表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

一章 04 「俺は魔法が使えないだけ」

 予想外の事件が起こったが、おつかいはしっかり終わらせた。おつかいの内容は晩ご飯のおかずを買うというそれだけだった。

 予想外の事件とは言うまでもなく王女暗殺事件のことだ。

 事件後、お礼がしたいとのことで、赤上は王城に招かれることになった。三日後だそうだ。

 当然赤上は断ろうとしたのだが、なんでも王様が赤上に会ってみたいのだそうで、断れなくなってしまった。


「それでね! アニキ、すごかったんだよ!」


 晩ご飯、家族で集まってご飯を食べ始めたとき、ニーシャは開口一番に今日の事件について語りだした。

 悪い気はしないが、赤上はそれまでこの席に座っていたのだろうアクォス・グランドラグではないので、まずはそれを説明してほしいところだ。


「ニーシャ、それよりも先に説明すべきことがあるだろ?」


 だが赤上から言っても信じてもらえない気がするので、ここはやはりニーシャに説明してもらうべきだ。

 と思ったのだが、


「あ、そっか。王女様を暗殺しようとしたやつを見破ったところから始めないとアニキのすごさが伝わらないね」


 そこじゃねえ、とツッコミを入れようとしたのだが、ニーシャは既に話し始めてしまったため、止めようがない。

 赤上は寝ぐせでボサボサな自分の髪の毛を整えるように手でかきむしりながら、ニーシャの話の終わりを待った。

 同時に両親の顔を観察する。

 母親のローリア・グランドラグの顔は、やはり赤上の母親とは全く似ていない。

 温厚そうな目つきだが、顔立ちが全然違う。

 しかし不思議なことに、赤上には似ている。自分のそっくりさんを見ている感覚に近いのだろうか。

 父親のサイガも、妹のニーシャも同じだ。

 顔立ちや性格は全然違う。


「ほう、つまりアクォス。テメェはニーシャにかっこいいところを見せて、その後じっくり手を出していこうという算段なわけか」


 訂正、父親の性格に関しては赤上家の父親にそっくりでした。

 どうしてこう赤上の父親になる人間は娘と息子を差別するのか。


「なに言ってんだ親父。さすがに妹には手を出したりしねえよ」


「誤魔化しは不要だ。そんな悲劇が起こる前に俺がテメェを殺しておく」


「バカじゃねえのテメェ!? まだ何もしてないのに殺される俺の方が悲劇だよ!!」


「テメェとニーシャを比較してんじゃねえ。テメェ、自分にそんな価値があると思ってんのか」


「思ってるよ、当たり前だろ!! つかそれ自分の息子にかける言葉か!!」


「妹に手を出しかねないクズなど俺の息子じゃねえ」


「俺はなんもしてねえ!」


 予想以上の父親のクズっぷりにニーシャを見て助けを求めるが、ニーシャは両手を合わせて必死に何かを伝えようとしている。

 これが「ごめん、助けられない」というジェスチャーだとは死んでも思いたくない。

 ニーシャの助けがなかなか来ないので、今度はローリアの方を向く。

 ローリアは呑気にお茶を飲んでいたが、赤上の困り果てた顔を見て、口を開いた。


「黙れ、豚ども。引き裂くぞ」


「「すみませんでしたっ」」


 赤上とサイガは机に額をぶつけるようにして謝罪。

 てかこれ俺、何も悪くないよね? と思ったが、疲れたので訂正を求めるのはやめた。

 ローリア母ちゃん、温厚そうな目つきのくせに怖い。



「で、ニーシャ。俺の今置かれた状況について、説明しといた方がよくないか?」


「状況?」


 こいつ本気でわかってねえのか、と内心でイラっとするが、なんとか抑える。


「だからほら、俺記憶喪失じゃんか」


「あ! あー、さっきから言ってたのはそれのことか!!」


「なんで気づかなかったんだよ……」


 ニーシャのアホっぷりにガッカリしつつも、これでやっと話が進められる。

 両親の顔を伺うと、両親もなるほどといった表情をしていた。

 やはり、赤上の受け答えに違和感を感じていたのだろう。


「なんかアニキ、記憶喪失になったんだって」


 ニーシャは、そう切り出した。





 ニーシャが一通り説明し終えると、やはり両親は落胆したように肩を落とした。


「まぁ、あんなんでも息子だったからなぁ」


 サイガはそう言う。

 やっぱり息子に対してあんまりじゃねえ?という疑問は喉まででかかったが飲み込んだ。


「魔法の勉強、毎日頑張っていたのに。つかえない子ねぇ」


 ローリアはそう言う。

 それって落胆というか期待外れとかそういう方向じゃない? ひどくない? という疑問もやはり飲み込んだ。




 両親も赤上の状況について納得したようなので、とりあえず赤上は風呂に入ることにした。

 この世界に風呂があるのには驚いたが、改めて考えると自分の身体を綺麗にしておきたいと考えるのは普通かと納得する。


「はぁー……」


 身体を洗い、ため息とともに湯船に浸かる。

 ちなみに風呂は、火炎石という魔法付加アイテムで火を起こし、湧水石という魔法付加アイテムで湧いた水を温めるという原理なのだそうだ。

 余談だが、この世界では生活の内の大抵のことが魔法付加アイテムの組み合わせでできるので、電気代や水道代といった概念がない。


