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Ⅱ【二度は考えて物を言うべし】

視点移動 ワタル編(Ⅰ補完)です。

人物の心情が伝わりやすいように沿った作りを試行錯誤しています。

混乱させてしまうかもしれませんがお付き合い願います。

 





肌寒い季節が通り過ぎ、穏やかな日差しの暖かな日々がやってきた。


 駅から徒歩10分。

我が大学は理工学部・建築学部・経済学部・文学部・社会科学部などなど、理文含めて幅広い学部が売りの私立大学である。

立地で言えば都会に近くも土地の広さを求め丘の上にあることから、幾分離れてはいる。けれど30分圏内で街中へと移動できるため、生徒には不便を感じさせるほどのことはない。

 大学内の施設も研究施設から蔵書の幅広さが評判の図書館、点在する食堂のリーズナブルさに改築を重ねたとは言え近代的な修学施設と私立としてはまぁまぁの充足感で大学ライフを送れると人気の学校である。

 ただし心臓破りの坂と呼び名の傾斜の坂が唯一のネックであり、徒歩での遅刻によるスピードダッシュは受験疲れで衰えた学生にとってはきついものだった。


 また、道路を挟んで向かいに位置する美術大学は華の宝庫と名高く。一躍センスが高い美女が多いと近辺では知られているので、男子学生的に出会いの幅は広がり夢が見られるという話である。

 運命的な出会いを夢見る程幼くはないが、目の保養には確かなので合コンに精を出す男子諸君を馬鹿にする気はない。

誘われて暇であれば顔を出すし、狭き門をくぐり抜けた彼女・彼らは話す分に面白い性質であり。

ワタルとしても社会勉強の一環として、友達付き合いを重ねていたのだった。


 


 春学期が始まって一週目のある日。

見事希望のゼミに合格を果たし、顔合わせという名の食事会を経て顔見知りが増えた。

新たに知り合った女子生徒に請われるままバイト先を教えれば、昨日ウェイター姿をからかわれにやってきたのを苦笑して相手にした。

 ここ最近とある理由により心身ともに疲労が蓄積していた身として、ああいうのは勘弁してほしいものだが。折角やって来た友人に当たる訳にもいかず、その結果より気疲れ分がたまった。

まとまった睡眠もとれぬまま講義に顔を出し、いつの間にか船を漕いでいた肩を友人に揺すぶられて気付き。

昼食の誘いに伴立って移動しつつ話に華を咲かす。

情報誌の話題がどうだとか、駅前の短大のどの子が可愛いとか、ありきたりの話題。


 その最中ふと目を引いた、学生専用の校内掲示板に張られた用紙をつい立ち止ってまじまじと眺めた。



 埋めつくされるように張られたサークルの勧誘ビラの文句の中で、一際魅かれた理由はその大々的に訴えられた“急募”と“ルームシェア”という言葉だ。

今時の女子大生が書くような丸っこい文字ではなく、線が細いながらも字体の整った清廉な字。

端的に書かれた物件情報に、シェア条件。間取りと周辺の情報などなど必要とわかる情報がちゃんとまとめられてわかりやすい。

また女子アピールの無駄なキャラ絵やマークが一切なく、不動産のビラのようにスッキリしていながらも受け取る方が理解しやすいようきを回されていた。


 女性のみ募集と条件づけていることから、連絡先の秋本という名字の人物は女性であるに違いないのだろうと知る。

こんな講義が始まって1週間と微妙に入った時期にこんなものがあるのだろうから、急募というからに突然のことだったのだろうか。




「…この秋本って、あの秋本かな」




 いつの間にか食い入るようにチラシを見ていた自分の背後から、顔を出して眺めた友人こと唐沢亮一からさわりょういちが意味深に告げる。

同ゼミで興味分野も似たり寄ったりなため、よく共に過ごしている仲間内の一人である。



肩越しに振り返って見れば、思案気に同じくチラシを見ていた。




「この子、有名なのか?」

「有名っちゃ有名。可愛い顔して寄ってくる男を千切っては投げ千切っては投げて無関心を突き通す、通称“黎大のモーゼの十戒”」

「ずいぶんゴテゴテのあだ名だな」

思わず苦笑する。他人様の話題には皆飛びつくものなのだなぁと言わずに胸中に留める。



 亮一は気安い性格で男女関係なく付き合いやすいのだが、思わず女子かと言いたくなるくらいに耳年増で大学内の話に精通している。

女性に対し大学生二年目になっても幻想を捨てきれない性分であるため、潰えたお付き合いは片手を超えたらしい。

 



