12部
黒田もそれを追いかけようとしたが、石田が
「あっ、黒田さん、すみませんがもう少しお話をさせてください。」
先ほどまで、笑顔で軽い男の印象だった石田はまじめな顔で立っていた。
黒田は山本を追いかけるのを後回しにして、
「何でしょうか?」
「先ほどは失礼なことを申してすみませんでした。
こうでもしないと、あなたと二人で話せなかったので。」
「私と話したかったのですか?」
「いえ、勘ちゃんが連れてきた人なら誰でもよかったんです。
先ほど言った、勘ちゃんの親父さんたちの事件は、最初は僕と勘ちゃんと黒木で調べていたんです。
まあ、途中で勘ちゃんは興味がなくなったと言って抜けたんですけど、僕と黒木は調べ続けていたんです。」
「確か山本警部のご両親を殺害した犯人は今も刑務所で死刑を待ってると聞いていますが?」
「僕らは、真犯人は別にいると思ってます。
正確に言うなら犯人に指示を出した誰かがいると思ってるんです。」
「その根拠は?」
「勘ちゃんの親父は当時、財務省の官僚でした。犯人は日雇い労働をしていた人物で、生活圏も違いましたし、勘ちゃんの親父とは一切関わりがなかったんです。
警察に捕まった時、男は金目の物を盗んでもいなくて、ただ両親を殺していただけでした。
大学生の僕らが調べた結果、当時の財務省の官僚には出世頭が3人いました。
この中の誰かが事務次官になると誰もが思ってるほど優秀な3人でした。」
「その中に警部のお父様がおられたんですか?その二人のどちらかが殺害を命じた真犯人だと思われてるんですね。」
「ええ、そうです。一人は北条現総理大臣、もう一人は財務大臣の前島和夫です。
2・3年前になりますが、犯人の男と北条総理に関係があることがわかり、僕らの中で真犯人は北条総理ではないかと疑いました。それを機に黒木は北条総理の下を離れたと言ってました。黒木は今も、北条総理を疑ってるんだと思います。」
「石田さんは違うんですか?」
「前島が北条総理の知人である男を使ったというのが僕の仮説です。事件の時犯人の男は借金漬けで、首が回らなかったらしいですが、事件が起きた後は借金が無くなり、あとは死刑を待つだけになってるんです。」
「山本警部はこのことは?」
「勘ちゃんは事件のショックで、事件前後のこと、特に家族のことに関して記憶障害があります。
意図的に思い出さないようにしているようにも見えましたし、家族というものに関して臆病になっている部分があります。
あなたがもし、本当に勘ちゃんと一緒にいたいと思うなら、世間体などは気にせずにどんどんと近づいてあげて欲しいんです。
家族は失うものじゃなくて、新たにできるものなんだと教えてあげて欲しいんです。
無理にとは言いません、山本勘二の友人の一人として、あいつには幸せになって欲しいそれだけなんです。
よろしくお願いします。」
石田はそう言って頭を下げた。黒田はその様子を見て、この人は本心から山本警部のことを思っているんだとわかったので、
「私にできることは一生懸命にしたいと思ってます。任せてください。」
石田は頭を上げ、黒田を見ると凛として頼れる感じがしたので、また、頭を下げた。
そこに黒田の電話が鳴り、黒田が出て
「すみません、直ぐに行きます。石田さんすみません、警部怒られてるんでもう行きます。」
石田は頭を上げて満面の笑みで、
「勘ちゃんは頑固者なので頑張ってくださいね。」
「はい。失礼します。」
黒田が出て行き、一人残った石田は
「勘ちゃんも黒木も頑固すぎるんだよな。
気が付かないと・・・大変なことになる前に・・・・」