第一話 始まり
「ううぅぅぅ。」唸り声とともに目が覚めた。白い天井とカーテンが見える。どうやら病院らしい。
「目が覚めた?お医者さん呼んでくるね。」ん?誰かいたのか、聞き覚えのない女性、いや、女子の声だ。誰だ?扉を開けたその後ろ姿は、白いカーディガンを羽織った女の人の姿があった。
「うっ。」頭に激痛が走った。包帯が巻かれているのは感覚で分かった。やけに頭がぼうっとする。と思ったらたまに頭に激痛が走る。どうなってんだいったい、、、
少しすると白衣を着た見るからに医者ですって感じな顔をした人が入ってきた。聴診器を当てて、一言、「体は問題ないようですね。」と言った。じゃあなんだ、俺は精神的に狂ってるとでも言いたいのか?
「はい、狂ってます。」と言わんばかりにその医者にいろんなことを聞かれた。簡単な挨拶から、ボールペンでひらがなを書け、だとか簡単な計算をしたりといろいろやった。どれも簡単にできた。まあイギリスの首都は?と聞かれたときにとっさに分からず、きっぱりと「日本ならわかります。」と答えてしまった時は看護師さんまでもががっつりふいてたことはしっかりと黒歴史として俺の頭に焼き付くことになったが。
はっきり言って、ここまでは自分の身に何が起きてるかわからなかった。頭はぼうっとするが、ただただ質問に機械的に答えてるだけ。だと思っていた。
しかし、「君、名前はなんていうんだ?」と言われた瞬間、わからなかったのだ。自分では全く気が付かなかったが、いわゆる記憶喪失ってやつだ。
「まあよくあることなんで、あんまし気にしなくも、、、」っておい。気にするだろ普通。
「あれだけの爆発に巻き込まれてこの程度で済んだのは良かったかもしれない。」最後にその医者が言い残した「あれだけの爆発」にも心当たりがない俺は困惑するばかりだった。
そうこうしているうちにさっきの女の人と連れ添うように男の人が診察室に入ってきた。こちらも同様知らない人物だったが、どうも目が気になるほど怖い。なんというか、何でも凍らせるような冷やかで突き刺さるような目といった感じだ。そしてそれを隠すように濃い灰色のフードを深くかぶっていた。
「彼が君が言っていたひとか。」それを聞いて驚いた。声が女の人のように高かった。よく見るとフードの中に長い髪の毛が隠れていたことに気づく。
「ああ、まあそうだけど。」女の人が返事をする。と同時に「君がねえ」と言わんばかりのキツイ視線がまた突き刺さった。この人たちは一体何なんだろうか。
そんなこと考える隙もなく医者は「少々脳に障害が残るかもしれませんし見ての通り今は記憶喪失も起こしています。それでも今は容体は安定してますし、一時帰宅の許可は出しましょう。」などと勝手に話を進めている。なんていう医者なんだ。おまけに一様本人にも確認をとか言いながら、いいよね、いいよね、っと言わんばかりの視線が来る。どうやらとんでもないところに来てしまったようだ。
俺はその、「一時帰宅」する家にも心当たりがなかったのだが、状況に飲まれて二つ返事で返してしまった。
そんなこんなでこの女の人二人に連れられ、退院することができた。退院おめでとうとか声をかけられたがそんな気分じゃない。むしろこんな悪運の強い体質におめでとうと言ってやりたいくらいだ。
車で小一時間ほど連れられ、「今日からここが君の家だ。」と言われた場所に入っていった。車の中でもあまり話をせずに、自分の名前が首にかけられていたプレートからバルキーノということやフードの女の人の名前がナナミ、白いカーディガンを着た方がタカネということ、そして彼女らはある人物を探していることを聞いた。あとはその人物を探す段階で俺の存在を知った事を聞いた。
そこまで話して、運転席から自称ナナミの父親、えっと名前はたしか真、七風真が話し始めた。
話っていっても、「お前にはある秘密がある」と「軍にはお前が必要」としか言われてない。
ちなみにその真さんの腕に付いている、見たことある気がした組み三つ巴の紋章は軍の何とか部隊のマークらしい。
少々町から外れた、山と森に囲まれた土地に、一件の建物があった。ガレージには大きめのバンが一台と、駐車スペースが一台分、真さんは器用にそのスペースに車を入れた。
「さ、ここが今日から君の家だよ~」
何やら含みがあるような言い方でタカネが建物に案内してくれる。俺の後ろにはナナミ、まるで連行される囚人じゃないか。
玄関に入ると、意外と中は広かった。
とりあえずリビングっぽい部屋に案内されソファーにでも座るように言われた。場所はそこら辺ということだったので、とりあえず二人と向かい合うように座った。
「おい、他は何してるんだ?」
完全に3歩ほど出遅れていた真さんが俺の隣に座りながら二人に聞いた。
「あ~バイト行ってんの1人と外行ったっきり戻ってこないのが2人、残りの1人は察して。」
めんどくさそうにナナミが答える。父娘というのはこういうもんなのだろうか。
「全く、しょうがないんだから。」
と半分あきれ顔のタカネが、重たそうに腰を上げて奥の部屋に行った。
「タカネは昔から面倒見がよくってね、バルキーノ、君が病院に運ばれた2日前からずっと、病院で君の看護をしてくれていたんだ。」
タカネを待っている間、真さんとナナミから、そんな話を聞いた。
「それと、真さんなんて固く呼ぶな、お父さんでいいよ、ここの人たちはみんなそう呼んでるからな。」
10分程待っていると、タカネが奥の部屋から出てきた。おそらく2日間徹夜だった疲れもあったのだろうが、完全に目が死んでる。そしてそれを見て、ナナミが呆れた顔で奥の部屋に入っていった。
「ぎぃあああああああああああ!!!!!」
10秒もしないうちに、まさしく断末魔の叫びが聞こえた。
俺の横では、タカネが「いつものことだから、そのうち慣れるよ。」と笑いながら言ってくれた。
お父さんは完全に開いた口がふさがらない。
「いやあ、待たせてすまないね。」
扉から出てきたナナミの後ろには、鉄拳制裁と書かれたTシャツを着た同い年くらいの男子が立っていた。