「ほんとさぁ、男だけ親の敵みたいに見られんの。入学当初のサークル勧誘じゃこぞって狙われたらしいけど、絶対一歩分の距離には入れさせなかったらしいし。無理に入ろうとしたら目吊り上げて逃げられて、遠目からでも避けられ続けるって」




 男子高育ちゆえに現実を認めたくないのか女子の負の面を目の当たりにしても何のそのという性格だ。

男であるとだけで目の敵にされるその子が理解に難しいのか、眉根を寄せて首を傾げていた。




「パーソナルスペースに興味半分で無理矢理入る方がおかしいだろ、ふざけてやったにしろ謝罪して良いくらいのことだと思うけど」

「弄り倒そうとしたら公衆の面前でこき下ろされたらしいし」

「我が強いな。クールじゃん」

「人付き合い苦手でよく一人でいるけど、同性にはそれほど嫌われてないみたいだし。良い子っちゃ良い子なんだろうな」

「ふーん。性格に問題ないカワイ子ちゃんでも、鋼の男嫌いか」

「あと、叉聞きしたのだとそこの美大の柏谷ちゃんと仲良いらしい」

「柏谷?ってあのモデル風美人さん?」




 柏谷ありさと言えば、入学当初からこの一年話題に上がり続ける近辺の学校で美人と命題される女子生徒である。

頭の先から足先まで整った八頭身のパーフェクトパーツが目立つ、伸び伸びとした性格で誰に対してもフレンドリー。

美醜云々の話題は良くも悪くも昇っては立ち消えやすいというのに、我が大学では日々懸想する男(少数派で女も)は絶えないとか何とか。

 毛先にかけて重いウェーブののった栗色の髪の美人さん。服のセンスも良くて、学校でも交友の広い人物らしい。

そんな人物が、知らぬ間に話題となっていた人間と仲が良いとは。ますます以てその秋本という子に興味が湧くというものである。




「なぁ、その秋本って子の顔わかる?」

「ん?そりゃわかるよ、同じ学部だし」

「そうなんだ、こりゃチャンスだ」




 けらけら笑いながら、その手の込んだチラシを丁寧に掲示板から剥がして言った。

背後で正反対に重苦しいため息を吐いてみせた友人は、そんなワタルを不気味そうに見ていた。




「…ワタルさ、パーソナルスペースの侵害がどうとか言いながらやろうとしてること、結局同じじゃないのか?」

「部屋に困ってるのは事実。それに、とっかかりくらい作っても良いだろ?本気で嫌がられて仲良くなれないなら近付かないさ」

「………もし仮に、マジでシェア出来たなら焼き肉奢ってやるわ」

「マジか。言質とったぞ」

「安全域なのは確かだけどなぁ」




 精々頑張れ~と気の抜けた応援を亮一に貰いながら、所詮無理だと見られたのをどう打開してやろうかと思う。



 周りの女友達と一風変わったらしい子。

普通に話せるものなら、きっと自分にとって気楽な子だろうと思う。


 久々にわくわくする話題であるので、自然笑みが浮かんでくる。

隣りでその様を見ていた彼は、変な導火線に火がついたと横目に見るばかり。

だから、思わず。




「もしかしてカレシと上手くいかない腹いせ?」

「そんなどっちにも失礼なことしませんから」




 いらぬ一言を発した隣人をジロリと横目にする。

普段明るく能天気な顔と評される自分がぶすっと睨んでくるのは、やはり思うところがあるらしい。

自然と彼の背筋が少し張りつめたのが見てとれ、眉を寄せて悪い悪いと謝意を重ねられた。

口の慎めぬ友人とチラシ一枚とともに、今なら昼食と摂っているかもとの情報にワタルは当の目的である食堂へ足を急がせる。





 別に可愛かろうが素朴だろうが顔の美醜の点はどうあってもいいのだ。

ワタル自身にとっては、そういった垣根さえ関係ないと言い張れる根幹の部分が世間一般とは異なるのだから。



(いい加減、ユキに鬱陶しく見られるのもつらいからなぁ…)



