Ⅰ【発端はチラシ一枚】
【注意】
話の設定上軽いBL表現があるかと思います。
その他ネタとしての、下品な話題・表現もあるかと。
苦手な方はよろしければご自分で避けて頂けると幸いです。
また、現代日本という場所で考えていますが設定としてフィクションであり町名なども何ら関わりないことをご念頭に置き、楽しんで頂ければ嬉しいです。
常時失踪予定。気長に書き進めたいと思います。
昼食時のざわつく大学構内のとある食堂。
安価で早さが売りで味は要努力ありと、どこでも同じであろう苦学生でもまぁ値の届きやすい範囲であるとしか言いようのない、正に普通の食堂である。
腹を満たすだけで充分な食事にありつくには御の字といったところ。
この春大学二回生に無事繰り上がり、麗らかな季節というには頭を抱えるしかない考え事に頭を悩めつつ日々を送っていたアキは。
うどんをすすった手を止めざるを得なかった、背後に立つ人物に対し思いっきり眉を潜めて睨みつつ、トリップした思考を呼び戻した。
「……もう一度?」
「このルームシェア募集を見て来たんだけど」
君だよね、秋本さんてと付け足して。
明るいトーンの短い茶髪にスラリとした体型の、見た目上確かに男性形の人間は。
見覚えのあるチラシをぴらぴらと揺らしながら、笑みを浮かべてそう告げた。
聞き間違えた訳ではないらしいその言葉に、腹の底からため息とともに食したうどんまで吐きだしかねない気分である。
『そのゴキブリでも見るような眼やめなさい』と再三注意してきた親友の顔を思い起こしながら、アキは冷静になろうと鬱憤を堪えた。
●○●○●○●○●
事の発端は、その親友に始まる。
中学の塾仲間であった彼女、柏谷ありさと交友が始まったのは高校受験を控えた夏期講習から。
同クラスとしての初日、偶然席が隣り合い、波長が合ったか共に帰宅するまでの電車仲間となった。
希望進路は異なっていたが、切磋琢磨する仲としては丁度良く、すぐに自宅を行き来する程に仲良くなった。
高校へ入学してもその付き合いは薄れることはなく、アキとしてもありさとしても、学校は違えど互いが互いを一番の親友とみる付き合いを重ねるに至った。
そしてアキにとっての忌まわしい吐き捨てたい記憶も同時に呼び覚ますものだが、それはここで思い起こすことではない。
ぼろぼろの身ながらも大学受験で必死になったのは、ありさが美大として名のある都会に居する大学を希望し、なお且つルームシェアをしないかと持ちかけてきたからであった。
アキにとって故郷はただの離れたい場所でしかなかったし、都会にも多少の憧れがあった。
とある事情により極端に人付き合いが苦手になっていた身として、大親友の彼女とのルームシェアという新生活も想像するだけでも楽しいに違いないと思う他なかった。
絆された感あっても、私のために頑張れと訴えられればそこまで悪い気もせず。
アキは猛勉強の末、彼女の希望大学に隣接する私立大学の経済学部に入学を果たし、見事授業料半無償の奨学生としての切符を得た。
一回生としての一年はあっという間に経ち、想像通り笑顔のままに過ごせた日々と言えた。
意見のぶつかり合いもあれば、数日顔を合わさない日もあったけれど。
より深く互いを理解し、成人に向かう身としても勉強になる時間であった。
時は巡り、二度目の春の暮らしを迎えつつ。
ありさは爆弾を投下した。
「この家、出ようと思う」
「………………は、い?」
言葉を理解するのに随分と時間をかけたけれど、意味を理解した途端ドッと嫌な汗が噴き出した。
一年を送る上で、言いっこなしにするべく互いに解決したい点には口を紡がず言い合おうと約束し、そしてその都度喧嘩しては理解を重ねてきた。
朝のシャワー権はありさが訴え、なるべく朝食夕食をともにとはアキが。
自室以外の居間とキッチン、風呂場と玄関の掃除は交代制の受け持ち。
