『死』
何か、忙しいような……。
「アハハハハ!!」
そんな狂気しか感じられない笑い声が響く。ずっと聞いていたら頭が痛くなりそうだ。
「柚木……俺を置いて早く逃げろ」
カグツチが言う。
「は?何で――」
「いいから早くしろッ!!」
「ッ!!」
事情はよくわからないが、顔を怒りでそめたカグツチが言った。
「分かった。なにがなんだかよく解らないけど……死ぬなよ」
そう言って、俺は走り出した。
走り出した時、カグツチが何かを呟いたが、それは柚木の耳に届く事は無かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
柚木が走り出した時、俺は覚悟を決めた。
「はぁ……。俺死ぬかもな」
相手は神の中でも最悪なアンリ・マンユ。はっきり言って、足止めすら出来そうにない。
「しかし、何故あいつは柚木を……?」
俺が狂気に満ちたあの場所を火で消し飛ばした時、姿を現していたあいつは柚木を殺気を込めた目で見て笑みを浮かべていた。何かを感じたのかどうかはわからないが、あいつは柚木を狙っている。……そんな気がした。
自分の思考にふけっていると、土しか無くなった場所の中央の空間が歪んだ。
「おいおい、余計な事してくれるじゃないか?」
そんな声と共に、空間の歪みから一人の女性が現れた。
女性は、顔こそ人間でいう童顔だが、真っ赤……血の色と言った方がいいだろう。血の色に染まった髪を腰までたらしている。
そして、所々血のような物で染まった真っ白なフリフリなドレスを着ている。
「アンリ……マンユッ!!」
俺は、少しながらの抵抗とばかりにアンリ・マンユを殺気つきで睨みつける。
人間なら、俺より下位の存在の神なら即気絶するのだが、アンリ・マンユは馬鹿にしたように笑った。
「そんな睨むなよ。俺が用事あんのは柚木少年のほうだぜ?」
アンリ・マンユは笑う。そして、俺の横を通り過ぎようとした。
「何で柚木を……?」
「あぁ?決まってるじゃねえか。あいつには神になる素質があるからな」
やはり……カグツチは小さく呟いた。
「だが、カグに勝手に神するのは禁止され「俺は『最悪』の神って事、わすれてねぇか?」……」
やばい。俺までやられそうだ。はっきり言って、こいつと俺とでは格が違いすぎる。
……逃げようか。そう思った時だった。
「ま、あいつは俺と一緒に連れて行くわけだからな。俺が閉じ込められていた『あそこ』に一旦放置するが」
「っ!!」
奴の言った『あそこ』。地獄の事だ。しかも、ただの地獄じゃない。入った者の最も恐怖する所に形を帰るのだ。
神ならともかく、並みの人間が入ったら1日と持たないだろう。
しかし……なぜ柚木を其処に放置するのだろうか。ただ神にするなら違う場所でもいいはず。
……考えてもしょうがない。
「(まずは柚木を守るためっ!!)オイ」
「あぁ?」
アンリ・マンユが振り向く。と、同時に。
ガッ!!
アンリ・マンユの顔面を殴った。
グルグルと回りながら、吹っ飛んでいくアンリ・マンユ。そのふっ跳びは、一本の太い大木にあたるまで、止まらなかった。
「(やったか?)……っ!?」
ただならぬ雰囲気を感じ取り、とっさに頭を下げる。
ビュン!!
目にも留まらぬ速度で、頭があった場所を何かが通り過ぎる。
「あぁ……避けちまったか」
後ろを振り向くと、めんどくさそうに頭を書いているアンリ・マンユがいた。
そして、首をコキッ、コキッと鳴らし言う。
「覚悟は出来てんだろうな?」
すると、突然。後ろ約二メートルの間があったはずだが、目の前にアンリ・マンユが転移した。そして。
「ガッ!?」
突然、腹を殴られる。そして。
ビリッ!!