憮然として無言に見続ける腐れ縁の顔を思い出して、陽気な亮一に知られぬようにため息を吐いて気を紛らわす。

 

 養われた直観に従うのもありである、と気持ち軽く検討をつけて。

行き交う人波の流れに乗って、手元のチラシに目を落とした。





●○●○●○●○●



 飢えた学生と忙しない調理場で賑やかな昼の食堂。

セルフサービスの食事片手に席をとって座れば、目ざとい亮一はすぐさま秋本なるチラシの主を発見してくれた。


 

 肩を超えた辺りで切り揃えられた黒髪は無難に首元で一括りにされて、細くて陽に焼けていない白いうなじが見てとれる。

肉付きの薄そうな背中はピンと張っていて、姿勢の良さに好感が持てた。


 武道を習っていたこともあって、どうも最近の視線を集める系の女の子がする仕草から凝り固まったような撫で肩だとか重心のズレだとかが、変に気にかかるのだ。

歳の若い女性ならではの、小首を傾げたり胴体を反らす仕草は小動物のように可愛いらしいのだろう。

けれど身体に無理な不可をかけてまで異性に訴えることかと考えてしまう。

 特に口に出したことはない点だけれど、ワタルが思う“秋本さん像”として興味がより魅かれた事実となった。





 多人数対面の大机ではなく、窓際に面した個人席に一人友人らしき人物もなしにかけており。

時折窓の外の景観を眺めながらゆっくり食事中らしかった。


 この食堂は窓の外の植え込みと道路を挟んで、隣りの美大に面する造りになっている。

端に位置することや大学に関係のない門外漢も気軽に訪れる仕様になっているため、時折その美大生らしき集まりや周辺に住む主婦たちが食事に来ている場面も目にすることがある。


 そんな彼女は、喧騒の中大衆の意気に気詰まりせず、身を縮こまらせることなく。

ただもくもくと腕を動かしては、道路脇を歩く人影を見ているようだった。





 観察しながらワタルも食事を進め、正面に座る亮一の、秋本なる人物の所属するゼミの友人から聞いた噂話を又聞きした。


 生まれはこの都市部から電車を乗り継いで2時間圏内の、幾分賑やかな郊外地区で(どうでもいい)。

兄弟はおらず一人娘(一人っ子にしては自律したものだと思う)。

時折柏谷ありさと一緒にいる所を見かけるとのことに、あっさり中学からの友人だと判明(へぇ、と呟くと反応が薄いと睨まれた。だってあまり興味がない)。


 顔立ちは整っており、つんと上がった唇に、少し目尻の上がったくりりとした茶色がちな黒目は愛嬌があるがそれを見れるのは稀だそうで。

艶のある柔らかな髪質の黒髪だがヤマトナデシコなるものではなく。ゼミが同じでふざけて告白もどきをした男を一月無視し続けた逸話持ちの腹持ちありの性格。

 ゼミ内では教授の覚えめでたき真面目な生徒(プレゼンで下調べを重ねた論破に、これからが楽しみだと教授が称賛したとのこと)。

1年目に大学が標準に沿って配置したゼミから、そのまま2年目も同教授ゼミに持ち上がりのまま師座するそうだ。 


 ゼミの女子内の評判は甲乙つけることでもなく。

我を張った高飛車な性格ではなくて、単に軽度の人見知りがある普通の女の子と認識されている。

件の男子生徒は本人が笑えぬ冗談を言った結果だとして全面的に彼女の味方。

女友達同士は付き合いの悪い彼女を飲み会に引っ張り込むのに、あの手この手と使って彼女を引き出そうとするくらいなそうで。


 なんだ、とワタルは人称像に当たりをつけた。



「ふつーに良い子なんじゃん」

「……ちゃんと聞いてたか?」



 途中から脱線してどこそこの男がこんな文句でフラれただ、やれあの先輩がひっきりなしに追いまわして顰蹙をかっただのと知って得することのない話題は端から聞いていなかったので、亮一を黙殺してワタルは続けた。