調理の好きなアキが食事を作ることが多いから、皿荒いはありさが。洗濯は各自でもあり、一回頼めば相応の取引を。
テレビ番組の選択権はゴミだしやマッサージで割り切ることが多かった。
そうして2人で生活してきた。
その片方が欠けるというのは、―――いったいどういうことなのだろうか。
いつの間にか俯いていた頭に、ぽふんと柔らかい手が当てられて、ゆっくりその主を仰ぐ。
「アキとの生活が嫌になったんじゃあない。苦である訳がない。私に、ちょっと事情が出来ちゃったの。聞いてくれる?」
困ったように笑うその表情に。いつもより落とした声音に。
彼女にも葛藤があった上でのことなのだと、気付いた。
常々人の側に立って考えることが出来る余裕を羨ましいと言うありさが、私の気持ちを汲もうとしないことなどないのだ。
だからこそ、私が落ち着くように笑って見せてくれる。少しでも言葉を伝えようとしてくれる。
思わず目頭が熱くなってしまったが、数回呼吸を重ねてこくりと頷いた。
「あのね、彫刻を選択したいって言って、その専攻試験も通ったって話したじゃない」
「そうだね、お祝いしたもんね」
「うん。で、この春から本格的に学べるの。真田先生の指導貰える」
「そうだね。入学前から、ずうっと、その先生のことばっかりだった」
新居を決めて下見にお互いの学校へ足を運べば、ありさはその真田海道という新進気鋭として海外にも広く名を売り。
後進の育成に早くも大学講師という道を選んだ60後半の芸術家のことを、それはもう熱く熱く語った。
細部の細部までこだわる、立体のものとしての可能性。見方。形を決められ見方を定められるのを拒み、様々な視点から見られて理解を得られてこそ作品の全貌を委ねられるのだとか。その指導者の美術性も勿論、メディア媒体で伝わる微かな人隣りや人柄に惹かれ。
その狭い門下を彼女はくぐった。
現役合格など稀のものと聞き及んでいたのだ。入ってからの試験に向けての猛攻も、彼女の部屋の荒れ方を見れば押して知るべしことだった。
「真田先生が何か言ったの?」
「一人のタマゴとして、自分で立てないのは視界を狭めるって」
「…っていうと?」
「ルームシェアしてることを話したの。人と触れ合う生活から得られるものもあるけど、一人だけの空間だからこそ触れる見方もあるって言われたわ。しんどい時に生活の基盤から支えてくれる友は得難く変え難いものだけど、本当に一人きりの生活であれば此処にいられたか?って聞かれて。思わず黙ったの」
「……それは、私が気遣ったことが駄目だって言われてるのかな」
「違う違う。あの人はそこまで考えてないよ。ただ甘える場所が帰る場所と同じっていうのが、これからの私にとって良いものかどうか考えてみろってことだと思う」
一人きりの暮らしが好きらしいから、単純に疑問に思っただけだと思うよと。
ありさは眉を寄せて笑った。
「確かに、アキの好意に甘えてたのは本当だから。助力がなくちゃご飯食べずにしゃかりきになって、人としての暮らしも危うかったかも」
「それは、私がしたかったからであって…」
「でもおんぶされてたわ。夜食食べたいって起こしちゃったこともあった、栄養とれって怒られて、課題こなしてる最中に突撃されて食べさせられたこともあった」
温くなっただろうレモネードを口元へ寄せて、ありさは目を伏せて軽く笑んだ。
「実家通いの子もいる。一人暮らしの子もいる。場合は様々。―――でも、一度自分の力だけで進むことも私には必要だなって、思ったの」
「アキのことを、家族みたいに思ってる。だからふざけながらも、懇々と甘えてしまっていた。…良い機会かなって、思ったのよ」
「私にとっても、―――あんたにとっても、ね」
さらりと、長いウェーブのかかった深い栗色の髪が一房、小首を傾げて笑った彼女の胸元へと流れた。
