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右肩上がり計画

作者: てこ/ひかり
掲載日:2026/03/29

「そんなバカな……!?」


 去年の数字と全く同じ……!?

 渡された報告書を見て、篤志は目を疑った。薄っぺらい紙には、確かに同じ数字が横に並んでいる。それはつまり、少なくとも数字の上では、彼の計画(プロジェクト)が去年から全く成長していないことを意味していた。


「社長……」

「すまない。しばらく1人にしてくれないか」


 篤志は人払いをし、動悸を鎮めるため、眼鏡を外し、クリーナーでゆっくりと、静かに吹き始めた。少しボヤけた視界で慣れ親しんだオフィスを見渡す。思わずため息が出た。

 何がいけなかったのだろう? この一年、彼は出来る限りの手を尽くしてきた。特に二十年を越えてからは、今まで未知の世界だった健康食品や運動器具と言った分野にも果敢に投資したし、仕事に関しては、それこそ寝る間も惜しんで働いてきたつもりだ。


 計画(プロジェクト)は順調だった。しかし……この一年の総決算とも言えるこの報告書には、無情にも去年と同じ数字が並んでいる。下がらなかった分だけマシ、とも言えるかも知れない。だが、それは言い訳だ。現状維持は後退である、と言うのが彼の持論だった。事実、今まで右肩上がりで成長を続けてきたのだ。


 ガラス戸の向こうで、電話がひっきりなしになっている。この間入ってきたばかりの若い女性がすぐさま対応した。篤志はその様子をぼんやりと眺め、物思いに耽った。

全く、我ながら歳をとったものだ。

昔は我が家で、篤志の母親が電話番をしていたものだが。いつの間にか彼の働くオフィスの面積も、彼の周りにいる人の数も、数倍に増えた。今思えば、少し急成長し過ぎたかもしれない。篤志は少し反省した。立ち上がりから十年、いや十五年くらいは、割とゆったりとした伸び方だったのだが。十五年くらいから、数字は加速度的に増えていった。日々の忙しさとともに、慢性的な睡眠不足、それに体の節々が痛むのを、彼は薄々感じてはいた。


「やれやれ。この一年……鍛え直しだな」

 

 やがて篤志は拭き終えた眼鏡をかけ、自分に気合を入れ直した。仕方ない。甘んじるつもりはないが、結果は結果として受け止めなくてはならない。だが、見てろよ。来年の今頃は、さらにこの数倍の成果を出して見せる。今までずっと右肩上がりだったのだ。たかが一年停滞したくらいで、計画(プロジェクト)を止めるわけにはいかない。


 それから一年。


「ありえない……」


 篤志は驚愕した。渡された数字は、やはり去年と同じ。変わり映えしない同じ数字が並んでいた。


「社長。受け入れましょう」

 ふと目の前にいた白衣の男が、放心する篤志に向かって、半ば呆れたように告げた。


「安心してください。貴方はもう、20歳過ぎてるでしょう? これからその数字は急激に下がることもなければ、急激に上がることもありません。それが身長というものです」

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