「おっとり口調で男の人と喋るの苦手ですーとかにこにこして嘘吐く訳でもなく、男嫌いだけど共学に通ってゼミの教授だって性差で選んではない。女友達に特別愛想まくまでもないけど気に入られてるし、一年経った今じゃ新生ゼミ内はつつがなく良好関係継続なんだろ。全然問題ない」

「そうだけど、噂になるくらいの男嫌いだぞ?端から男なんて除外なんて思われてんだぞ?」

「飲み会で男友達と世間話くらいは出来るんだから、寄って叩く陰険な誇張話じゃないの?傷害罪で訴えられた訳でもなしに」

「俺ワタルくんの見解に圧倒」




 なまじ飲み会で女子アピールに呑まれたこともあるだけに、友人はワタルの考えになるほどーなどと零している。

しかしこうは言っていても、この男はその性格ゆえに肉食系と世に言われる女性陣に呑まれるのだろうと頭の隅で思った。

頭ごなしに亮一の女性観を否定するほどワタルも自らを出来た人間とは思っていないのでケチはつけないが、無自覚の強かさが彼にはあるので想像は放っておく。余計なお世話だろう、と。




「うん。友達になれそうなタイプだ」

「…そりゃ、ワタルは垣根なく飛び込んじゃえる羨ましい性格だけどさ」

「亮一だってそうだろ」

「俺はお前の社交術を見よう見まねしてたら性分に合っただけ。お前より素直とは思うけど」




 それは自分が腹に一物飼っていると暗に言っているのに等しい言い方と表情だったので、ワタルはうん?と語尾を上げて笑って見せた。

案の定冷や汗をかいて何にもないです、と固い笑みが返ってくる。

 

 全く失礼なことである。

自覚無自覚どう違えど、裏表使い分けるのは人間の本質だ。世にはその表裏が紙一重な人物もいるだろうが、今は問題ではない。





 すっかり食べきった食器を前にごちそうさま、と手のひらを重ね合わせ。

机上に置いたままのチラシをちらりと見やる。


 黒の印字で、左下の隅に存在を誇大することもなくただ在る綺麗な字面。

幼い頃通っていた実家近くの習字の先生が朱色で花丸をくれそうな、お手本ものよりは柔らかい筆跡。


 字からも、後ろ姿からも。

感じ取れるのは、婉曲することなくただ真っ直ぐな性分であるとだけ。



 一年目は存在こそ知らなかったが、新しい交友関係を築ける人間ではなかろうかと思うと久方ぶりにわくわくする。

これまではわが身の事情で精一杯だったけれど、生活を新たにした此処での一年は充実していたのだから。

今さら女だ男だ性別云々かんぬんという考えてもどうにもならない問題は、ワタルにとって背後の振り返った先である。



(同族とまではいかないけど、所縁があるのは事実なんだ)



 カタン、と椅子を押して立ち上がったワタルに浮かぶ笑みを悟り。

亮一は呆れ気味に、茶を飲みながら口を開いた。



「―――俺、秋本さんが可哀想に思えてきた」

「ただ見目が良いってだけで突撃する輩よか、性根に素直な俺の方が人畜無害」



 遠巻きにちらりと彼女に視線を向けながら歓談するあちこちの男たちを見て笑みを深めれば、ワタルほど二面性が読みにくいのを無害とは言えないと小言がくる。

そんな奴と毎度毎度連れ歩く亮一こそよくわからないけど俺は楽しいぞ、と返せばとっとと行けとばかりに手が振られる。




「骨は雪弥と拾ってやる」

「俺が埋まるのは実家だけだから」

「…蝋燭線香代わりに束ねて燃すぞ」

「新築の境内プレゼントなんて友達思いな奴だなぁ」

「黙って行けっつの!」






 ささやかな友情を確かめ合って後ろ手に、件の彼女へと一歩一歩近づいてゆく。


 