高校の時は黒だった。パーマもかかっていなかった。
少し円やかだった顎のラインも、忙しない生活ゆえか引き締まってた。
爪先にはかなり気を遣っていたのに、今では画材か何かでよく汚れが残っている。
時間が、流れている。
生きることを見据えて、私に正直でありたいのだと言ったありさの、あの頃と変わってないもの、変わったもの。
同じだけ、私も少しずつ、変わらなくてはならない。
成長しなければ、この親友に胸を張ってはいられないのだから。
「…もう、住む所も見つけてるんでしょ」
「ばれたか。最終手段は泣き落としだったのよー」
幾らなんでもそれはあまりにもかっこわるいから良かったわーと、呑気に笑っている。
少しばかりその楽観さに腹が立って、つんけんしながら言ってやる。
「じゃあ、私の信用するありさの審美眼に則って、きちんと相手見つけてきてよね」
「え、あたしがぁ?!」
「当たり前でしょ。あんたが勝手するんだから、その分埋められる相手じゃないと頷きませんからね。あと家賃も余分に払うつもりない」
「うへぇ…払えて2カ月分なんだけど」
「払いません。あと引っ越しもしない」
「確かに駅から徒歩5分の安い商店街ありぃの、優しいおばさま管理の優良物件だけどさ…」
面倒がってぶぅぶぅたれる、この困ったちゃん。
それでもこうして晒してくれるのは、私が親友であり、彼女の理解者であり。
「ありさが、此処を私たち2人の家にしようって言ったのよ?―――“家族”は“家”で待つもんでしょ、一人の場所へ移るなんてとんでもないわよ」
この家こそが2人の家なのだ。
移る気になど、なれるもんですか。
呆気にとられた彼女を笑って。
引っ越しなんて大面倒頑張って、と冗談ぽく言ってやった。
それが3週間前。
先週からは春学期の講義が始まった。
一足先に始まっていたありさは、講義や課題にバイトとその最中に荷物を少しずつ梱包し、私が初日の講義を終えた頃に部屋を空けた。
肝心の欠員は、幾度と彼女から紹介された人物に会ってはみたが。
時期が時期なのか、それとも提示した条件が条件なのかこれと頷ける人がいなかった。
「アキ、あんたどうすんの」
「絶対!これだけは譲らない」
3人目の候補として連れてきた友人と対面して、五分と経たずある一言を皮きりに合わぬと告げて喫茶から出てきた。
ありさとしてはその条件でも見合うとして呼び出したようだが、生活を共にする上で妥協してはならないこととアキは決めているのだ。
我が家へと向かいながら、背後からありさが宥めてくる。
「しょーがないでしょうが。今時の女の子が家に彼氏呼びたくない訳がないでしょう」
「昭和の家庭と言えば良いわよ。電話するのもびくびくして寄りつかないでほしいわ」
「…私も約束しといたんだけどなぁ」
「正直真に受けなかったんでしょ。ドン引きしてたのが良い証拠よ」
「まぁそこらは悪かったと思ってるわ」
物件として紹介すれば、あの家は正しく優良なのだ。
折半する家賃もかかる光熱費も初めから提示済み。
ベージュの煉瓦と朱色の屋根がアクセントのアンティークな外観も、玄関のセキュリティも値段のわりに整っている。
人の良い管理人の椎名さんも、孫のように扱ってくれるおかげで信頼のおける人なのだ。
ほいほい釣れた友人にもう一つ条件を告げれば、大概は変な顔をしつつも了解了解と返事をくれたらしいが。
やはり身内の気易さとでも言うのか、きっぱり他人様として対峙すれば面白いほどぼろが出る。
アキとしてはその辺り、顔を使い分けるのが得意なものになってしまったからこその接追である。
ありさも適度に人当たりの良さを押し出し判断するが、アキほど深く考えられない事情があるのだ。
「もう少しさ、妥協しようよ」
「断る。男を住居に入れるなんてぜっ・た・い!いや」
「引っ越し屋は入れたくせに」
「それは社会で生きる上仕方ないでしょう。半分が男とかマジないけど」
