23部
課長室から出てきた黒田は、両手いっぱいに資料を持っており、
「すみませんが、私からもいくつか連絡事項がありますので、藤堂君、この資料を一部ずつ配ってください。」
藤堂は言われた通りに資料を受け取って、全員に配った。配り終えたのを確認して黒田が
「こちらの資料は、現在までに警視庁並びに検察庁がつかんでいる政治家の贈収賄に関する情報をまとめたものです。資料の多さからもわかっていただけると思いますが、わが国ではこれだけ多くの政治家が違法な献金を受けているとされています。
この資料は、未だ確証が得られていないものも含まれていますので、外部には絶対に出さないでください。」
全員が資料の内容に目を通しながら、黒田の言うことを聞いていた。竹中が、
「これが山本に頼まれてた調べもんか?」
「ええ、そうです。他にもありますがまず形として出せる物はそれだけです。
この資料をもとに、三浦さんと加藤君が調べることの助けになればと思いますし、他の方たちもこの情報から何か捜査が進展することを願います。」
「それで、連絡事項はそれだけか?他にもあるんちゃうんか?」
竹中が聞くと、黒田は言いにくそうに
「そうですね。山本警部のことでお話しておきたいことがあります。」
竹中がちゃかすように、
「何や結婚でも決まったんか?」
「違います。この中にはご存知の方もおられると思いますが、山本警部のご両親は警部が小学生の頃に殺されています。犯人は捕まっていますが、不自然なところが多々ある事件でした。
この間、警部と一緒に警部の幼馴染の石田さんという方にお会いしたんですが、石田さんと黒木議員は警部のお父様方の事件には殺人を命令した誰かがいたのではないかと疑って、今も独自に捜査されているようでした。
警部自身は、過去の事件だから捜査する必要もないと言っておられたのですが、確実に警部はこの事件に執着されてます。実際、今も一人で色々と調べられてますし・・・・・・」
「それで、山本の親父さんの事件の捜査も手伝ったれってことか?
そんなことしてる余裕があると思うか?
それに20何年前の事件を調べても黒田ちゃんに得なことなんかないやろ。
もし、俺らが手伝って事件が解決して山本が黒田ちゃんに対して好意を持つように仕向けたいんやったら俺は御免やで。
人の色恋沙汰はちゃかすのは好きやけど、応援できる程俺らも暇ちゃうからな。」
「そんなことは思ってません。
ただ、山本警部のお父様は財務省の官僚で、当時の次期事務次官を争っていた人物なんです。
その争っていた相手が、現総理大臣の北条と財務大臣の前島なんです。
この二人の今の地位が、もし誰かを不幸にした上にあるのであれば、私は見逃すことはできません。」
「自分の叔父さんを貶めるような結果になってもか?」
「犯罪者が国のトップにいるのであれば今すぐにでも、引きずり下ろすべきです。
叔父であろうと親であろうと、国を動かす人間が悪であってはいけません。」
「それで、具体的にはどうすればええの?」
「それはわかりません。前島議員の名前はさきほど渡した資料にありましたし、政治家の関係を洗う中で何か情報でも得られればと思っただけですから。」
竹中はため息をついてから、
「大谷、待機中に過去の事件の処理で疑わしいものがないか調べといてくれ。
山本が捜査に加われん状態をこのまま放置しとくわけにもいかんからな。
各自、自分の捜査と併せて山本の親父の事件の情報を集めてくれ以上や、他にもなんかありますか課長代理?」
「えっ、い、いえ、もう大丈夫です。皆さんにご負担おかけしますがよろしくお願いします。」
黒田はそう言って頭を下げた。竹中が笑顔で
「これは、結婚式には全員招待してもらわんと許されへんやろなぁー」
「結婚とかはまだないですから!」
黒田が叫んだところで、張りつめていたその場に笑いが起き、全員が気を取り直して、各自の捜査のために部屋を出て行った。




