追われる
「しっかしなぁ……青い鬼が出てくる奴みたいになんで鍵が掛かってるんだ?」
二階にある、『保健室』と書かれた部屋のドア(引き戸だ)をガチャガチャ遣りながら言う。
どうやらこの学校は五階建てらしい。一度、階段を一番上まで登ってみたから間違いは無いだろう。
しかし……あれほど、鼓膜が破れるんじゃないかと思う程に鳴り響いていた音がピタリと止んでいる。しかも。
「……開かない」
窓が開かないのだ。窓の鍵を開けようとしても開かないし、元々鍵が空いている窓でも何かが詰まったようにガタガタ言うだけで開かない。一度、ここまで開かないならと窓を割ってみようと試みたが、無念。拳が痛くなっただけだった。
「こう開かないとやっぱりフラグ立てないといけないのかなぁ……」
と、現実離れした事を言う俺。言ったからと言って、何が起こるという訳でもないのだが。
「……音も無くなったし、一回外に出るか。……ここ、なんか出そうだし」
その予想が後に当たることになるのだが、今はまだ知らない。
俺は元来た道を戻って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一階への階段を降りている時だった。
ゴリ。ズチャ。
「?」
十三段ある階段の二段目。俺は堅い何かを踏んだ。しかも、踏んだ後に油を踏んだように滑る。
「これは……!」
暗くなった中、目を凝らし踏んだ物の正体が見る。
「……う……あ…………」
見たくなかったが見えてしまった。
見えたのは人の死体だ。
なんと気持ち悪い事だろうか。男性と思われる死体は血まみれになっている。
目は片方しかなくもう一つは潰れ、両腕はあらぬ方向に曲がっている。肉は腐り、辺りに耐え難い異臭を撒き散らし、腹部は裂かれ、大量の血の中から内臓が見える。
さらに、両脚の太ももに刃物のようなもので刺された後があり、血が固まっている。
死んだら皆そうなるのか、あたりには陰部から漏れたと思われる黄色い液体もあり、肉の異臭と混ざり気持ち悪さを増させている。
「う……が……!!」
未だに見たこと無いグロテスクな光景に俺は吐いた。
胃の中の物を全てだそうとする。
一度、吐き気が収まったがもう一度、またもう一度と襲ってくる。
三度目には胃の中の物も無くなっており、胃液がひたすら出た。
「はぁ……はぁ…………ふぅ……」
死体と自身の嘔吐物に触れないよう、なるべく遠くの階段に座る。そして、自身が落ち着くまで待った。
「……もう見たくない……」
なるべく思い出さないようにしたい。血とか、内臓とか、……そもそも死体なんか現実で初めてだ。ゲームは別だが。
「……早く戻ろう……」
そう言って立ち上がり、玄関へ向かった。
その時、ゴトッ。と、死体が動いたが、柚木は気づかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
玄関に着き、ドアを開けようとする。
「……やっぱり……」
薄々勘づいてはいたことだが、まさか本当になるとは。
「出口開かず……フラグ立てろってか?」
さっき嘔吐したとは思えない事を言う俺。
はぁ……と溜め息をつき、後ろを振り向いたとき。
「ッ!?」
先程の死体が居た。
グゥゥと息を漏らしながら俺を見ている。そして。
ガッ!!
腐った両腕で、俺の両肩を掴んでくる。
「うっ……!!なんだこいつは!?」
掴んでくる両腕を掴み離そうとする……が、以前人間とは思えないほどの力であるため、離せない。
更に、死体は俺に噛みついてこようとしてきた。
俺を殺そうとしてるのだろうか。そんな思いが過ぎり、慌てて足で死体の足を払う。
すると、ドシャッ!!と言う音を立てて倒れた。
「……よし、早く逃げ――」
と逃げ、階段を駆け抜け、先程までいた二階に逃げ込もうとする……がしかし。
「ッ!?此処も……てかなんで死体が走るんだよッ!!」
二階の奥の廊下から死体という死体が大量に走ってくる。
余りに大量なため、廊下にドンドンッ!!と音が響く。
「くそ!?なんでこうなるんだ!!」
隠れる場所が無いか探すべく、死体から逃げながら俺は三階へと階段を駈けた。