家に立ち入る男を想像しただけで出た鳥肌をありさの眼前に見せつける。
わかったわかった、と呆れながらも彼女は笑って腕を下ろさせた。
「でも、これであたしも伝手なくなっちゃった訳だし。あんたの大学で募集かけてみてよ」
「余計いないよ。共学だし」
「荒治療で入ったのに改善が見られないのはどういうことかね?」
「本人にその気がないからよ」
「自信持って言うない。あんたの言い回しが的確なのは知ってるけど、あたしの他にちゃんと友達作んないと」
「大学で困ってる訳じゃないもの。一人で出来る」
「社会で男嫌いですだなんて、通用しないっつーの」
男はゴキブリ以下と云い切って他ないアキは、その言葉通り大の男嫌いである(もちろん建前と八つ橋にくるむという言葉は知っている)。
彼女とルームシェアを行う上で必要不可欠な条件は、友達だろうが彼氏であろうが肉親以外の何者でも。
それが男性ならば玄関から敷居を踏ませないということのみである。
茫然とコーヒー代とともに捨て置かれたありさの友人の顔を思い出す。
3人目ということで固く注意したつもりであったが、逐一論破された彼女はアキの信用足るに満たない存在だったらしい。
憤慨メールか何かがきたのか、ありさは携帯画面をしかめながら見つつもすぐに何でもない顔になって鞄に投げ込む。
「あたしの勝手ですから付き合うけど、どうしようもなくなるのはアキだからね」
「なりません。責任とって」
「そう言いつつもあたしに対して友達のフォローだ何だと面倒増やして悪いなと思いながら、海老フライしてくれるアキが好き」
「……フライね」
「うふふー♪」
甘えているのはお互い様なのだ。
けれど、新しい場所に居を移しても。
アキはどうにも変わることのなかった嫌悪感を、やはり拭い去ることが出来なかった。
態度は悪いが、話すことが可能になっただけでも上手くいっている方で。
それを理解しながらもあえて口をすっぱく注意するのがありさの役目であり。事情である。
どれだけお互い解り合っていても、互いが互いの人生に真っ直ぐであるのは本当で。
赤の他人でも、互いにその人生を応援したい心情であるのも本当なのだ。
「もうさ、荒治療として男と同居すれば?」
「絶対許さないし間違っても起きないし、冗談でもやめて」
腕を絡めて道筋を商店街へ移すありさに引っ張られつつ。
親友の末恐ろしい発言にまた鳥肌が立ちながら、今晩は彼女の苦手なナスを副菜にとアキは心中決めたのだった。
●○●○●○●○●
(まさか夢じゃなく現実で事が起こるだなんて、…)
喧騒の中、押し黙ったままの対男性には目つきの悪いと自覚する自分の前で。
未だ去ることもなく笑みを浮かべたまま、彼の男は突っ立っている。
むざむざチラシを取ってやって来たということは………
(なんだろう、悪寒が走る。話なんて聞きたくない)
けれど無情にも対面する人物は口を開く。
「秋本さんで良いよね?俺、同じ経済学科の福本ゼミで、久尾坂渡ね」
「はぁ…」
服装は、それほどちゃらちゃらしてはいない。
黒と白しか使わず、さもそれが大人のファッションだと思う勘違いでもない。
靴先も怪獣の爪のように尖ってはいない。
ミニタリー系の半袖ジャケットと白い七分の重ね着。パンツはチャコールブラウン。ショート丈のラフアウトブーツと合わせている。
二十歳そこらであれば悪くない服装であり、ハイトーンの茶髪と似合っている。
人好きの良さそうな笑顔であり、女子にも男子にも人気のありそうなやんちゃ系統か。
顔は街角で読者モデルを依頼されるほどには整っているだろう。
雰囲気の軽さと対照に、物腰や話し方は年の割に落ち着いて見える。
笑みの雰囲気がありさに似ていること以外、特に興味を抱かなかったが。
「それで、そのチラシが何の用?」
「用があるのは俺なんだけど…まぁ良いや」
