15部
「だから、何度も言ってるじゃないですか。それはうちの記者が書いた記事なんですよ。」
竹中・今川・大谷は、週刊誌の出版会社に来て、編集長と会ったところで編集長が言った。
「ホンマにか?じゃあ、その記者さんから話を聞きたいから呼んでもらえるか?」
「い、今は取材に行ってるのでいないですよ。」
竹中の問いにも編集長には少し動揺が見えることから、竹中達は確実に何か隠していることを感じたので、竹中が
「大谷、例のもの見せたれ。」
大谷はカバンからノートパソコンを取り出し、起動して、USBを差し込んでファイルを開き、編集長の方に向けた。編集長も目を凝らしてパソコンの中身を確認する。
「な、何ですか、これは?」
「あんたのとこの記者が書いたっていう記事の原稿ですよ。」
竹中が答えると明らかに編集長は驚いた顔で
「こ、これをどこで?」
「それは捜査の関係上、お伝え出来ません。」
今川が答えると、編集長は自分が焦りすぎていることに気付いたのか、「ふうっ」と一息入れてから、
「うちの記事をパソコンに打ち込んだのであれば、著作権の問題で訴えますよ?」
「へえー、著作権ね。ホンマに書いた記者に対して著作権があるんちゃうんか?」
竹中がニヤニヤしながら聞くと、編集長は少しおじけづいた後で、
「だ、だからうちの記者が書いたんだから著作権はうちの会社にあるんですよ。」
「じゃあ、このデータはどう説明するんや?」
「そんなもの、発売後に誰かが打ち込んだんだろ。私が知るわけないじゃないですか。」
竹中がもう一度
「大谷。」
名前を呼ばれた大谷はパソコンを操作して、画面を切り替えてから、編集長に見せた。
「これが何ですか?」
「最終編集日ってところを確認してくれるか?」
竹中が言ったので編集長は言われたところを見た。編集長の顔が青ざめていくのがはっきりとわかるくらいに青ざめていた。
「発売の3週間も前に編集された記事が、発売後に打ち込めるわけないよな?
なんやったら、捜査令状もって今度来てもええんやで。」
「わ、わかりました。
うちみたいな弱小の週刊誌は、たまに週刊晩夏みたいな大手の週刊誌から、飛ばし記事を出して欲しいと頼まれることがあるんです。」
「何のためにや?」
「あの記事に関しては出元がわからないから、信用性に欠けるのでと言われました。
内容もスクープ性が高いし、これを出したら売れるんだろうなと思ったので受けました。
たまにある仕事なので、そんなに責められることではないと思ってましたし、他社の書いた記事を掲載してるとなると、うちの会社の信頼に関わりますので今まで隠してたんです。」
「それで、あんたのとこの週刊誌で話題に火がついた後で、週刊晩夏が後追い報道をすれば、あっちも儲かるって仕組か?」
「そうです。」
「ところで、あんたは新聞記者を名乗る佐和田という男知ってるか?」
「えっ、サワダさんですか?どこの会社の方ですか?」
「新聞記者を名乗ってることと佐和田って名前以外わからんねん。」
「ああ、もしかして珍しい字のサワダさんですか?猿飛佐助の『佐』に、和むの『和』に田んぼの『田』で佐和田さんですか?」
「そうや、そいつのこと知ってるんか?」
「知ってるというか、噂程度ですが・・・・・・」
「何でもええねん知ってること教えてくれや。」
「一言で言うとブラックジャーナリストってやつですよ。」
編集長が嫌そうな顔で言い、今川が
「自分の調べたことをネタに取材対象を脅すような記者ってことですか?」
「ええ、私も実際にお会いしたことはないですけど、怪しいネタばかり持ってくる上に記事にしようとしたら、外部から圧力がかかってお蔵入りになるので、最近はどこも相手にしないらしいですけどね。」
「その方の写真とか、見た目がわかるものって誰かお持ちじゃないですかね?」
大谷が聞き、編集長は
「記者ですからね。見た目がわかられると取材に影響するので、そういうものはあまり残さないと思いますよ。」
「見た目の印象とか特徴とかって何かありますか?」
今川が聞くと、少し考えてから編集長が
「40代前半くらいの小柄な男性だという話でした。こんな感じの人が来たら気を付けろとだけ噂が流れてましたから。あの、その記事と佐和田という男に関係はあるんでしょうか?」
「今のところは別の関係で佐和田を探しているとだけお答えします。」
大谷が言い、編集長が
「そうですか。記事の出元が佐和田という人物なら、週刊晩夏さんに報告する必要があったので。」
「それなら、大丈夫やと思いますよ。この後で週刊晩夏の方にも行きますから。」
「あ、あの、このことをばらしたことはできれば、言わないで頂けるとありがたいのですが。
情報を漏らすような会社には仕事を回さないと言われる可能性がありますので。」
「まあ、いいですよ。ただ、今回の事件が終息する時にどうなるかは今の段階では何とも言えないので、その時に何かの間違いで公になることはあるかも知れません。」
大谷が言い、編集長もこれ以上何かを言うことができなかったのか、
「えっ、そ、そうですか、わかりました。」
「ほな、行くで。編集長さんありがとうございました。」
竹中が言い、今川と大谷も礼を言ってから、その場を離れた。