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過去と現在

天童や井瀬の調査で夜見川市で起こる現象の引き金が27年前に火災で亡くなった男子生徒をいるものとして扱った事だと解明される。

一方宮瀬はSITや捜査室を離れ一人事件を調べていた。やがて捜査室がH15年度に近付いたとき、衝撃の判断が下される―

「すまない。全員この事件から手を引いてくれ。後は私が調査する」


この宣言から一週間後、捜査室に新たな事件が飛び込んでくる。

H15年度夜見川中学三年三組だった生徒が殺されている、情報の手がかりを失い途方に暮れるメンバーに新たな追い討ちが。

疑惑に駆られるメンバー達は宮瀬真咲の過去を調べだす。


誰も知ることのなかった過去が明かされる時、黒幕が動き出すー


特別捜査室が夜見川市内で起こる不可解な現象の解明に乗り出してから三週間。

難航すると思われた調査はメンバー達の賢明な捜査によって情報が導き出されていた。


宮瀬「…小池君」

小池「どうした?」

宮瀬「…この事件から手、引いてくれない?」


このままいけば私が関わっている事は間違いなく明るみになってしまう。

それはどうしても避けたい。

「桐谷未咲」としての本能が危険信号を発していた。


小池「何をバカなことを。情報だって上がってきてる。もう少しで現象の根本的原因ぐらい解明ー」

宮瀬「…それを解明されると困るんだ」

小池「何か言ったか?」

宮瀬「ううん。今SITで調査してる案件がね、どうもこっちで引き受けてる事件と関係があるらしいの。ただそれだけ」


SITが抱えている不可解な連続殺人事件ーそれは夜見川市内で発生する現象が大きく関わっていると木島係長に報告したのは私だ。

特別捜査室設置前とはいえ、類似点が多く見られる今回のケースは珍しい。


小池「…未咲がそうしてほしいならそうしよう」

宮瀬「篠崎は間違いなく反対するだろうな。それと名前で呼ばないで、聞かれたらどうするの」

小池「その時はその時」

宮瀬「…いつその時が来るか分からないけどね」


その時はきっと来ない。心の何処かでそう思っている。

この捜査室が解散して今まで通りの日常に戻っても、きっと来ない。

今はまだ賭けていてもいいのかもしれない、1%残るか分からない可能性に。


篠崎「入るぞ」

宮瀬「ノックぐらいしたら」

篠崎「忘れてた。同期のよしみだ、大目に見ろ。で、話ってなんだ」

宮瀬「篠崎主任。この案件から手を引いてください。残りはSITが引き受けます」

篠崎「ちょっと待て。27年前の火事で死んだ生徒をいるものとして扱った結果今起きている現象が始まったんだ。それは会議でも報告したはずだ。

   あと少しで現象の被害から残った人達を遠ざけられるんだ。元三年三組の生徒や教師も捜査に協力すると話してくれた。お前はそれをー」

宮瀬「元三年三組…もうそこまでたどり着いたって事…」

篠崎「天童や恒守、井瀬、大神の努力を無駄にするならいくら同期でも許さない」

宮瀬「なら私の過去でも暴けば?」

小池「…未咲」

宮瀬「H14年度までたどり着いたんでしょ。このまま次の年まで調べればいいじゃない」

篠崎「疑念の眼は全部お前に向くぞ。いいのか」

宮瀬「どうせ解散したら責任は室長がとらなきゃいけない。勝手にして」

小池「あのな篠崎。未咲にも理由はあるんだ。俺達には言えないような理由がさ、そこは察してもらえないかな」

宮瀬「誰か助け舟を出せって頼んだ?」

篠崎「お前の理由が何だろうと俺達は独断で捜査を進める。協力を申し出た三年三組の連中にも会いに行く。それが俺の判断だ」


篠崎の言いたい事は痛いほど分かる。刑事として当たり前の感情。それは自分の身を引き裂くもの。

その信念を貫き通しているからこそ自分達のやるべき事が正しいと思うのかもしれない。


