけだし、国家からの権利侵害に対抗することは大事なことだろう。」

 山本と伊達の会話を聞いていた木村が、

「あんたらの人権論なんてどうでもいいんだよ。そんなきれいごとはもっと暇な時にやれよ。」

「そうだな、木村。じゃあ、もう一度聞く、お前はどこの組織に所属してるんだ。次は顔面に一撃じゃあ済まないぞ。」

 伊達が言い、木村はそのことを思い出し、

「わかった、暴力団だ。名前は言えないがこの辺の指定暴力団だと言えば、あんたらにはどこかなんてはっきりとわかるだろう。」

「なるほど、最大の譲歩といったところか。いいだろう、次の質問だ。なぜこの人を狙った?」

「俺らは最下層の構成員で、その人が持ってるUSBを取って来いと言われただけなんだよ。

そのUSBに何が入ってるのかも知らないし、何でそれが必要なのかも知らない。」

「本当だろうな?」

 伊達はそう言って、もう一人の顔面の前に握りこぶしを出す。それを見て木村は焦って

「ほ、本当だ。そ、そう言えば親父が最近、ブラックジャーナリストの佐和田とか言う奴を探してた。それは俺ら以外の構成員の仕事だったから俺達はかんでないから詳しいことは知らないが、見つけたら殺せという指令も出てたみたいだ。」

 黙って聞いていた山本が伊達の腕を抑え、もう一人を離させた後で、

「それは多摩川の焼死体が見つかる前と後のどっちの話だ?」

「多摩川の焼死体・・・・・、ああ、あれか。あの前だ。

確か、あの事件が起きた頃に情報が入って、佐和田を捕まえに行くって話を聞いた気がする。」

 木村が答えた後で、伊達が不思議そうに

「多摩川の焼死体って何ですか?」

「身元不明の焼死体で、顔面や指紋などの身元を特定できる部分が全て焼けてしまったため、断定はできていないが、身体的特徴と近くに名刺があったことから、俺らは佐和田の死体だと思ってる。」

「つまり、こいつらの仲間が佐和田を見つけて、身元不明の焼死体を作ったってことですか?」

「その可能性が高まったな。おい、もっと詳しく話せ。」

「だから、俺らはその話とは無関係だったから、今話したこと以上のことはわからないんだ。

もっと知りたいなら、組の事務所でも捜索すればいいだろう?」

「確かにそうだな。」

 山本が言った後で、山本の携帯が震えだす。画面に表示された名前を見て、自分が不自然な切り方をしたことを思い出して、電話に出た。

「け、警部?大丈夫ですか、何かあったんですか?」

 上田が心配そうに間髪入れずに質問を投げかけてくる。

「ああ、悪いな。少し危なかったが助けられたから大丈夫だ。今からすぐで悪いんだが、二人連行したいから、応援を連れて今からいうところに来てくれ。場所は・・・・・・」

 山本が電話している間に伊達が、

「木村、お前の組は確か覚せい剤の横流しをしてたよな?」

「そんなことに応えられるわけないだろう。大体、うちの組は今分裂騒動があって、そんなことをどっちがしてるのかも俺らみたいな底辺の構成員にはわからねぇよ。」

 伊達はポケットで何か操作してから、

「ありがとうな、今の証言でガサ入れの令状は貰えそうだよ。お前らの身の安全はあの警部さんに頼むんだな。」

「あっちの刑事さんなら、助けてくれるのか?」

「さあ、お前らの態度次第じゃないか。」

木村がうなだれたところで、山本が戻ってきて、

「あと10分くらいで、応援が到着するそうだ。伊達、お前はどうする?」

「黒田さんには後で報告をします。この場は山本警部にお任せしますので、起こったことを正確に報告しておいてください。近いうちにこいつらの組のガサ入れをします。

よければ一緒に来られますか?」

「いや、俺が行くと逆効果な気がするからやめとく。」

「そうですね、カモがネギ背負ってくるようなもんですからね。わかりました、何かわかれば報告はしっかりとしますよ。それでは。」

 伊達はそう言って、どことなく消えていった。

「『独断龍』ってあだ名をつけた人には敬意を表するよ。見事にその通りだなあいつは・・・」

 山本は伊達の消えていった方に向かってひとり呟いた。

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