24部
「あの人も余計なことしてくれるよな本当に」
山本が電話越しに言うと、上田は少し笑いながら、
「それほど愛されてるってことですよ、きっと。」
「お前らもあんまり関わらなくていいぞ。佐和田については、ある筋から相棒がいたって話もあるし、あとこの前事故死した交通事故被害者の会の会長ともつながりがあったらしい。
俺一人じゃあ、そのへんは調べられないから、上田か三浦が調べてくれ。」
「合流して、捜査すればいいんじゃないですか?
それか大谷がペアあぶれてるんで、大谷を連れて歩くとかしたらいいじゃないですか?」
「悪いな、もう少し一人で調べたいことがあるんだよ。
それに少しやばいものも手に入れたからな、これの使いどころも考えなきゃいけないしな。」
「そんなもの持ってて大丈夫ですか?」
「まあ、今のところ変わったこともないしな・・・・・」
山本が言いかけたところで、狭い人通りのない道を進んでいた山本の目の間に黒のフルフェイスのヘルメットをかぶった男が鉄パイプを持って立っていた。山本の言葉が不自然に止まったことを心配したのか上田が
「警部、どうかしたんですか?」
「悪い、あとでかけ直す。」
山本は電話を切り、ヘルメットの男に向かって、
「あんた何してんだ?一応、仕事上あんたみたいに鉄パイプ持ってるような人を見過ごすわけにはいかないんだけどな。」
山本が話しかけるとヘルメットの男は首もとで何かをしてから、
「USBを渡せ。さもないとお前の命はないぞ。」
明らかに機械で声を変えているのだろう、おかしな声でヘルメット男が言った。
「何のことだ?見ず知らずのやつに狙われるような内容が入ったUSBは持ってた覚えがないな。
それに俺は機械音痴なんでね、USBなんてシャレたものは扱いきれないんで持ってもないよ。」
山本はそう言って相手の出方をうかがう。山本にはUSBと聞いて、先ほど上田と話していた小谷から受け取ったやばいUSBと佐和田のデータの入ったUSBの二つが浮かんだが、軽はずみにどっちのと言ってしまうと墓穴を掘りかねないので、あえて知らないふりをすることにした。
ヘルメット男は鉄パイプを構えて、山本の方に歩いてきながら、
「とぼけるな。あなたが持っているUSBは一つのはずだ。さあ、出せ。」
ヘルメットの男は鉄パイプを持っていない方の手を山本に向けて差し出す。
「知らねえよ。なんで俺が持ってると思うんだ?そのネタは正確なのか?」
さすがに武器もなしに鉄パイプと戦うのは無理だと思い後ろの様子を見ると、目の前のヘルメット男と同じような格好の男が鉄パイプを持って道をふさいでいた。
「何だ、お前ら中年のおっさん一人に武器を持って二人がかりか?恥ずかしくないのかよ、男ならタイマンだろ。」
前方のヘルメット男は、鉄パイプを構えたまま近づいてきて、
「USBさえ渡せば何もしない。早く渡せ。」
山本は考えていた。今持っているUSBは小谷が渡したものと、それをコピーしたものだから、もし小谷のUSB狙いなら、小谷がこのUSBを誰かに渡したことが相手に判明して、小谷の身の危険が増すし、その内容を知っている自分もただでは済まないだろう。
仮に、佐和田のUSB狙いなら余計な情報を流してしまうことになるので、それはそれで小谷の身の危険につながる。悩んでいるうちにもヘルメット男は近づいてきて
「さあ、早く出せ・・・・・・・、んっ?」
顔は見えないからその視線もどこを向いているかわからないが、明らかにヘルメット男は山本ではなく、その後ろを見ているような気がして、山本が振り返ると、さっきまで後ろにいたヘルメット男がいなくなっている。
山本は即座にしゃがみ地面の上にあった石や砂を握りしめて、ヘルメット男に向かって投げつけ、後方に向かって走った。突然の山本の行動に驚いて、ヘルメット男はヘルメットをかぶっているのに顔面を守るような動きをした。いきなり砂とかを投げつけられれば反射で防御姿勢を取ってしまうものだと考えた山本の作戦勝ちだった。
ヘルメット男もそれに気づいたのか、走って山本を追いかけてきた。
山本は一足先に道を抜けた少し開けた場所に出た。後ろを振り返ると不自然な光景が広がっていた。それは自分が走ってきた道の入り口横に倒れたヘルメットの男とそのそばで鉄パイプをまるで野球の打席に立つバッターのように構えるスーツ姿の男だった。
山本は直感でスーツ姿の男のしようとしていることがわかり、制止しようとしたところで、追いかけてきたヘルメット男が道を抜けてしまった。
スーツ姿の男はきれいなフォームから鋭いスイングでヘルメット男の顔面を強振した。
「バンッ!」という物凄い音がして、ヘルメット男は首が後ろに行き身体が前に出るという不自然な動きを一瞬して、「ドサッ」と受け身を取ることなく地面に倒れこんだ。
スーツ姿の男は山本の方に向かって微笑んでいた。




