表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/83

18部

部屋を出ようとしたところで山本が引き留めた。

「もう一つだけいいですか?」

「何でしょうか?」

「山本信繁を覚えてますか?」

 小谷の顔色が変わる。小谷は小さく「山本、山本」と繰り返してから何か気づいたように

「山本って、もしかして君は信繁さんの息子さんか?」

「やはりそうでしたか。父の遺品の整理をしていた時に見た顔だなと思ったんですよ。」

「まさか、あの事件のことで私にあうために、佐和田のことを聞きに来たのか?」

「いいえ、それは完全に偶然としか言えないですね。

父とはどういうご関係ですか?」

「私の元上司だ。信繁さんにはとてもお世話になった。」

「元財務官僚が今は政治家秘書ですか?政治家になるという話はよく聞きますが、秘書になるというのはあまり聞かないですね。」

「世の中で一番怖いものは世襲制というものだと私は思ってる。

 信繁さんは一般家庭の出でありながら、自身の能力だけで出世していたが、北条さんも前島さんも祖父あるいは父親が政治家でその影響下の中で出世していた。

 特に前島さんは、一族の中でも落ちこぼれ扱いされてて東大どころか京泉みたいな有名私立にも行けなくて、地方の国立大学からやっと官僚になれたぐらいの人物だ。

入庁後はある程度、親の影響で楽な仕事ばかりをして功績を上げて出世してたんだ。

 北条さんはほぼ自力で出世してたけど、信繁さんほど優秀でもなかった。

あの人は本当にすごい人だったんだ、出世には興味がなくて、自分の仕事を完璧に処理するだけじゃなくて、仕事ができない前島さんの手伝いをしたり、北条さんの手伝いも完璧にしてた。」

「そんな親父を出世の邪魔に感じてどちらかが殺させたと考えてる奴らがいるんですが、その点に関してはどうですか?」

「それなら、北条さんは間違いなく無いな。北条さんは最初っから政治家になるためのステップとして官僚になってるから事務次官になるつもりはなかった。

 どちらかというと、前島さんはお兄さんがすでに政治家になってたから、自分の居場所は財務省にしかないと思っていた節はある。事務次官になりたかったのは前島さんだ。」

「親父と前島大臣は仲が良かったと聞いてましたが?」

「信繁さんが一方的に良くしてたというのが正解だよ。

前島さんは信繁さんを利用していたという感じだろうな。

近くにいるから感じる偉大さみたいなものも信繁さんにはあったし。」

「そんなに親父のことをべた褒めするあなたが前島大臣の秘書になったのはなぜですか?」

「北条さんに頼まれたからだよ。

前島さんはお兄さんがお父さんの地盤を継いでいたから、他のところからでなければいけないし、議員になることを猛烈に反対したお兄さんに反発して対立する党から立候補したために問題点が多すぎて、あの人の実力では何もできないから助けてあげて欲しいと言われたんですよ。

 まあ、ふたを開けてみれば結局は何もできない政治家で金に汚いだけのどうしようもない人でしたけどね。」

「前島さんが父を殺させたと思いますか?」

「私という小さい人間の小さな世界で犯人を捜すなら前島さんが一番怪しいですね。

ただ、広い世界から見れば他にも怪しい人はいただろうし、私のまったく知らない人が犯人という可能性は否定できません。」

「そうですか・・・・・。最後に一ついいですか?」

「何でしょうか?」

「あなたは親父が殺されたときどう思いましたか?」

山本が静かに聞く、小谷は質問の意図を探るかのように山本をじっと見つめてから、

「なんで?ということだけですよ。

あんなにいい人がなぜ殺されなければいけないのか、何が目的だったのか、家族を巻き込む必要があったのかなど、私の中にあったのは理解しきれない疑問と尊敬する上司を奪われた憎しみだけでした。」

「ありがとうございました。今日、俺と会ったことはできれば誰にも言わないでください。

もしかしたらあなたに危害が及ぶこともあると思われますから。

 それと周囲に危険を感じたらすぐに警察に逃げ込んでください。理由は何でもいいです、国会議員の裏事情を告発するでも何でもいいですから、警察に助けを求めてください。」

「わかりました。」

 山本が頭を下げて、部屋を出ようとすると、小谷が

「山本さん、これを。」

 山本は小谷が差し出しているものを見て、受け取ってから

「USBですか?」

「はい、私がこれまでの秘書生活の中で個人的にファイリングしていたことが入ってます。

もしかしたら、あなたが知りたいこともそこにあるかもしれません。

信繁さんに受けた恩をお返しできなかったので、せめてあなたに協力させてください。」

 山本はじっと小谷を見つめてから頭を下げて、そのまま無言で部屋を出た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