11部
「どうぞ」
石田が答えるとドアが開き、
「失礼します。あっ、ご来客中でしたか。」
若い学生が言い、石田が
「大丈夫だよ。レポートの提出だったね。貰うよ。」
「あ、はい」
学生が山本の前を通り過ぎる時、見たことのある顔だと思い、よく見てから、
「君は・・・・、影山の弟だね?」
学生は立ち止まり、
「えっ、あ、はい。僕は影山ですけど、どこかでお会いしたことありましたか?」
「ああ悪いな、この前の三橋ゼミというと君には嫌がられるかもしれないが、それのOB会の『三倒会』で俺が一方的に見てただけだ。」
「ああ、三橋ゼミのOB方だったんですか。すみません、たくさんの方に囲まれていたので、覚えきれなくて。」
「ああ、俺はそこには加わってないから、覚えてなくて当然だから気にしないでくれ。
それより、ここの大学の学生だったんだな。」
「ええ。あ、先生すみませんお邪魔でしたよね?また後で来させてもらいます。」
「悪いね。」
石田が言うと、影山の弟は山本に頭を下げて、部屋から出て行った。石田が
「そうか、珍しい名前だと思ってたけど、彼は自殺した影山何とかの弟だったのか。」
「何でお前にレポート持ってくるんだ?」
「それは、あれだよ。うちのゼミ生だからな。引きこもってた時期があるから、他の学生より年上なのも知ってたけど、24歳には思えないくらいしっかりした学生だよ、彼は。」
「そうか・・・・・・、それで本題は?」
山本が言い、、石田が
「さっき、三橋教授の話しただろ?」
「それだけなら、電話で済んだだろ。他にも何かあるんじゃないか?」
「そういえば、自由とか権利について、憲法学者に聞きまわってる新聞記者がいるって聞いたな。」
「それと今回のことと何か関係あるのか?」
「いや、知らないよ。勘ちゃんが何調べてるのかもさっき知ったんだから。
勘ちゃんが他にって言うから、絞り出したんだろ。」
「それでその話はなんだ?」
「何て名前だったかな・・・・・、新聞記者が報道の自由についてとか知る権利について、学者の立場からの見解を聞いて回ってるんだとさ。僕のところにはまだ来てないけど、僕の知り合いは基本的に全員会ってるから、僕のところも来るかなと思って、回答を用意して待ってるんだけど全然来ないんだよ。」
「おまえには聞きたくないってことなんじゃないか?」
「それならそれでもいいけどさ。」
石田が言ったところで、黒田が
「三倒会って何ですか?」
石田がめちゃくちゃ笑顔で、
「三橋ゼミのOB会の名前なんですけど、趣味が悪いですよね。三橋を倒す会で三倒会なんだから。
この前、黒木にあった時も二人でバカにしてましたよ。」
「黒木にあったのか?」
山本が聞くと、
「ああ、政府主催の審議会という名の時間の無駄に付き合った時にな。」
「そんな言い方はどうかと思いますよ。」
黒田がいうと、石田は苦笑して、
「いや、僕達学者からすると、専門知識を持った人たちが参加して議論した結論だから、国民の皆さん信用してくださいっていうための道具にされてるにすぎないんですよ。
一生懸命発言して取りまとめられた答申書も、結局、拘束力がないから政治家の宣伝道具にしかなってないんですからね。」
「それで、黒木とは何を話したんだ?」
「別に。黒木が三倒会に参加する話と議題についての話だけだけど?」
「三橋が死んでる話は?」
「それはつい2・3日前に学会の人から伝え聞いたことだから、黒木にあった時点では知らなかったから話せてないよ。」
「そうか・・・・」
「ところで、この美人さんとは本当はどこまでいってるんだ?」
「言っとくがこの人は俺の上司だ。上司に手を出すわけないだろ。」
山本が必死に否定するところが面白かったのか石田は
「本当にか~?今どき上司が女性何てこと珍しくなくなってるらしいじゃないか。それに仕事上の関係なんて男女関係には、まったく意味をなさないんだぞ。」
「既婚者に言われるなら説得力があるが、俺や黒木と同じ独身のお前に言われたくない。」
「それでも、彼女の数ならお前の10倍はいるぞ。」
「関係ないだろ。」
山本が言い、石田は呆れたといった感じで肩をすくめてから、笑顔になり黒田に向かって
「山本について知りたいことや相談事があればいつでもご連絡ください。」
そう言って、黒田に名刺を渡し、黒田も
「あ、すみません、ありがとうございます。」
そう言って、黒田も名刺を渡した。それを見た山本が
「もう勝手にしてろ。」
そう言って出て行ってしまった。