「異世界、かぁ」


 赤上は気づいたら異世界にいた。

 こんなことがあるのだろうか。

 赤上の読んでいた小説なんかでは足元に急に魔法陣が現れただとか、何者かに殺されただとか、きっかけと呼べるものがあるはずだ。

 それに限って赤上の場合は、しいて言うなら部屋から出たことくらいだ。しかしそれくらいなら誰でもやっていることだし、赤上も今まで何度も部屋を出た。

 直接的なきっかけだとは言いづらいだろう。


「これから、一生ここで暮らすのかよ……」


 赤上は確かに異世界に憧れを抱いていた。

 しかしそれでも、今まで遊んできたゲームや毎日のようにいじっていたパソコンがなくなってしまうと、それはそれで嫌だ。

 我儘だと思われるかもしれないが、人間とは本来そういった生物なのだ。

 なくても大丈夫だと思っていても、いざなくなってみるとやりたくなる。そんな生物なのだ。

 帰りたいと思う。

 異世界に来て早々だが、今まで育ててくれた親や妹、幼馴染のいない世界で死ぬのは嫌だ。

 自分の育ってきた世界で一生を終えたい。


「待てよ、俺って魔法でこの世界に来たんだろ?」


 希望が見えた気がした。

 自分が魔法で世界を移動したのだ。


 なら、その逆ができないのはおかしくないか?


「世界を移動する魔法が実現できるなら、自分の力で帰れるんじゃねーか?」


 そうなると俄然やる気が出てくる。

 今すぐにでも基礎的な魔法くらいは会得したいところだ。

 できるなら、魔法学校のような教育機関なんかに入学したい。

 幸い、赤上の部屋(元アクォスの部屋)には魔法関連の本がたくさんあった。それで勉強しよう。


「よーっし! 今すぐやるぞぉー!」


 赤上は風呂からガバッと上がり、自室へ走っていった。





「魔法を使おうとしたんだけど、なんか本の理論通りにやっても魔法が発動できないんだよ」


「はいはい原因を調べてほしいと」


「話がはやくて助かる」


 赤上は風呂から上がったあと、自室へ駆け込み、魔法の本を片っ端から漁った。

 そうして魔法の発動方法について書いてあるものを集め、読み、使って見たのだが、なぜか魔法は発動しなかった。

 そしてなにが違うのかがわからなくなった赤上は、家族で唯一の常識人であるニーシャに聞くことにした。


「じゃ、一回やってみてよ」


「おう」


 赤上は水の魔法を発動しようとした。

 頭の中で水の形をイメージし、さらに自分の中の魔力をその形へと変化させるイメージを固める。

 イメージが固まったため、詠唱する。


「ミルウォータ」


 しかしやはりなにも起こらない。

 ニーシャは眉をひそめた。


「ちゃんと理論通りにできてるけど……なんで発動しないの?」


「それを聞きたいんだけど」


「うーん、じゃとりあえずアニキの状態見して」


 この世界は魔力の残量や現在の健康状態を全て魔法で見ることができる。

 医者なんかが使う初歩的な魔法だ。

 これを使えば、素人でもかかった病気の名前くらいはわかるし、医者も処方を間違うことがない。

 ニーシャは俺の頭を軽く撫でるように触れ、詠唱した。


「ミルステータス」


(なんかこの世界の魔法の名前、あんまかっこよくないな……)


 ニーシャが魔法で赤上の状態を確認している間、当の赤上はそんなことを考えていた。

 するとニーシャが驚いたように目を見開いた。


「え、嘘!? なんでアニキ魔力がないの!?」


 と言われても首を捻ることしかできない赤上であった。



 なんでも赤上にはそもそも魔力の項目自体がないようだ。

 魔力の残量がないどころか、そもそも魔力がない。

 これでは、魔法は絶対に使えない。


「はあ? いや待てなんでだ」


「わかんないよ……」


 ニーシャも困っているようだ。

 しかしそれでは赤上も困る。

 それでは赤上が元の世界に帰れないのだ。


「いや、マジで!? 使えないとマズイんだって!」


「そんなこと言われたって……」


 こんなイレギュラー、見たことがないのだろう。

 対処に困っている。

 なにか他に方法はないだろうか。

 魔力を持っていない人間が元の世界に帰る方法は。


「あ」


 そこで閃いた。

 なにも、自分で魔法を発動する必要はないではないか。

 どこか教育機関かなにかで知り合った人にやってもらえばいい。

 他力本願極まりないが、今の赤上ではそれ以上の答えが出ない。


「じゃ、ニーシャ。なんか集団で勉強する場所とかない?」


「魔法の勉強? 魔法学校っていうのがあるけど……」


「よし、そこに入学する」


「え?」


 魔法学校なら、やってくれる人が一人くらいはいそうだ。

 絶対に入学しなければ。


「いや無理に決まってんじゃん。実技試験どーすんの」


 ニーシャに真顔で言われた。

 いい考えだと思ったのだが。


「うーん……。あ、そこは王様になんとかしてもらおう」


 せっかく命懸けで王女を助けたのだ。それくらいは望んでもいいだろう。

 ニーシャは「うわぁ……」という顔をしているが視界からシャットアウト。

 赤上は、とりあえず基礎的の魔法の勉強を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