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13部

「石田さんってどんな方なんですか?」

 山本からの電話で車に急いで戻り、車を発進させてから黒田が聞いた。

石田一成(いしだかずなり)は、緑山学院大学法学部准教授で、俺の4歳の時からの幼馴染です。

昔から、何をするでも一緒にしてきた腐れ縁です。」

「そんな方からの呼出しなのに嫌がられてたんですか?」

「長い付き合いだと、知られたくないことも簡単に見抜かれるんですよ。

黒木とはまた違った意味で面倒な友人ですから。

 それで何を言われてたんですか?俺の元カノの話ですか?」

「いえ、お父様のお話を少しだけ。」

「ああ、真犯人は別にいるですか。

見つけられたからどうなるということでもないと俺は思ってますよ。」

「その真犯人が叔父であってもですか?」

「この前会った時に、親父の話をしてましたよ。

総理曰く、親父が生きていれば自分の席にいたのは親父だったろうと。」

「そうなっていたと思いますか?」

「いいえ、俺は親父について思い出す気もありませんが、『一番にならなくていい、お前らしい生き方ができればそれでいい』って言われたことは今でも覚えてます。

 そんな人間が一番になろうとしたのかという疑問は残りますけど。」

「どんな状況で言われたんですか?」

「算数のテストで0点取った時です。

子供ながらに親父の働いてる財務省っていうのは、算数のできる人が集まっているところなんだと思ってたんです。

そんなとこで働いてる親父はきっと算数が得意な人なんだろうと思ってたんで、怒られると思って見せたら、親父は笑顔でさっきの言葉を言いました。」

「石田さんは、警部がご家族のことは思い出せないようだと言ってましたが、覚えてるんですか?」

「総理と会ってからは、あの人が信じられる人なのかを知るために、色々と調べてたんです。

その過程で、親父のことが避けては通れないことだったので調べてたら、断片的ですが思い出したこともあった、それだけですよ。」

「黒木さんは叔父が真犯人だと思ってるから、叔父から離れたと石田さんが言ってましたよ。」

「そうなんですか・・・・。突然何かに絶望したように変わったのは、尊敬してた北条総理が俺の親父を殺すように命令した人物だと思ったからか。」

「何ですか、それは?」

「北条総理が黒木に対して感じたことですよ。

まあ、今のは武さんから聞いたことなので、正確な表現ではないのかもしれないですけど。」

「そうですか。

それで叔父は信用できる人物でしたか?」

「身内の方の前でする話ではないかもしれませんが、確かに黒木がどこからか調べてきた情報では、総理よりもうちの親父は前島さんと仲良くしていたらしいので、目の敵にして、消えて欲しいと思ってたライバルはどっちかというと、北条総理の方になるんだと思います。」

「その情報源はわからないんですか?」

「今ならわかりますよ。黒木の叔父の黒木雄二でしょうね。省は違っても官僚間のネットワークを使えばその情報を得ることはできたでしょうから。」

「黒木雄二のところで、情報が操作されている可能性もありますよね。」

「大学生の探偵ごっこに総務省のお偉いさんが、情報をいじるメリットがないじゃないですか。

それに、実際に他の同僚だった人から聞いた話とも一致してましたから、疑いようはないんです。

 まあ、付け加えるなら、総理はうちの親父を認めてはいたけど、ライバル視している感じではなかったという人もいましたけどね。」

「じゃあ、さっき石田さんから貰った資料を見れば、もっとお父様がたの事件がわかるんじゃないですか?」

「だから、今更ですよ。

謝罪を毎日口にして、早く殺してくれと言い続けてるあの人は早く死刑にしてあげればいい。

俺からすれば、もう二度と会えない家族のために苦しみ続けてる人がいること自体が嫌なんです。ほじくり返して、あの人がさらに苦しむくらいなら、事件の真相はわからなくていいと俺は思ってます。」

「それでは警部が報われないんじゃないですか?家族を奪われた被害者なんですよ。」

「この前の事件の犯人の遠野が言ってましたが、加害者が手厚く保護され、被害者がぞんざいに扱われているって。

被害者としては忘れたいこともあるし、思い出したくないことだってたくさんある。

あの日、俺に何ができたわけでもないけど、いつも通りの時間に帰っていれば、遊んでないでさっさと帰ってれば、もしかしたら親父かおふくろかどっちか片方でも救えたのかもしれない、あるいは一緒に殺されていれば、その後の悲しみとか寂しさとか苦しさを味わうこともなかったのかもしれない。」

「ダメです。生きたくても生きれない人がいるのに、殺されてればよかったみたいなことを口にすること自体がすでにしてはいけないことです。」

「じゃあ、どうすればいいんですか?

20年以上前の事件です、時効が無くなってからまだ10数年しか経ってません。

遡及処罰はできないから、結局、真犯人が見つかっても時効で罪には問えません、それでも調べる意味があるんですか?」

「罪に問えなくても、罪は償わせるのが警察です。

刑務所に入れることも賠償金を支払わせることもできないでしょうけど、それでもこの人が犯罪者なのだと世間に知らしめることはできます。

 次の犠牲者を出させないために取締ればいいんです。」

 黒田が強い口調で言い、山本は黒田を見つめる。

言葉の節々に今まで自分が犯人に言って来たようなことが、散りばめられているような気がする。

 知らず知らずのうちに、自分は思っていたこととやっていることに距離ができていたのではないか、犯人に説得するのに自分のことには全くそれができていない。

そんなことを考えていたが、その考え事の間もずっと黒田の方に視線が言っていたからか、黒田が「あ、あの警部、そんなに見つめられると恥ずかしいのですが・・・・・」

「あ、す、すみません。」

 山本が謝ると、黒田は恥ずかしそうに

「ま、まあいいんですけどね。

そ、それに、石田さんが言ってました。」

「何をですか?」

「家族は失うものではなく、新しく作ることができるものなんだって。

 そ、その私とでなくてもいいんです、警部が誰かと結婚して新しい家族を自分で作られればいいんだと私も思います。」

「自分が作る家族ですか・・・・・、俺と家族を作りたいと思う人があなた以外にいると思えないですけどね。」

「えっ、それって・・・・・」

 黒田が助手席を確認すると、山本は既に眠りについていた。

黒田はその寝顔を見て、今日は一緒に来てよかったと心の底から思った。


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