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最初の切り札


問題が発生した。

捕まえようと手をかざした瞬間。

彼は起き上がり、あらかじめ用意していたであろう銀のナイフを投擲してきた。


問題はナイフを投擲してきたことではない。



そのナイフの速度が、およそ人間の出していい速度じゃなかったからだ。


吸血鬼の弱点、その中でも一際吸血鬼に特攻のあるのが銀。銀は吸血鬼の再生を妨害し、吸血鬼に致命的な一撃を与える。

特に弱点である心臓に刺された場合には、私であろうとも深い傷を負うことになる。



そのナイフは、高速で私の心臓に向かって一直線で飛んできた。


かわせない。こんな体制からこんな豪速球を投げてくるなんて誰が予想しただろうか。

普通なら、完璧に油断している吸血鬼の心臓にナイフが突き刺さって、ジ・エンドだ。


だが、俺は一度だって油断していない。



「霧化」




強力な、選ばれた吸血鬼は、能力を所持している。

俺の力は「血霧」その力の一つ霧化。

文字通り、自分の体を霧にする。


ナイフは私を素通りし、近くの建物に突き刺さった。


「霧牙。」


血霧の一部を刃に変えて、その人間めがけて放った。さっきのナイフよりもさらに速い速度だ。

不意打ちを外し、不意打ち返しを行った。

まず確実に腕は飛ぶだろうと、そう考えていた。



だが、彼はもう一丁、銀のナイフを取り出し、その刃を受け止めた。


確信した。こいつが、


「おっと、まさかここでお出ましとは。」


私は、他の九牙より多くの人間と闘ってきた。だが、今まで、この一撃を受け切れた人間は見たことがなかった。


今、その記録が更新されたな。



その人間は、余裕に満ちているのか、不敵に微笑んだ。

「なんのことだい?九牙が一人、"真紅の霧"?」



「歓迎するよ。吸血鬼狩り最強さん。」









最高だ。ここで上質な研究材料に出会えるとは。

しかも、リサーチ済みとは、気合が入っているな。

「コレも計画のうちか?最強さん?」



「最強さんって言われるのはうれしいが、なんだか気持ちが悪いな。僕の名前は綾だ。俺の計画のこと知ってんなら僕の名前ぐらい覚えとけよ。」


…バレてたか。

どこでバレたんだ。確かに少し跡を残したかもしれないが。


「あんたはこっちでは有名なんだよ。真紅の霧。こっちのいろいろ技術パクリやがって。」


あぁなんだそう言うことだったか


どうやらいろいろとやりすぎてしまったらしい。第一に警戒されてたら、流石に跡ぐらい見つかっても仕方ないか。




綾は再び戦闘体制になった。


…戦いたいのは山々なんだが、少し邪魔があるな。


いまにも飛びかかりそうなカルドに

「下がって、そこで見ていてくれ」


と、そう呼びかけた。










カキンと僕の刃と彼のナイフの交差する音がひとけのない通路で響いた。おそらく30分程度戦ったのだろう。


少し離れたところで見ていたカルドが驚愕しているのがわかる。僕も同じ気持ちだ。


目の前の人間は、人間とは思えないほど強かった。


迂闊に攻撃をすれば反撃を喰らう。こちらの攻撃は回避しつつ受け止めて、未だほとんど当たっていない。


まるで、強力な獣人と戦っているようだった。


だが、未だこちらが遥かに優勢であることに変わりはない。


どうやら科学の最も発展している人間でも、霧化を破ることはできないらしい。


となると、こちらの負け筋はこうだ。

霧化を解除し、攻撃する瞬間に致命傷を受ける。


霧化が発動できなくなるまで応戦する。


基本的に霧化時は再生できない。

攻撃する際は右腕を出す。もし隙をつかれ、右腕が切られたら左腕を使う。左腕が切られたら右足…と、言う形で、隙をつくルートの場合はこのように追い詰められていくのだが、

どうやら、こちらの攻撃を受け止めるので限界なようだ。

未だ効果ある反撃を貰ったことはない。


では応戦ルートではどうか?

俺の霧化が持つのはざっと24時間。1日だ。

館の中に日光が入ることもないし、日光であろうとも俺の霧化を破ることはできない。

こんなところか、まぁ油断しなければ負けないな。


つまり俺は負けないってことだ。




さて、そろそろマンネリか。研究に使うために、いろんなデータを集めていたが、そろそろ受け取れる情報も薄くなってきた。


ここからは少し、戦い方を変えようか。


周囲にまった霧を一点に集めた。


そして、両手の霧化を解除した。

血術

「血線」


彼に対し一直線に細い一撃を放った。

彼が放ったナイフとは比較にならないほどの速度だ。

標的は、肺。

殺すわけにはいかないが、まず致命傷を負わせる。


彼はそれを見た瞬間、また不敵な笑みを浮かべた。


「真紅の霧さん?それじゃ死なないぜ?」

彼は避けなかった。

それどころか



真っ先にくらいに行った。

血線が彼の腹を貫通する。だが、かれは笑みを保ったまま、こちらへ距離を詰めてきた。

そして、隙ができた私の両腕を……


いや、


私の2つの目玉を、ナイフで掻っ切った。


「霧の状態で攻撃するには腕を出さなきゃいけないんだろ?なら、僕のことをちゃんと見るためには、目がどこかにいるはずじゃんね。」


大正解。本当によく気づいたね。


やっぱり、




「知識はあっても知性に欠けるよね?人間って。」


僕は、足を出して彼の腹を蹴った。


そのまま、空中にまった彼に、刃を放った。


僕の計算通り。



僕の放った刃は、彼の肺に突き刺さった。





さて、窒息死する前にさっさと済ませよう。

私は体を出して、再度捕縛の術式を編んだ。

ここで、新たな問題が発生した。


僕が術式を編んでいる際、ふと気になって後ろを振り返ると、違和感を感じた。何かがいない……


…カルドが、いない?


気づいた時にはもう遅かった。


ズシュと、誰かの爪が私の心臓をえぐった。

銀製の爪だった。



「カ…ルド?お前、どうして!?」


似鬼血ができたのは今年だ。この目でしっかりその血を見た。

似鬼血の性質は人間の血を吸血鬼のような血に変えることだ。3年前にここに入ってきたカルドに擬態するなんて出来ない。

吸血鬼が吸血鬼同士でやり合うことはしない。感情がある限り、それはできないようになっているはずだ。

人間に協力することだって……



……もしかしたら。


感情がある限り、吸血鬼同士でやり合うことはできないし、吸血鬼が人に協力することもできない。



なら、感情がなければどうか。


もし、生き物の感情を失わせる、病気なんかにかかって、

いや、"かけられてしまったのなら"

今の状態にも説明がつくな。


完全に油断していた。


ある意味人間を知ってしまっていたからこそ、


この男の強さに惑わされ魅了され、その他のところに、目が行かなくなってしまったのかもしれ…ない……な。


…僕の思考は、そこで途切れた。









______________________________________________


やっぱ九牙ってすごいな。


前戦った九牙は、全然本気を出していなかったのだとわかった。

まさかいきなり切り札を使わされるとは。いや、相手が悪かったのもあるかもしれないが…


まぁカルドもいい感じに学習したみたいだし、結果オーライだな。



こんな化け物があと八匹か。




本当に、ここにきてよかった。

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