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とある不運な少女の話

作者: 水瀬

 とある最低な女の話をしましょう。


 その女は本当に自分勝手で、自己中心的で、どこまでも愚かな女でした。やりたい通りに動いて、そうしてどうしようもない状況になってから、しまったと焦るような、考えの浅い女でした。

 本当に馬鹿でしょう?そう、本当に馬鹿な女でした。

 女はですね、ごく普通の人生を歩んだ女でした。

 別に不幸があったわけでなく、普通に生きて、普通に人と関わっていた人生でした。まあ普通の人生でしたので、当然人間関係に疲れたりとかもあったわけですけれど。

 人間関係って、大人になればなるほど純粋なものって減りますよね。利害とか、色々絡んじゃって。物語の中みたいに、本当にずっとずっと愛してくれて愛せるような関係なんて、ありはしないのです。悲しいことに。

 そんな女性がいたんです。


 ああところで、生まれ変わりって概念、知っていますか?輪廻転生とも言いますよね。あら、不思議そうな顔。貴方は分かるんですね、やっぱりあの国の生まれでしょう?もしかしたらご近所さんだったかもしれないですね。

 そんな女性はですね、平凡に生きて、平凡に死にました。けれどもそれからが平凡ではありませんでした。彼女は、生まれ変わったんです。文字通り。

 女性が生まれ変わった世界は、時代どころか常識も何もかも違う世界で、元から空想や読書が好きだった女性は思ったのです。まるで物語のよう、と。

 そうして、思ってしまったのです。これなら、自分を愛してくれる存在が手に入るかもしれないと。


 女性は所有欲や支配欲がが人一倍強かったのですね。自分だけのものが欲しかったのです。前世で彼女が子を得る前に死ねたのは、その子供にとっては幸せかもしれないです。だってきっと、幼少時からコントロールしてしまったでしょうから。

 そんな女性でしたので、生まれたばかりの混乱も落ち着いて思ったのは、ちょっとした挑戦心と、欲でした。

 それが向いたのは彼女の弟。彼女の身近で、接点も多く、年端もいかない素材はそれしかなかったので。

 思い立ってから女性はその弟に愛を注ぎ続けました。話しかけられたら笑顔で答え、話を聞いて、抱きしめて、傍にいるわと囁いて。愛してもらうためだけに、愛を注ぎ続けました。結局、自己中心的な愛だったのです。綺麗な愛なんかじゃ、ありませんでした。

 でも弟は、環境ゆえか愛に飢えていて、またきっと幼さゆえに見分けられなかったのでしょう。その愛に縋りました。

 女性の後ろを付いて周り、何よりも姉が大事だと無邪気に笑う弟に、女性はただただ喜んでいました。

 想定外の方向に進んでしまっていると気が付く日までは。


 本当に、考えの浅い女です。

 人の愛という感情を、侮っていたのです。

 だって女性は今までそこまでの愛に出会ったことがなかったのですから。知らないものを想像するなんて無理だったのです。そうでしょう?まあ、言い訳ですが。

 女性と弟は仲睦まじく成長しました。そうしてある程度成長したある日、女性は父に言われるのです。嫁ぎ先が決まりました、と。

 内心ではいやでしたが、この時代ならばしょうがないだろうと女性は考えました。何せこの世界はイメージで言うなら中世ヨーロッパ?貴族や王が存在し、農民がいて、更には魔法も存在するファンタジー世界だったからです。あら、単語の意味が分からないという表情ですね。聞き流してくださいませ。

 そこで女性はまあ、その、結構な地位の生まれだったので。長年過ごしているうちにこの世界の常識にも慣れ、今までいい暮らしをさせてもらったのだからと女性はその結婚を受け入れるつもりでいました。

 でも。

 弟は、嫌がりました。

 宥めても、慰めても駄目でした。置いていかないでと泣き縋る弟に、女性は困惑するばかりでした。もう大きいのだからと慰め、適当に済まして。それで大丈夫なつもりでした。

 ・・・・・・つもり、でしたよ。

 弟が、姉の婚約者となった公爵を殺すまでは。

 つまり、女性の目は節穴であり、大層な役立たずだったということです。

 これで一緒と嬉しそうに笑う弟を見て、女性はようやく自らの罪を自覚しました。

 間違いなく、これを狂わせたのは自分だと。

 何せ弟が生まれた瞬間から影響を与え、好みの方向へと教育していたのですから。ですからそれは、間違いなく女性の罪でした。

 だから、弟がなしたことの原因は全て、姉である女性の罪なのです。


 それからは、あなた方もご存知でしょう?

 あの子は姉の婚約者を殺し続け、そうして更には目障りな父王も殺しました。それからは・・・・・嫌ですね、思い返したくありません。でも多分、切欠であり原因は、全て姉です。あなた方の国へ攻め入ったのも、きっと私が原因です。私が幼い日にでも言った何かを、あの子が覚えていたのでしょう。

 ごめんなさいと謝ったところですみませんよね。ええ、ここまで馬鹿な女の告解を聞いてくださり有難う御座いました。

 あの子はもう逝ったのでしょう?そうですよね。

 ねえ異界の方。あの子がああなったのは、本当に、私が原因なんです。

 だから。

 償うなら、私も。

 そうでしょう?因果応報、といいますものね。ああやっぱり分かるのですね。ふふ、絶対私と貴方、同じ世界の同じ国の生まれですよ?

 お名前、なんていうんですか?いえね、こっちには戦乙女とか勇者さまとか救い主さまとか光の使者とか、そういう通り名ばかりで名前が伝わらなくて。それにほら、私の立場が立場でしょう?下の者も私の機嫌を損ねるんじゃないかと口に出さないのです。―――ああ、そうなんですか。いいお名前ですね。久しぶりに懐かしい響きの名前を聞きました。

 もう二十年以上前ですけれど。ああ本当に懐かしい。あ、私実はそちらでも弟がいたんですよ?こっちの弟ほど美形でもありませんでしたけれど。あの子はどうしているかしら。

 ああごめんなさい、長くなってしまいましたわね。

 え?私のあちらでの名前?―――と言いますのよ。

 どうしたんですそんな風に目を見開いて。ああそろそろ失礼致しますわ。あんまり待たせると、あの子寂しがりだから泣いてしまうわ。

 それではさようなら異国の方。私は帰れませんけれど、貴方はちゃんと自分の世界に帰ってくださいね。

 とりあえず、毒と頚動脈のコンボなら死ねますわよね。

 それじゃあ、ごきげんよう。



 異世界に呼び出された女の子が殺したのは、自分の父親の、姉でした。


異世界召還ものを考えていたはず。

魔法とかがある世界で隣国が周囲に攻め入り始めた!世界の危機!→なんか異世界から女の子召還→云々。

そんなのが基礎設定。

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