小池「篠崎だって本当は分かってるはずだよ、未咲が考えてる事、言えないような秘密がある事」

宮瀬「信じたい気持ちはある。あとは小池君次第だからね、篠崎につくか私につくか」

小池「俺が篠崎についたらどうする」

宮瀬「その時はその時。しばらくここには来ないから、あとよろしくね」


未咲は何を隠しているのだろうか。交渉課にいた時も彼女はすごく遠い場所にいるような距離があった。

僕より年下なのに大人びて見えて。それでいてどこか冷たい目をしている。

未咲、君は僕達に何を隠しているんだ。それは君の過去とー


暗く冷たい廊下を一人歩く。時刻はすでに7時を過ぎているのだろう。このフロアには誰もいない。

携帯を取り出し時刻を確認する。夜8時35分、この時間なら運び出しても言い訳は出来る。

木島係長には許可を貰っている、周囲の目を気にしながら拳銃保管庫へ歩みを進める。


宮瀬「4266…ここか」


木島係長から預かった鍵をロッカーへ差し込む。電子音の後静かにその扉が開く。

慎重にオートマチック式拳銃とカートリッジ、サイレンサーを取り出す。

足元に置いた鞄の中へそれらを放り込む。再度鍵をかけその場を去る。その帰り際、捜査室から降りてきた小池君と一緒になる


小池「あのまままっすぐ帰ったのかと思った」

宮瀬「木島係長に渡さないといけないものがあったから」

小池「明日から来ないってどういう事だ。どこか具合でもー」

宮瀬「ちょっと用事があって顔を出せないだけ。心配しないで具合が悪いわけじゃないから」


少し前まで桜田門駅で別れていた。小池君は新木場方面、私は霞が関駅へ。

同じ方面へ帰るのに桜田門駅前で別れるのはおかしいと小池君が言いだし、現在に至る。

けど今日だけは霞が関駅まで送ってもらったのだ、用事があるから一緒に帰れないと。


宮瀬「用事終わったら連絡するから。ごめん、一緒に帰れなくて」

小池「分かった。鍵は空けとこうか?」

宮瀬「警察官らしくない行動だなぁ。鍵はかけてもらっていいや、スペアキーは持ってるし」


鞄のポケットから鈴のついた鍵を取り出す。正確には猫の顔をモチーフにした根付がついている

一年ちょっと前に渡されたものだが、何を意味するのかぐらいは分かる

後ろ姿を見送り、霞が関駅の改札へ滑り込む。もう後戻りはできない、と心に決めて。



天童「どういうことですか、手を引けって」

恒守「室長は何を考えているんです、あと少しなのに」

大神「篠崎主任、何か室長から聞いてないんですか」


出勤早々質問攻めに引っかかった。どうやら昨夜の会話を恒守が聞いていたらしい。

小池は非番なうえに宮瀬からは「用事があっていけない」とメールが来た。

さてどうするーと思った直後、木藤と加瀬課長が飛び込んできた


加瀬「篠崎、宮瀬はどこだ」

篠崎「宮瀬なら今日はというかしばらく来ませんよ、用事があるとかで当分来れないと今朝メールが」

加瀬「くそっ、何がどうなっている」

大神「一体何がどうなったんですか」

加瀬「宮瀬がいないという事は小池も来てないのか」

篠崎「小池なら今日は休みっす。あいつ非番ですから」

加瀬「大至急小池に連絡を取れ。それ以外のメンバーは…宮瀬真咲の過去を洗え」


瞬間捜査室の空気が凍りつく。俺は思わず言葉を失った、違う、声が出せなかった。


篠崎「ちょっと待って下さい、どうしていきなりー」

加瀬「昨日拳銃保管庫から一丁無くなった。朝木島係長が報告に来た」

篠崎「拳銃が無くなったのと宮瀬の過去に何の因果があるんですか」

木藤「実は…その…拳銃を持ち出したのは宮瀬警部なんです」


嘘だろ…宮瀬がどうして拳銃を…

俺は捜査室を飛び出し小池に電話するが出ない。くそっ何がどうなってー


天童「宮瀬警部が拳銃を持ち出すってそんな事あるんですか」

井瀬「木藤先生まで口を揃えるんだ、それが事実なんだろう」

