表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

第二十二話 マドンナ

夜。

枕元のスマホがブブッと震えた。美桜のスマホだ。

勝手に覗くのはどうかと思いつつも、画面を確認する。


メッセージが一件。


**[見て]**


……これは?


**[使い方がわからないの?]**


ぬ?俺に向けたメッセージなのか?


**[パスコードは解除してるから]**


そこまで言うならと、恐る恐るメッセージを開く。

送り主は『青葉賢三』——美桜と斗翔の父親らしい。

オヤジのスマホから連絡が来たのか……賢三だけにきっと三男だろう。そんなことを考えていると——。


**[やっと見てくれた 背中痛い?(>_<)]**


思った以上に気遣うメッセージが届く。

しかも顔文字付き……意外とこういうのを使うんだな。


**[美桜のおかげで生きてる]**


**[また喧嘩したの?。・°°・(>_<)・°°・。]**


ぐっ……!その顔文字のせいか、妙に胸がざわつく。


**[火の粉はちゃんと消さないとな]**


**[誰の火の粉?(◞‸◟)]**


うっ……核心を突かれるメッセージ。

しかも、その顔文字が妙に察しているような雰囲気……。ごまかそう。


**[そんなことよりアルはどうしてる?可能なら写真を送ってくれないか?]**


少しの間があり、画像が添付された。

確認すると——こ、これは……!?


アルと美桜のツーショット!

しかもピンクの部屋着バージョン……。

アルの写真を頼んだはずが、まさか自分まで載せてくるとは……しかも、ほんの少し視線を外しているのが、恥ずかしさの証だとでも言うのか……!


**[もぉ、ごまかさないで!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾]**


ぐはっ!

硬派ヤンキーには刺激が強すぎる……!


美桜……弁当のときもそうだったが、普段のクールな態度とは裏腹に、小悪魔的な一面を持っているのか……?

平静を装ってメッセージを返す。

むしろこれが通話じゃなくてよかった。声に出していたら、動揺がバレていたかもしれない。


**[元気そうで良かった]**


**[加賀見くん アルのこと好きだね(๑˃̵ᴗ˂̵)]**


**[嫌いではない]**


アルもこのメッセージを見ているだろうか。

これは、この前の仕返しだ。


**[加賀見くんはどちらかというと、お兄ちゃんというよりアルに似てるって思ってたんだ あの時言えなかったこと(๑>◡<๑)]**


……すごいな。

俺なんて、ごちゃごちゃ考えてこの有様なのに、美桜は真っ直ぐに俺の本質を見抜いてくる。


だが、それでも俺はこう返すしかない。


**[犬じゃねぇか!]**


俺とアルが繋がっていることなんて、美桜に伝えるべきじゃない。

俺たちにとって、それが一番いい。


**[ (*≧∀≦*) ]**


……ふっ、可愛いな。

いや、待て。

今、俺が「美桜を可愛い」と思ったのは、俺自身の感情なのか……?

これはアルの記憶……じゃない。


俺自身がそう思ったんだ。

 


**[寝るか?]**


**[え?まだ火の粉の理由聞いてない(>_<)]**


**[悪い 背中がうずいて]**


**[わかった また明日お見舞い行くから(T-T)]**


**[おやすみ]**


**[おやすみなさいヽ(*´∀`)♡]**


いや、待て、絵文字のチョイス……。


ーーー


午前中。

思ったより早く目が覚めたが、それ以上に驚いたのは、すでにここに来ているヤツがいることだった。

美桜だ。

今日は土曜日で学校はない。とはいえ、なぜこんなに早く……。


「よくこんな時間に病棟に入れたな……」


「そう?普通に入ってこれたけど」


きっと、美桜の纏う雰囲気が、誰も近寄らせなかったのだろう。

それにしても、昨夜のメッセージのやり取りと比べると、想像もできないほどクールな様子だ。


「スマホが必要だったか?」


わざわざ朝早く来るほどだ。大事なスマホを取りに来たのだろうと思った。


「いいえ」

美桜は静かに首を振る。「あれから私なりに考えたの。どうして加賀見くんが大怪我をしたのか……」


テーブルを拭き、カーテンを開け、身の回りを整えながら、最後に椅子に腰かけると、じっと俺を睨んだ。


「……な、なんだ?」


「加賀見くん……アナタ、私のために喧嘩したのね」


「――!は……はぁ?意味わかんねぇ」


「スマホに残っていたのよ。刈北くんと佐々木くん、そして鮫島という人の通話のやり取り。それを録画していたの。

佐々木くんが教室に来た時、スマホを渡せと言ったわよね。つまり――」

 

美桜は言葉を切り、深く俺を見据える。「加賀見くんは危険から私を守るために喧嘩をして……そして、刺されたのね」


アルといい、星宮といい、勘のいいヤツが多くて困る。


俺は鼻で笑う。「ふっ、俺は世界一のヤンキーになる男だぞ。気に入らないヤツがいたからぶっ潰した。それだけだ」


「……そう」


美桜の声が一瞬冷たくなる。そして、静かに息を吸い込むと、まるで大地を揺るがすかのような圧を放った。


「じゃあ、私に説教される覚悟があるってことね」


「――え?」


ゴゴゴゴゴ――。まるで空気そのものが震えたような気がした。


美桜はまっすぐ俺を見つめると、言葉を畳みかけるように話し始めた。


「加賀見くん、何度言ったらわかるの!?いくら喧嘩が強くても、暴力で解決しても何にもならないわ!

やられたほうの気持ちになって考えてみなさい。力で敵わないなら、違う形で仕返しを考えるわよ。

実際、アナタは刺された。相手は力で勝てないから武器を持ったのよ!

それでも仕返しできないと思ったらどうすると思う?数を集めるのよ!そんなことになったら、ただでは済まないわ!

相手の人も犯罪者になるかもしれないし、何より――」


美桜の目に、涙が浮かんだ。


「アナタ、死んじゃうかもしれないじゃない!」


「――!」


その声は、出会った頃のそれとは違っていた。

正義のヒーローが悪を懲らしめるようなものじゃない。


俺の胸に鋭く響く――深く、温かく、そして痛いほどの感情が込められていた。


俺は知っている。

前世から考えれば長く、今世から考えれば短いこの関係。

だけど、ひとつだけはっきりしていることがある。


俺は美桜を、たった一人のマドンナにしたい。

  

  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