 曇りガラスで顔はわからないけれど。きっと、噂を呼ぶほどには可愛らしいんだと思う。



 特に気になった点ではないが、顔を見合わせて話がしたい。ただそれだけの欲求。



(あわよくば、家賃光熱費折半7万5千のセパレート好物件が手に入るかも)



 日々放り出したままの問題に着手すべきは己の方で、ベクトル違いの同族染みた興味本位が本音で掻き入って良い訳ではないと解っては。いるが。



(何か、縁感じるんだもんなぁ)



 通路の邪魔にならないよう机に身を寄せて。

彼女との距離は話すに難くない2歩分の位置。


 ふっと過ぎった人影に彼女がこちらを仰いできたのをにっこり笑って、チラシを掲げる。







「秋本さんだよね。―――このルームシェア募集を見て来たんだけど、話良いかな?」








 声をかけ、目が合った矢先のげんなりした顔と、宙に止まった箸。

固まったその表情が、思わず腐れ縁を思い出させて笑いたくなる。



(…これは、話違わず難度が高い)


 剣呑な雰囲気を隠しもせずに眉間に皺根を寄せる親友と同属だと判断をつけ。


 チラシをぴらぴら揺らしつつ、初手に挑むつもりで笑みを浮かべる。



(―――仲良くなれる。ユキも気に入るわ)







 大学二年目の春。これからが盛りである。





おまけ【亮一:談】




(人畜無害、なぁ…)


亮一にとって、ワタルは気兼ねなく付き合える仲間の一人であり。

第一に入学式での隣席が初年度配置の同じゼミにいたというのだから、彼は大学入学後の初めての友人と言ってもいい存在なのだ。

本人はどう思っているかはわからないけれど。


(そりゃ知り合って1年しか経ってないけど、あの笑いを人畜無害と思えるほどには目腐ってない訳だし)


頭を占める当の人物は、噂の花形の傍でにこにこ無害と謂われのつく笑みで立っている。


己が入学後、縁のなかった同年の女性への振る舞いとして、ワタルを真似たのは事実である。

そういった内情に変に敏い彼のおかげで、表立って相談することもなく所々で見られる気遣いを他所で実践することで華々しく大学デビューを飾ったのだが。それは今はいい。

しかし、まさか同年齢といえどその世慣れて見えた男がビックリ箱的なネタをカミングアウトした時。思わず、『高校ん時あったなそんなこともー』と歯牙にも欠けず言い放った故に、初めてワタルの大爆笑が見れた要因となったのは内心自慢である。

常に笑みを浮かべる印象だが彼の爆笑はわりとレアだ。笑いの種になったとはいえ、事情ゆえか世間を斜めに見ている彼が同年代の男らしくなった起爆剤と思えば安くないと亮一は考えている。


(あの雪弥と一緒になって大物がいたと言われたけど、あいつらろくに聞いてくれないしなぁ)


あいつらと一括りにした2人以外のつるみ仲間の同輩の顔を思い浮かべつつ、話題が話題なだけに他所で明るみに出来ないし。する気もないのだが。


(あいつもある種の噂の的だけど、その点は大っぴらになって本人があの様だし)


友人が落とした爆弾発言に、無愛想で喧嘩腰だった彼女もあまりの突飛さに茫然としていた。

なんとはなしに同調したい心地である。


(…一回、あの切り込み隊長的な笑みが墜落した所を見たいと思うあたり俺も、大概毒されたもんだわなー…)



公共の場で陥落した発言による静まり返ったフロア内の一部。


亮一は、これから大学中を回るであろう噂の的を横目にしながら。

茶を啜って呑気に眺めるのだった。




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