10部
「お前、居留守使った上に、別人のふりとかよくできるよな。」
山本と黒田は緑山学院の研究棟の一室に入ると、中にいた男が言った。30代後半のメガネをかけたやせ型の男は、山本を責めているはずなのに、どこか楽しそうな雰囲気をかもし出していた。
「職場に電話してくる奴は面倒だなと思っただけだ。」
「職場ねぇ~、美人引き連れてきといて、あれかデートの約束でもしてたのか?」
「そんなわけないだろ。お前の言う重要な物が重要かどうかを判断するのに、連れてきただけだ。」
「そうなのか、お似合いだと思ったんだけどな。」
「失礼なこと言うな、俺とお似合いなんて嫌に決まってるだろ。」
石田はチラッと黒田を見て、
「そうでもないみたいだけど?」
「それで、重要な物って何だ?」
「質問で返すなよ。まあいいや、これだよ。」
石田はパンパンの封筒を差し出した。山本がそれを受け取り、
「何だこれは?」
「お前の親父さんたちの事件の捜査資料と俺なりの見解をまとめた物。」
「なんで俺の親父の事件の資料が捜査に役立つんだ。」
山本はあからさまにイライラしていた。石田は笑顔で
「通行止めがあるのに無理やり進んでたら、進みにくいだろ?
お前にとっての通行止めはその事件だからな。さっさと解決して前に進めればいいなと思ってな。
ついでに言うとお前らが今、何を捜査してるかなんて、一般人の俺が知るわけないしな。」
山本は封筒をじっと見た後で、
「興味ないな。それで、本題は?」
「あ、あの、お二人はどんなご関係なんですか?」
ずっと黙っていた黒田が聞いた。石田は笑顔で
「大学の同期です。僕と黒木と勘ちゃんいつも三人で一緒にいたんですよ。」
「ということはあなたも、三橋元教授のゼミ生ということですか?」
「ああ、違います。僕は憲法を専攻していたので、二人とはゼミは違いました。」
「そうなんですか。」
「おい、勘ちゃんて呼ぶな。」
山本が怒り気味に言った。石田はへらへらと笑いながら、
「すみません。つい癖なもので。」
「警部のことを勘ちゃんと呼んでるんですか?」
黒田が興味津々で聞く。
「ええ。あなたも勘ちゃんと呼べば、彼と付き合えるかもしれないですよ。
大学の頃、そういう子と付き合ってましたから。」
「そ、そうなんですか?」
「石田が無理やりくっつけたようなものです。」
山本は冷静に否定する。
「違うだろ、紹介はしたけど付き合えとまでは言ってない。あと、こいつは押しに弱いので、ぐいぐい行けば付き合ってもらえますよ。」
「そのアドバイスのせいで、泣きつかれて断り切れなくなったんだよ。」
「アハハ、そんなこともあったな。」
「なるほど、押しに弱いのか・・・・・・」
黒田が小さくつぶやき、山本が
「いらないこと覚えないでいいんですよ。それで、本題はなんだ?」
「それ渡したじゃないか?」
石田が楽しそうに言うが、山本が
「お前が、この程度のことで俺を呼び出すとは思ってないんだよ。他にも何かあるんじゃないのか?」
「いや、長い付き合いだと怖いねぇ~。
三橋教授が自殺したのは知ってるか?」
「はあ!?そうなのか?」
山本は驚きすぎて、いつもより大きな声が出た。石田は笑いながら、
「研究棟だから、もう少し静かにしてれよ。」
「いつだ?いつ死んだんだよ。三倒会じゃそんな話出なかったぞ。」
「三倒会に行ったのかよ、意外だな。
お前が事件解決した3週間後くらいだ。論文盗用で週刊誌に叩かれて、その後も影山何とかの件で後追い的に報道が過熱して、家にイタズラされるは、外で歩けば罵詈雑言の連続。耐え切れなくなって自殺したらしいな。」
「今回の事件に酷似してますね。」
黒田が言い、山本が
「その週刊誌ってどこかわかるか?」
「何だったかな、確か週刊晩夏だったかな。ふざけた名前だなと思うよ」
「警部、今回の事件の関連する週刊誌は全部そこです。」
黒田が言い、石田が
「そういえば、国会議員の自殺報道みたいなのがありましたね。それを調べてるんですか?」
「まあ、一応な。」
山本が答えたところで、ドアのノックする音が聞こえた。