きっかけ
なんとなくオクジョウに来てみた。そう、ただ何と無く。
ここに来た意味なんて特にない。
それと同じように何と無く生きて、なんとなく死にたくなっただけ。特に意味なんてない。
風が勢いよく私に向かって来る。髪が後ろに引っ張られる。
でも、これが気持ちいい。首がひんやりと冷たい。
私は何をしにきたんだろう。
あぁ、特に意味なんてなかったんだっけ。
ただ、なんとなく死にたい。それだけ。
「おまえ何やってるの?」
振り向かなくてもわかる。声だけで誰かわかる。だって私は――――から。
「なにも。ただ、なんとなく死にたいなって」
「…おまえ何言ってるんだ?冗談もほどほどにしろよ」
呆れ混じりの声で言われる。
まぁ、そりゃそうか。唐突すぎるもんね。冗談に聞こえても仕方ない。というか、当たり前だ。
「そうだね」
「…」
沈黙が流れる。あいつは気まずそうだ。だが、私には心地良い。
あいつとの出会いはいつだったっけ。風に負けないように声を張り上げてみる。あいつに私の声が届いたかわからない。とりあえず叫んだだけ。あいつは思わぬ行動をした。そうだ…。2年前の今頃のここで会った。
今日と同じように屋上に来た私は、1枚の紙を破り捨てていた。風にふわりとさらわれながら、ゆっくりと地面に吸い込まれていく紙の破片を見ていた。
あいつは今と同じように屋上のドアを開け、同じように声かけた。
「何やってるの?」
そして私は笑顔でこう答えた。
「特に何も」
…2年前から全然変わってないな、私。あいつとの関係も。
「おまえ、ほんっ………!」
私の思考の中にあいつの声が割り込んだ。
風が強くて声が届かない。
「なにか言った…?!」
風に負けないように声を張り上げてみる。あいつに私の声が届いたかわからない。とりあえず叫んだだけ。
あいつは思わぬ行動をした。私とあいつの距離が縮まる。そう、あいつがこっちに向かって歩いて来たのだ。あいつとの距離はわずか60センチ。
「おまえ、本当に死にたいのか?」
今度は、途切れずに耳に届いた。
オマエ ホントニ シニタイノカ。
頭の中であいつの言葉が反復する。オマエ ホントニ…
「死にたいのかな…?私…」
「……」
あいつは何も答えない。ただ沈黙だけがこの場を埋めつくす。これがあいつの答えな気がした。
「なんとなくだよ、ただなんとなく死にたい」
まだ、答えない。沈黙が塗り重ねられていく。今度はこっちが居心地の悪い番。
何分たっただろう。いや、何秒かもしれない。
あいつが口を開く。
なら、変わってみるか、と。
「…え?」
私の口からは、ただそれだけが洩れた。
私はただ理解出来なかった。いや、しようとしなかった。それが何を意味するかを。
私はただ忘れていたのだ。…いや、忘れたかったのだ。
これが、私たちの3日間だけの"とりかえっこ"のはじまりだった。




