アリとキリギリス
秋も終盤にさしかかり、本格的に冬が始まる前。アリたちはせっせと冬の備えをしていた。
アリの家族は大所帯である。飲食料品をはじめ、トイレットペーパーや冬の間に使う消耗品、それに子供たち用の勉強道具など。考えられる物資を運び込む。
そこにふらりと現れた、遊んでばかりいると思われている音楽家のキリギリス。
「やあアリさん。精が出るね。冬が近いからかな」
「やあキリギリスさん。冬が来ると、狩りもしにくくなるからね。キリギリスさんもそんな遊び歩いていないで、蓄えをちゃんとしなきゃ」
「失敬だな君は。あのね、音楽家というのも、ひとつの立派な職業なんだよ。常に練習をしなきゃだし、作曲や編曲、もちろんステージもこなさなきゃならない。これはこれで、大変なものだよ」
「ふうん、そうなのか。確かに僕たちも、仕事の合間に音楽の話をしたりするよ。ごめんね悪いことを言って」
「いや、いいんだ。僕も言い過ぎた。それで、今日はアリさんに相談があってね」
なんだかんだ言いつつ、食料を分けろって魂胆かな。もしそうだったら、悪いけど断って帰ってもらおう。アリはそう考えていたが、話はそんなに、小さくなかった。
「コンサートホールを作りたい、だって?」
「そう。今までは仲間やパトロンのところを借りていたんだけどね。音楽仲間も、ジャンル分け隔てなく増えてきたし、何より僕の知名度も上がってきた。こうなったら、僕や仲間たちが自由に出来る場所がほしいな、と思ってね。それに、広い練習スタジオも必要だし」
なので、ホールを建てる手を貸してほしいとのことだった。もちろん給料は払うと。それも、相場よりもかなり良い。アリは二つ返事で快諾した。
当日、アリたちに出された仕事は、まず建材を現場に運ぶことだった。
「持ってきたよ。あとから続々届くけど、これをどうするの」
「カマキリさんに加工してもらうのさ。設計図も、クモさんに作ってもらっているんだ」
カマキリが加工した建材を、またアリが人海戦術で組み立てていく。設計者のクモも、細部は自分でやらないと気がすまないのか、ところどころで手を貸してくれる。
クモもカマキリも手が足りないと見え、次々と仲間を呼び出した。気付けば、カマキリとクモで建築会社「スパマン建築」を設立し、ホールの工事の合間に手頃なヤードを作っていた。
おかげでホールは完成。次は中である。大きなホールであるから、飲食店は必須になる。キリギリスは、アリと仲の良いアブラムシにわたりをつけ、ソフトドリンクやアルコールを卸してもらうことになった。
おつまみや軽食も、アリに分けてもらうことになった。結局、融通してもらうことになったのだが、もちろんタダではない。アリとしてもキリギリスとしても、良い取引である。
警備は、カブトムシやクワガタムシに就いてもらった。彼らは彼らで「甲鍬総合警備」という会社を設立し、周囲一体の警備やセキュリティサービス、誘導員を一手に担うことになる。
満を持して、コンサートホールは営業を開始した。想定以上の大反響で、最初はコンサートのみを行っていたのだが、インディーズバンドのイベントや、夏フェス、冬フェス、演劇なども行うようになった。
そうなると、集まってくるのは観客のみではない。観客を当て込んだ商売人も周囲に集まってくる。とくに、アブラムシから原料を卸し、ミツバチが加工して発売された甘露酒は爆発的な人気となった。
人が集まると、様々なものの需要が増える。そうなると雇用が産まれ、供給が増え、経済がまわる。コンサートホールを中心に、ひとつの大きな都市となった。
設営時から周囲を切り盛りし、完成してもホールや関連事業の運営に追われ、音楽活動どころか休日から遠ざかっていたキリギリスは、あれよあれよという間に市長となった。適任である。
そしてキリギリスは、市長として、コンサートホールの運営者や街の顔として、今日も忙殺されるのである。
「忙しくて死にそうだ。いったい誰だ。キリギリスは遊んでばかりいる暇人と言ったやつは」