何かが破れる音がした。
「ーーッ!ァァァァァァァァァァ!?」
俺は、突然襲った激痛に声を叫ぶ。
状況が理解出来なく、しかも激痛でパニックな中、俺はアンリ・マンユをみた。
「あ……が……」
何故、激痛が走ったか分かった。
アンリ・マンユが俺の腹を白く、細い筈だった腕で貫いている。
すると、アンリ・マンユが狂気に籠もった笑い後声をあげる。
「アッハハハハ!!気分はどうだぁ?神様様よぉ!!」
「うっ……」
突然、アンリ・マンユが腕を引き抜いた。
その反動で倒れた俺は、腹を押さえる。
クチャ……クチャ……。
激痛で身体がちゃんと動かないの中、俺はアンリ・マンユを見上げる。
アンリ・マンユは、貫いた時についた俺の肉片を咀嚼していた。
「クチャ……クチャ……。うん。やっぱり神は人よりうまいなぁ……そう思わないかよぉ?」
アンリ・マンユは、血でどす黒く汚れた腕を舐めながら言う。
「き……さま……!」
せめての抵抗と、アンリ・マンユを下から睨みつける。……必ずの復讐を心に刻みつけて。
しかし、そんな俺の抵抗もアンリ・マンユには効かない。
「お?いいねぇ、その眼。……いつまで耐えれるかな?」
次の瞬間、俺の両腕が切り落とされた。
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
切り落とされた部分から血が溢れ出る。普通の人間ならここで死んでいたが、悲しいことに。俺は神だ。生命力が尋常じゃあない。俺は、苦しみから解放されなかった。
「う……が……あ……に……にげ……」
俺が呻きながら、何とか足だけで立ち上がろうとすると、アンリ・マンユは「チッ」と舌打ちをした。
「あぁ……まだ動けるか。……五月蝿いし、舌もきるか」
と、そうアンリ・マンユが言った瞬間、俺の両足と舌が切り落とされた。
立ち上がっていたため、俺の胴体は大量の血をまといながら宙を舞い、ドサッと地面におちた。
「ーーッ!!ーーーーッ!!」
舌が切り落とされ、痛みで叫ぶ事もできない。そんな様子をアンリ・マンユは切り落とした舌をクチャクチャと音を立てながら咀嚼しながら言った。
「あー……もういいや。あきたし、お前、もう逝け」
手足を切られ、舌も切られた俺をゴミのように睨みながら俺の頭に拳を振り下ろさんとする。
この拳が俺の頭に届いたら、俺は死ぬんだろうか。
というか。死ぬってなんだ?
余りにも長く生きたから、『死』という概念を忘れかけてたのかもなぁ……。
そんな事を思いながら、ゆっくり目をつぶる。
……が、目の奥に、ある少年の姿が現れた。
たかが、1日しか居ないのに守りたいという気持ちが溢れるのは何故だろうか。
……ここまであっという間に抵抗できなかったが最後ぐらい…………。
グチャ。
俺は意識が無くなった。
そして、アンリ・マンユの笑い声が世界に響き渡ると共にグチャッグチャッと言う音が鳴り。
ここには正体不明の死体が残されてるだけだった。
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とりあえず、カグツチのいた方向から 反対に逃げていたとき、何者かの笑い声が響き渡る。
「カグツチ……なんか危ない雰囲気だったけど大丈夫かな……ん?なんだこれ?」
何か腕に幾何学的なもようが浮き出てきた。
思わず、走っていた足を止める。
「カグツチ……ま、大丈夫だよな。後で合流すれば」
そう言って、俺はまた走り出す。
しかし、カグツチとあうことはもうない。
証拠に、柚木の腕に出てきた幾何学的な模様がそうだ。
それが、カグツチが残した唯一の遺品。彼が心から守りたいと思った者への守護の証。
しかし、悲しいことに。柚木がそれを知るのは、遥か後になるのだった……。
次回投稿時期不明謝罪m(_ _)m