25部
「まあ、ボール球でしたけど、ホームランですね。」
スーツ姿の男は笑いながら言う、山本が
「おい、何してんだ。そんなことしたら死ぬだろう。」
スーツ姿の男は笑顔から驚いた顔になり、
「えっ、助けてあげたのに何ですかその物言いは?
大体、犯罪者が犯罪をしようとしたところで殺されたとしても何も問題はないでしょう。
それにそれくらいの手加減くらいできますよ。」
スーツ姿の男が言い終わるくらいに、顔面を強打されたヘルメット男がむくりと立ち上がり、鉄パイプを握りしめて、スーツ姿の男に襲い掛かる。
スーツ姿の男はその攻撃をあっさりとかわし、次は剣道の上段の構えで、ヘルメット男の攻撃に対処している。何回か打ち込まれながらも、その攻撃をいなし、時につばぜり合いになりながらも、相手を圧倒している。
そのやり取りを見るだけでも、剣道の上級者かもしくは有段者であることが見て取れた。
最初は楽しそうにその剣道ごっこをしていたスーツ姿の男も飽きてきたのか、ヘルメット男の鉄パイプを強く弾き、そして強烈な一撃がヘルメットの正面上部に炸裂する。
剣道の試合なら、審判が面ありと宣言するような見事な一撃だった。
「まあ、剣道の防具なら鉄パイプで攻撃すれば死ぬかもしれないですけど、フルフェイスのヘルメットなら気絶するぐらいで済むでしょう。
手錠持ってますか?」
スーツ姿の男に聞かれ、山本が手錠を探す。一個持っていることに気付いたが山本はそれを言う前に
「持っていたとしてどうするつもりだ?」
「決まってるじゃないですか、こいつにはめるんですよ。
僕のはそっちで寝てる奴に使ってしまったので。」
スーツ姿の男はそう言って、別のヘルメット男を指さす。よく見るとその男の両手にはしっかりと手錠がはめられていた。山本は手錠を取り出し、
「お前も刑事か?」
スーツ姿の男は山本から手錠を受け取り、先ほど倒した男の両手にはめてから、
「そうですよ。人は僕のことを『独断龍』と呼びますけどね。」
「おい、それってお前もしかして・・・・・」
確か竹中さんがそんな名前で呼ばれている刑事の話をしていた。スーツ姿の男は笑顔で
「ええ、そうですよ。僕が特別犯罪捜査課の最後の追加人員、伊達正輝です。
黒田課長代理に山本警部にお会いしたいと言ったんですが、今は一人で行動されていると言われたので、独自に探してて、やっと見つけたと思ったら襲われてたんで助けてみました。」
伊達と名乗った男は楽しそうに言うが、山本には理解しきれなかった。
追加人員でただ一人来ていなかった一人が、まさか自分のピンチにいきなり現れたこともそうだが、誰にも詳細な自分の居場所を伝えていなかったにもかかわらず、一人でここまでたどり着いたことに一番驚いた。
「今まで事件の捜査をしていて合流できないと聞いていたが、それは解決できたのか?」
「残念ながらまだですよ。僕が捜査していたのは薬物の密輸関係でしてね。
売人は何人かムショに送りましたし、大元のヤクザも壊滅させるとこまではいったんですけど、どうやらまだ裏で大物がいて、根絶やしにできなかったんです。」
「それで諦めてこっちに来たのか?」
「心外ですね。令状が取れなくて犯罪者を放置するくらいなら、こめかみに銃弾ぶち込んで、あの世に送った方がましだと思ってる僕が諦めるわけないでしょう。」
「お、お前、それは警察としてダメだろう・・・・・」
「まあ、本当にやってるわけじゃありませんよ。思ってるだけですよ、思想の自由は憲法で認められてますから問題はないでしょう。
僕がこっちに来たのは、狙ってる大物がどうやら政治家の中にいそうだったので、北海道にいるよりは情報が集めやすくなると思ったからですよ。」
「それで、俺に会いたかった理由は?」
山本は、どうも伊達の性格というかキャラというか人間性のようなものがつかめずにいた。
見た感じでは藤堂や大谷、加藤くらいの年齢のはずなのに、少し竹中と通じる何かがあった。
「簡単ですよ、黒木議員や坂本監査室長が救世主にしたい男とはどんな人物なのか、それが知りたかったからです。」
「お前・・・・・、あっち側じゃないだろうな?」
伊達はニヤリと笑って、
「武田総監から僕のことをどのように聞いたかは知りませんが、僕は犯罪者が嫌いです。
犯罪を犯す者は例え女であろうと子供であろうと、親であろうと兄弟であろうと、必ず捕まえて罰を与えます。加害者に人権は要らないんですよ、救われるべき被害者が望むなら、その場で殺してもいいと思いますし、死刑を望むならそうするべきだし、一生刑務所に閉じ込めて欲しいと望まれるならそうするべきだと思ってます。
それくらいに僕は犯罪者が嫌いです。
そんな僕が、犯罪を利用して社会を変えるなんてやつらと仲良くできると思いますか?」
「お前が過激な思想を持ってるのはわかったし、そんなに否定するなら、とりあえず、お前の言ったことを信じることにする。」
「『とりあえず』ですか?」
「まあ、出会いが最悪な形だからな。第一印象はマイナスだろう。」
「え~、正義の味方ぽい登場だったから、プラスだと思ってましたよ。」
伊達は肩を落として、すねた感じで言った。
「それで、こいつらはどうするんだ?」
「そうですね、まずは、警部が持っていた何が欲しかったのかをはっきりさせたいですね。
お心当たりはありますか?」
「USBを出せと言われていたが、何のUSBかまではわからなかった。」
「じゃあ、そのへんも含めて聞いてみますか。」
伊達はヘルメット男二人にヘルメットを強引に脱がし、一人の顔面に思いっきりビンタした。
その反動で男は目を覚まし、恐怖の面持ちで伊達を見ている。そんな男を見て伊達が
「さあ、楽しい取調べの時間ですよ。」
と言ってニヤリと笑った。