恒守「夜見川市の案件から手を引けって言ったり、拳銃を持ち出したり。もう訳が分かりませんよ」

大神「あと少しで解明できると思ったのに…」

天童「やはりあの噂は本当だったって事ですね。宮瀬警部が名前のない怪物だっていう事が」

恒守・大神「え…?」

天童「警視庁刑事部には名前のない怪物が存在して数々の事件を解決している、それも非合法な手段を使って。あれって宮瀬警部の事だったんですね」


宮瀬は確かに「名前のない怪物」と陰で呼ばれているが非合法な手段を使って事件を解決したとは聞いていない。

上層部の御前会議にはしょっちゅう呼ばれる宮瀬だけど、それはあくまで「特別捜査官」としての意見を聞かせるためにー


天童「篠崎主任はよくご存じですよね宮瀬警部の事を。同期なんですよね、小池警部補とも」

篠崎「知っていたのか」

天童「隠さないところを見るとそうなんですね。主任が止めないのなら宮瀬警部の過去を調べさせていただきます」

篠崎「調べるのは勝手だがお前達にその先の真実を受け止められる覚悟があるならそうしろ」



旧夜見川中学校校舎。旧とついているのは私が卒業した後、夜見川中学と夜見北中学が統合したからだという。


木ノ瀬「よせ桐谷。俺達が何をしたっていうんだ」

宮瀬「木ノ瀬先生、貴方に質問を許可した覚えはありませんが」


私が追いかけているのは三人。元担任と元クラスメート。

それ以外は自殺や事故に見せかけて私が殺している。

彼らは「ミサキ」という名前だけで私をいないものに決めた張本人だったから。


吉川「桐谷さん、君だって協力すると決めてくれたじゃないか。それを今更蒸し返されるとは筋違いにも程がある」

近衛「木ノ瀬先生は逃げてください。先生は天童っていう人と約束したんでしょ!あの時の事を話すと」

宮瀬「…そう。あの人たちに全てを話して、自分達だけ生き延びようっていうの」

木ノ瀬「俺が桐谷を止める。お前達は井瀬刑事に連絡をー」


拳銃を構える。今まで通りの日常に戻れない事も嫌と言う程分かっている。

迷わずトリガーを引く。銃弾は間違いなくヒットしたはず。

夏休みの合宿で生き残った生徒は20人、今日までに10人はもういない。


宮瀬「木ノ瀬先生。貴方は最後の一人になった時消します。あの二人の居場所を教えて下さい。でなければー」


再度トリガーを引く。悲鳴が誰もいない校舎の中に響き渡る。

そう、私がしたかった復讐はたった一人の親友をこの手で撃った時から始まっていた。



昼休み。再度宮瀬の携帯にかける。二度目のコールの後冷たい声がした。


篠崎「宮瀬!拳銃を持ち出して何をしている。というか今どこだ、今から小池と迎えに行く」

宮瀬「来ない方がいい」

篠崎「天童達がお前の過去を調べ始めている。それでもいいのか」

宮瀬「構わない」

篠崎「加瀬課長がSITと捜査一課で動き始めている。俺も小池もいずれは徴収される。その前にお前の真意を聞きたい」

宮瀬「真意ならない。どうしても会いに来るなら止めない。場所は港区台場の廃倉庫」


いつもの宮瀬じゃないと直感で分かった。何かが違うーそう思った時には指定された場所に向かっていた


篠崎「何にも聞いてないんだな」

小池「未咲が言わないなら何も聞かない事にしてるからね」

篠崎「あいつ、お前と別れるつもりだぞ。捜査室で扱ってたあの現象、確か「ミサキ」って名前の生徒が死んだから始まったって…」

小池「それ以降の三年三組では苗字もしくは名前がミサキという生徒を卒業するまでの間いないものとして扱う。中にはその役割を放棄した年もあったとか」

篠崎「桐谷未咲もいないものとして扱われた。けどなH15年度の三年三組にはもう一人ミサキがいた。見崎明日香という名前らしい」

小池「未咲から聞いた。たった一人の親友だって」

篠崎「一昨日の晩にその見崎鳴が射殺された。撃ったのは間違いなく未咲だろうな」

小池「一昨日の晩って未咲が保管庫から出てきた日だ。あの日は確か…霞が関駅前で別れて…その足でもう一人のミサキを…」

