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第三話 アルと家

青葉と佐々木くんとやらを見捨てた帰り道。

人気のない道を歩いていると、背後から突然――ゴツッ。


鈍い音とともに衝撃が後頭部を突き抜ける。


目の前が一瞬、真っ暗になった。

足元がぐらつき、倒れそうになるが、なんとか踏みとどまる。

振り返ると、視界がぼやけ、焦点が合わない。


金属バットを握りしめた男が一人。

その目は冷酷で、躊躇なく人の頭をバットで殴れるとんでもないヤツだ。名前は知らん。

他の二人は武器を持っていないが、じりじりと距離を詰めてくる。


――報復だ。

伊達工のヤツらが、俺を狩りに来た。



****


もう、何度目になるだろうか。


始まりは、伊達工のワルに絡まれていた女の子を助けたことだった。

不純な動機がなかったと言えば嘘になる。なぜなら――彼女はポニーテールだったのだ。

ヤンキーにとってのマドンナはポニーテールと相場は決まっている。(偏見)


とにかく、俺のどストライクだった。

当然、男たちを蹴散らして名乗らずに去る――それが硬派な男ってもんだ。

後から考えれば、名前くらい聞いておけばよかったと後悔したが、それはそれでよかった。

問題は、その男だった。


数日後――。


数人の取り巻きを連れて、そいつは俺を探し出し、「探したぜ、加賀見(かがみ)!」と声をかけてきた。

「あの女、めっちゃ俺の好みだったんだよ。探してるんだが、見当たらねぇんだ……どこにいるか教えてくれよ!」――マドンナを探しているらしい。


俺の名前まで調べ上げる執念深さ。

その執念に呆れながら、俺は「俺の女に手を出すな!」とバリバリの嘘を吐いた。

「――やっちまえ!」

お決まりのセリフとともに、取り巻きの男たちが殴りかかってくる。


返り討ちにしてやった。


特に格闘技を習っているわけじゃないが、どうやら俺は喧嘩では強いらしい。

喧嘩は基本、先手必勝。

先手が取れなくても、勢いでなんとかなる。

俺より体格のいい格闘家――なんて連れて来られた日にはボコボコにされるだろうが、

そんなヤツはそもそもこんな喧嘩をしないだろう。

喧嘩に階級は存在しない。大きいほうが圧倒的に有利に決まっている。俺は割とデカいほうだからな。


それからだ――。


次は取り巻きの男たちが、別の男たちを連れて報復に来た。

そして、また別の男たちが――。

終わりのない報復のループ。


いつしか、俺は『狂犬』と呼ばれるようになった。


降りかかる火の粉は、飛び火しながら膨れ上がっていった。

これは自己責任だ――あのとき、マドンナを助けなければ……

最初の報復で返り討ちにしなければ……考えればキリがないが、たぶん、この螺旋は終わっていた。


ただ、俺が勝ち続ける限り――ヤツらの気は俺に向いたままだ。

それは、つまり……あのマドンナを守ることができているんじゃないか――

そう思うだけの、ただの自己満足だ。


人を助ける――人と関わるとは、こういうことなのだと思う。

手当たり次第に助けようとするヒーローでは、本当に守りたいものを守れなくなる。


俺は「世界一のヤンキー」だ。

心に決めた一人の女を――守り抜く。


****


金属バットで殴られ、先手を取られた。

朦朧とする。本来ならここまでか……となるところだが、今日の俺は機嫌が悪い。


「よう、『狂犬』!今日こそボコボコにしてやるよ」


「ちょうどいい。俺もムシャクシャしていたところだ。お前ら、金属バットで後頭部を殴ったんだ――死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?」


「「「――っ!」」」


---


あぁ……頭痛ぇ。

アイツら、いい加減俺には勝てないって気づけよなぁ。

丈夫な身体だけが取り柄な俺だが――さすがに後頭部はヤバい。


さっさと帰って、横になりてぇ……って、あれ?……………………………………………………………………………………………。


どうして俺は、こんなところにいるんだ?


ここは――知らない閑静な住宅街の一軒家。

でも、胸が熱くなる場所――。


---


「――おい、青葉!」


「――な、何よ!」


「ここで話すのもなんだから、とりあえず家に入れてくれるか?」


「――入れないわよ、バカ!変態!」


『コイツはあれだ……アホだ!』


青葉はカーテンで部屋着姿を隠しながら、俺を罵った。


だよな……タイミングが悪すぎる。犬の話と、俺の記憶と情報を整理してみよう。


俺は気づいたら、知らない家の前に立っていた。なのに、ここが妙に懐かしい。


でも、この家には――青葉美桜が住んでいる。


俺のクラスメイトで、隣の席の正義のヒーロー。この家に入って何か確かめたいが、俺は青葉美桜という孤独なヒーローに嫌われている。


そして――なぜか、俺は犬の言葉が理解できる。

犬は言った――この場所は俺の【前世】と関係あるんじゃないか、と。

この犬は、間違いなく俺より賢い。


よし――。


「ウォン!ウォンッ!」

『お前、アホか……今のやり取りで美桜の知り合いだということは分かったが、逆にストーカー疑惑が強まったぞ。

美桜からすれば、お前はただの恐怖の対象だろう。家を特定して押し掛けて来たようにしか見えん』


「――待て待て、ワン公!さっき説明しただろ!気づいたら何故かここにいたって!住所なんて特定してないし、青葉が住んでるなんて思いもしなかったんだ!お前も言ったじゃないか……前世の記憶がその断片を見せたんじゃないかって――」


「…………加賀見くん……アナタ、何を言ってるの?全然会話になってないんだけど……というか、誰と会話してるの?さっき説明?前世?」


青葉は不審者でも見るような目で俺をじっと見つめる。

さすがに怖いのか、足元にいる犬――アル――を抱きしめながら、「帰って!」とピシャリと言い放った。


これ以上は無理か……。

家に入れてくれれば何か掴めると思うんだが、説明しても誰も信じてくれそうにない。

はぁ……とため息を吐き、顔を上げるとアルと目が合う。


アルの言葉を俺が理解できるなら――きっとコイツは俺を信じてくれるはずだ。

さっきはああ言っていたが、目を見れば『今日のところは帰れ』と言っている……そんな気がする。たぶん。


「青葉……驚かせて悪かったな……」


「……」


青葉は答えない。

これ以上ないくらい嫌われているようだ。

とりあえず目標は――返事をしてもらえるくらいにはならないと、家に入れてもらうことはできないだろう。あと――。


「おい、アル!話が途中だったから、また来るわ」


「――なっ!」

青葉が鋭く睨んでくるが、俺はアルに向かって話しかけている。


「ウォン!」

『やめとけ、何も教えんぞ』


アルの言葉は完全な拒否とまではいかないように感じた。


この【家】が俺にとって何なのか――。

青葉美桜と、前世の俺にはどんな繋がりがあるのか。

そして、【アル】とどうして言葉を交わせるのか……。


相容れない俺たちが、『前世の記憶』をきっかけに恋愛……は、ないな。友達(ダチ)にでもなれば、家に上がるくらいはできるだろうって話だ。


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