14部
川岸の清掃を依頼された業者の二人が歩いていて、一人の男が
「おい、この辺って火葬場あったけ?」
「ないでしょう。でも、なんかにおいますね。」
「お、おい、あそこ」
男が指さしたその先には燃えている人型の物が横たわっていた。
「消防車と救急車呼んで来い。」
「は、はい」
「昨日、多摩川の川岸で焼死体が発見されました。
全体的に激しく燃えていたので、顔面の判別も指紋を採取することもできなかったそうですが、40代前半の小柄な男性で、遺留品から佐和田貴史と判明しました。」
藤堂が報告を終え、山本が
「間に合わなかったということか・・・・・。」
「残念ながら、そういうことになりますね。」
藤堂が言い、竹中が
「でも、偽装工作の可能性もあるやろ?
狙われてることわかってたなら、刺客を殺して自分が死んだように偽装した可能性もあるんちゃうか?」
「死体の状態では、その可能性も否定はできないのですが、そうだと肯定することもできないので、現時点では何とも言えないですね。」
困ったように藤堂が言った。山本が
「遺留品にはどんなものがあったんだ?」
「財布と名刺だけでした。顔写真が入った身分証はなかったので、犯人が身元不明の遺体にしようとして、持ち去ったけど名刺は気づかなかったのではないかというのが、捜査を担当した刑事の見方です。」
三浦が説明すると、藤堂が
「でも、名刺だけ忘れるなんてありますかね?」
「名刺なら、他の人からも貰うことあるから、特定に繋がらないと思ったんじゃないですか?」
三浦が言い、上田が
「じゃあ、その遺体も佐和田の物かわからなくなったな。」
「えっ、そ、そうですね。」
三浦が慌てて言い、山本が
「とにかく、この佐和田が本当は何者なのかを知ることが先決だな。
新聞記者じゃないなら、いったいどんな仕事をしていたのか、なぜ俺に新聞記者だと名乗ったのかがわかれば、この件についても少しはわかる気がする。」
「そうですね、僕が調べましょうか?」
三浦が言うが、山本は
「いや、三浦にはこの半年の週刊晩夏という週刊誌の記事について調べて欲しい。
今回の事件の報道のきっかけになり続けてる週刊誌だからな。
それに三橋が自殺してたらしくてな。
この事件は三橋の自殺から始まってるのかもしれない。
そう考えると最初の被害者は三橋元教授ってことになる。
犯人の特定に違う目線から捜査ができるようになるかもしれないからな。」
「わかりました。でも、じゃあ誰が調べるんですか?」
「俺がやるよ。もともと一人で動いてきたわけだし、できることは一人でする。」
「黒田ちゃんに手伝ってもらわんのか?」
竹中が聞き、山本は冷静に
「違うことを既に調べてもらってます。」
「そうなんか、まあ、さぼるとも思えんし、ええんちゃうか。」
「ありがとうございます。」
山本はそう言うと、足早に部屋から出て行った。
「何か気合入ってるな、あいつ?」
「そうですね、いつもなら誰かに運転を頼むんですけどね。」
上田が言い、大谷が
「竹中さんと今川さん二人でも捜査できるんで、僕が行ってもよかったと思うんですけど。」
「何か一人になりたい理由があるんですかね?」
今川が言い、竹中が
「この前のデートが怪しいな、なんか進展したんかな?」
竹中が楽しそうに言うが、他の全員が顔を見合わせて、首を傾げた。その様子を見て竹中が
「ま、まあ、ないか。」
「そうですね、あの二人ですから。」
上田が言ったところで、全員が頷いた。