篠崎「二人のミサキが同じ年度に三組にならなければこの悲劇は起きなかったんだろうな」


拳銃を持ち出してから早四日。最初にあの子を殺したのは正解だと思い始めていた。

その時ドラム缶の上の携帯が鳴る。送信者は木藤隆太。残る10人の住所を調べてくれないかと連絡したのだ


宮瀬「吉川瑞希、近衛恭介、牧田章吾、神崎美緒、渋川彰良、泉谷裕佳梨、桜庭友紀…考える事は同じか、台東区と豊島区、新宿区。全部都内じゃない」


警視庁管内で殺人が起これば警視庁―捜査一課が捜査にあたる。特別捜査室のメンバーも徴収されるだろう

四日前に持ち出された拳銃、持ち出したのは現職の警察官、そして名前のない怪物


恒守「H15年度の三組、どうして二人もいるんだろう。ミサキって名前が」

大神「え?」

恒守「桐谷未咲と見崎明日香。でもいないものとして扱われたのは桐谷未咲で見崎明日香じゃない…」

井瀬「そういえば篠崎主任が室長を「未咲」と呼んでたな」

天童「宮瀬真咲と桐谷未咲が同じ人物…加瀬捜査一課長なら全てを知っているはずー」



俺は宮瀬真咲と桐谷未咲が同一人物である事を知っている。

特別捜査官として警視庁に入った桐谷未咲を殺したのは俺だった。

そして俺と桐谷未咲は血の繋がっている親子である事も水嶋刑事部長以外は知る由もない。


ノックの音。書類から目を外すとそこには水嶋刑事部長が立っていた


水嶋「未咲君絡みかな」


いきなりの直球な質問に、俺は頷くことしかできなかった


水嶋「桐谷未咲が宮瀬真咲となったあの日、父親である君は何をした。覚えているね」

加瀬「はい」

水嶋「昨夜豊島区のアパートで近衛恭介が殺されているのが発見された。犯行時刻は9時から10時の間。宮瀬警部は拳銃を所持しているそうだが…」

加瀬「水嶋部長、もう少しだけ待っていただくわけにはいきませんか」

水嶋「上層部も未咲君の行方を捜している、彼女は警視庁刑事部に必要な人材だ」

加瀬「それはそうですが…天童達が未咲の過去を調べています。小池警部補も篠崎警部も知らなくて済む事なんです」

水嶋「君が許可をしたのかね」

加瀬「いえ。恐らく篠崎警部も了承していないはずです。となると天童達の意思でー」


未咲君は非常に優秀な警察官だ、今彼女を失えばどうなるのか分かったものではない。

私や上層部は彼女の存在を守るために、今まで彼女を遠ざけ虐げてきた。

彼女が小池警部補と付き合い出した、と聞いた時には安堵したことを覚えている。


お台場。昔は空き地だらけだったこの場所もショッピングモールやアミューズメント施設が立ち並びデートスポットとして有名である。

だが再開発の結果一部の区画は廃棄されており、明暗をものの見事に表していた。

未咲が指定した場所はそんな廃棄区画の中心だった


小池「本当にこんなところにいるのか」

篠崎「本人がいると言ったんだ。間違いないはずー」


篠崎が振り返ったその場所に未咲がいた。白いシャツには血がついていた。

右手にはオートマチック式の拳銃ー一昨日保管庫から持ち出したものだろうか。

だがその目を冷たい。まるでー


篠崎「帰ろう、もう止めにー」

宮瀬「篠崎…小池君…」

篠崎「もういいよ、未咲が苦しんでいるのを見るのはもう嫌なんだ、だからー」

宮瀬「…もう戻れないのは嫌と言うほど分かっている。だからー」

小池「未咲…」

宮瀬「もう…止まれないんだ!」

一話を読んでくれた中に「台詞の前にキャラの名前を書かない方がいい」という意見がありましたが、この「Real≠Answer」は“ボイスドラマの脚本”としての側面を持たせた作品でもあるんです。

純粋にストーリーを楽しみたい方には不服かもしれませんが、何卒ご理解を。

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