第45話、追跡 (4)
「おそらくメイは、自分が渡した情報で、イマエールたちが旅人たちのお金でも強盗すると思っていたのでしょう。まあ、それもやっていいことだとは言えないけどね」
「それが、どういうことだ、ミル?」
「私たちが調べたところ、イマエールは思ったより用心深かかったわ。本人以外には、周りの連中すら何が起こっているのかが見えないように徹底的に取り締まっていた。とは言っても、町の不良レベルでの話だけどね。
いずれにせよ、メイはお小遣いをもらい、その対価としてどんな客がいるのかという程度の情報を流したのよ。まさか、それを使って人が誘拐されたり、女性が売られたりすることは知らなかっただろうね。そんな重罪に積極的に加担するほどの度胸もないだろうし。だからといって、この子のやったことが適当に許されてもいいってわけでもないけど」
ミルは哀れな目でメイを見つめた。
これでようやく話が見えた。
つまり、メイは自分が何気なく渡した情報によって、人が死んだり誘拐されて売買されるとは、思っていなかったということだ。ただお金くらい奪われて困るるだろう、と甘く考えていただけ。
そのうちに結局、メイ本人も連れ去られる状況に至ってやっと、どんなにやばい事態に巻き込まれたのか気づいて、急いで助けを求めたんだろう。ちょうど通りすがっていたのが正義感の強いウズクマルタカで幸いだった。
メイが手渡してくれていた飲み物の甘い味が思い出され、かえってさらにほろ苦い気分となった。
「お、おい…ホウジ。これっていったい、何の話だい?人が誘拐されたり、女性が売られたりとか…」
「お聞きになった通りです。私たちが今追っているのは、人攫いの連中です」
ミルの言葉にウズクマルタカは言葉を失った。彼はこめかみの血管が飛び出るほど頭に血が上っているし、私は… わからないな、自分が今どんな顔をしているか。多分、あまり違わないだろう。気持ちとしては、今すぐにでもあいつらを探し出して殴り殺したいくらいだから。
「以前から法が届かない地域で女性たちがしばしば消えたりしていました。警備隊でも何とか手を打とうとしましたが、証拠もろくになかったし、人手も足りなくて調査がなかなか進まなかったです。ところで、イマエールがホウジたちを狙うことが起きてから手掛かりがつき始めたんです。
イマエールは女性たちをさらって外部に売り渡していました。それも卑怯にも、サヤのような外から来たばかりの女の子や、このメイという子のようにいなくなっても後々のトラブルがなさそうな人たちだけを!」
冷静にいようとしていたミルも結局激高し、ウズクマルタカは空を仰いで静かに絶叫していた。 彼の噛みしめた唇の間から、うめき声のような怒りの声が漏れ出した。
「ご先祖の神よ。どうしてこんな惨めなことが…」
「それで今日、ジヌさんが…」
メイを追及していたジヌの姿が思い浮かんだ。 普段見せてくれたお人好しの姿とは全く違った、刃が立ったような彼の表情にはそんな理由があったのだ。それに、もっと被害者が出る前に一刻も早くこの件を仕留めたいから、気も焦ったのだろう。
そんな深い事情が知るわけがないメイは、それを大したことじゃないように答えたし。二人のテンションがあれほど違っていたのは、このせいだったのか。
「その日倒した連中を捕まえて尋問してみたら、思ったよりも大きな組織があったよ。イマエールですら、もっと上から指示を受ける中間幹部に過ぎないようだったし。
自分たちに割り当てられた数の人を連れていかなければならないのに、君たちを狙って失敗したから、すぐにでもまた別のターゲットを探すだろうと結論に至ったわ」
「だから、メイを監視しろって言ったんだ」
「まさかそのメイ本人を連れ去って行くとは思わなかったけどね」
ある程度物事の後先が見え始めたが、まだ私たちが直面している問題は解決していなかった。きっとあの金髪がイマエールと接触することにした場所があるはずなのに、そこを探すべきだろうか。メイの具合も心配だが、このままイマエールを逃すにはあまりにももったいなかった。
「ミルって言ったっけ?警備隊のお嬢さんに馬がいるんだから、このメイちゃんという子を町に連れて行くのはどうだい?ここは私とホウジが捜索をするから」
「ありがたい提案ですが、警備隊ではないウズクマルタカさんと、今日警備隊になったばっかりのホウジに任務を任せるわけにはいきません。それに飛び道具が使えない人同士だけで進むのは危険です」
「ウズクマルタカさんが、あそこに捨てられている馬でメイを連れて行くのはどうですか?途中で警備隊に会ったら、私たちの位置も教えてあげられるし」
「うーむ、それは…ちょっと待って、このお嬢ちゃんが目を覚ましたみたい」
ウズクマルタカの言う通り、メイは薄いうめき声を上げながら起きようとしていた。
「メイ!大丈夫?」
「ちょっと待って、ホウジ。あまり大声を出すとパニックになってしまうかもしれない」
ミルは慎重にメイの上半身を支えて座らせてから、柔らかく声をかけた。
「メイさん、私は警備隊のミル・イムと言います。気がつきましたか?」
「あ… 私は…」
「こちらにいるホウジが不良に連れ去られるメイさんを見て、ここまで追いかけてきたんです。何があったか覚えてますか?」