「(良くはないけど)何か言われた?誤字脱字はないはずだし、きちんと手続きとって張り出したけど」
「え?―――ルームシェアの募集、かけてるんだよね」
「気付いてなかったんならよく読んで。募集しているのは、女・子・だ・けなんだけど。貴方性別は?」
「見て解らなかったんなら失礼。正真正銘日本男児です」
「その男児が、女子しか募集していない私に、いったい何の御用でしょうかしら?」
「うっわすっごい丁寧口調が壁を感じる…」
眉をひそめた笑みだが、それほど困っている感じは伝わってこない。
やんわりと見えながらものっけから喧嘩腰に取られても仕方のない言葉の応酬を重ねてみて。
外見からは存外見えないが、言葉尻で相手を読めるタイプなのだとわかった。
つっけんどった態度のアキに対しても普段寄ってくるような人間ではなさそうで、落ち着いてこちらに応対している。
印象、面倒くさそうなタイプに変更。
立ちっぱなしの彼が理由か、不穏の空気が周囲に伝染しているのか、若干視線が集まってきている。
(…早く終わらせて此処から出よう)
先手をとって看破すれば二度と近づこうとは思われないだろうと、一息吐いて気を入れる。
「貴方がどういうつもりで話しかけてきたか知らないけど、私は男とルームシェアするつもりは全くないわ」
「そんなに男嫌いなんだ」
明日の天気は雨。へぇ、と。
まるで世間話の一環のように、あまりにも雰囲気が軽く流された事に少し気が抜けた。
知っていて話しかけたのならば、いったいどういう神経をしているのか疑いたい。
入学当初は自分で振り返っても散々で、声をかけられるだけで威嚇していたようなものだ。
今ではそれなりの対応が心がけられるが、知り合いはいても共に遊ぶことなど論外。
ゼミの懇親会でもどうしても参加が必要な飲み会以外は避けて通っている。
軽い気持ちのナンパも徹底無視してのけて、ゼミの女子に合コンに誘われようと付き合ったことはないのでゼミ内ではわりかし知られていることだが。顔も名前も知らない人間から言われる程知られているのは少し場合がよくない。
悪目立ちしたくないから堪えての愛想なしで留めている地味女なのに。
思わぬ所で知った噂の広がりに、余計顔をしかめることとなった。
そんな苦い表情の自分と正反対に、にこにこ微笑んだ彼はクイッと口元を上げた。
途端。
「性別は男。趣味はUFOキャッチャー漁りと酒に合うつまみ探求で料理もわりと出来るよ。実家は寺で次男なんだけど、長男と歳離れてて実際一人っ子歴が長いからそれなりのことは出来るつもり。周りからは社交性あるとか友達多いとか言われるけど自分家に人は上げたくない派。好きな食べ物はシチューかな具はホウレン草と鶏モモが好きで持ってる資格は書道五段剣道三段空手黒帯でも喧嘩嫌いの平和主義でサークルは飲みサーだけど都合つく時くらいしか参加しなくてバイトは今は本町んとこでウェイターと塾講の掛け持ちで風呂は烏の行水朝シャン派で、」
「~~~~ちょ、ちょっと!いったい何を、」
最後の方はノンブレスの弾丸のように流れてゆくだけで、いきなりのことに頭の中を通り過ぎるだけだった。
慌てて遮れば、イケメン三割増しの笑顔で彼自身を指さし。
のたまった。
「―――んで、男にしか興味のないヘテロセクシャル。所謂ホモね」
「………は?」
はい?
「男嫌いはともかくさ、女の子として身の安全は保障できるよ。危機感じることもない完璧安全牌だからいらぬ心配することもないし。あきちゃんにとってはかなりの優良物件とお薦め出来るよ~」
「て訳で、どうぞ宜しく。あきちゃん」
ありさ。
あんたの言った冗談の種は、思わぬ変人の縁を引っ張り寄せたようです。
茫然と見つめれば、恥ずかしげもなくにこにこ見つめ返すとんでも人間。
喧騒が遠く感じるなかで、私は思わず現実逃避の道に走るのだった。