婚約者に裏切られ処刑された私。時間が巻き戻ったので、今度こそ幸せになります!
私は、マリア・ハッピナール公爵令嬢。
ダストリア王国の第一王子、クーズ様の婚約者だった。
でも、貴族学校で出会った私の義妹にうつつを抜かしたクーズ様によって卒業パーティで婚約破棄。
しかも冤罪を押し付けられ、私は処刑されてしまった。
その時、女神様が現れて聞いて来たの。
「心残りは無いか?」って。
だから、私は「幸せになりたい」って返した。
そうしたら、なんと時間が巻き戻って貴族学校に通って来た頃に戻っていたの。
これは、私が幸せになるまでの奮闘物語。
城の地下牢。
その中でも特に重罪人を入れる為の牢屋。
その中の一つに、一人の女性が入っている。
売国奴、王国の敵、裏切り者……等々、彼女は様々な言われ方をしている。
そして、それらは全て正しい。
なぜなら、彼女マリア・ハッピナールは元々我がダストリア王国の公爵令嬢であり、第一王子である僕クーズ・ダストリアの婚約者だったにもかかわらず、この国を捨てたのだ。
彼女はいきなり消息を絶ち、なぜかいきなりアイルトン帝国のシュナイゼル・アイルトン第一皇子の婚約者になったのだ。
アイルトン帝国は我が国と隣接する巨大な国だ。
だが、いくら巨大な国とは言え、他国の王族の婚約者を勝手につれ出して婚約するなど許されるはずがない。
当然我が王国は抗議を行った。
しかし、帝国はなぜか我が国を非難してきたのだ。
曰く。
彼女の義理の妹がマリアの物を欲しい欲しいと言って全て奪って言った。
僕が婚約者であるマリアを大事にせず、義妹にうつつを抜かしていた。
僕が王子としての仕事を全てマリアに押し付けていた。
家族もそれを見て見ぬふりするなど、マリアを大事にしていなかった。
そんな彼女を保護するのは当たり前だ。
それが帝国の言い分だった。
しかし、王国には心当たりが全くない事なので、困惑するしかなった。
だが、それからすぐに困惑をしている場合では無くなる大事件が起こる。
なんと、帝国が我が王国に対し、宣戦布告をしてきたのだ。
曰く。
帝国の第一皇子の婚約者であるマリアを虐待した事は罪である。
帝国に対して戦争準備をしている事は許せない。
そして、それ以上に最も問題なのは、彼女の誘拐を目論み、失敗したので毒殺を試みた事は宣戦布告と同義である。
これらの事実も又全く心当たり無かった。
とはいえ、帝国による一方的な宣戦布告により、戦争が勃発した事は純然たる事実だった。
ところが、ここで帝国はおかしな戦法を取る。
なぜか、我が国の王都に向かって一直線に直進してきたのだ。
普通、このような手は取らない。
後方を取られない様に一つずつ砦や城を落としていく、とか。
市民の懐柔策を取るとか、普通そう言った策を取るものだ。
あまりの愚策に、罠の可能性を疑ったくらいだ。
結局、無策にも突っ込んできて、なおかつ敵国内にもかかわらず完全に油断していた帝国軍は、王国軍に包囲殲滅された。
戦後に将軍に聞いた所、相手の兵数は三倍以上だと言うのに、あっけない程簡単に倒せたと言う。
そして、この戦いでマリアの婚約者であるシュナイゼルは戦死。
つき従っていたマリアも捕らえる事が出来た。
帝国はこの大敗北により、軍のほとんどを失う事となる。
もちろん帝国内防衛の兵は残っていたが、我が国と戦えるほどの力は残っていない。
しかし、第一皇子が戦死した手前、今更振り上げた拳を下ろす事が出来なかった帝国は、我が王国からの降伏勧告に応じず、徹底抗戦を選択。
結果としてアイルトン帝国は地図から消え、ダストリア王国は国土を大きく広める事となった。
皇族はそのほとんどが戦死、生き残った者は全員死刑。
大勢の帝国貴族もそれに連なった。
帝国の植民地になっていた国は独立し、多くの小さな国が生まれている。
そんな中、僕は明日処刑される自分の元婚約者に会いに来たのだ。
「なんで……なんでこうなったの?」
看守に事前に聞いた所、彼女はなんで?とつぶやき続けているらしい。
「久しぶりだね、ハッピナール公爵令嬢。いや、もう君は王国貴族じゃないし、只の罪人だからマリアと呼んだ方がいいかな?」
僕がそう言うと、ようやく僕に気付いたらしくこちらに顔を向けて来た。
「クーズ……」
「今の君に僕をクーズと呼ぶ資格は無い。僕を裏切り、今回の戦争を引き起こした君に」
「……」
マリアはしばらく黙った後……
「アーッハッハッハー」
なぜか笑い出した。
「何がおかしい?」
「だって、だって……その言葉、私が牢屋の中のあなたに言った言葉だもの。同じ事を言うなんて、おかしくておかしくて」
「?」
彼女は何を言っているのだろう。
彼女の言葉を信じるなら、彼女が牢屋の中の僕に「今のあなたに私をマリアと呼ぶ資格は無いわ。私を裏切り、今回の戦争を引き起こしたあなたに」と言ったらしい。
当然、僕にそんな記憶はない。
そもそも、王子である僕が牢屋に入った事なんかない。
「……え……あなたには、前の記憶はないの?」
「前?僕は記憶喪失になんかなってないし、ちゃんと記憶はあるけど?」
「そうじゃなくって、時間が巻き戻って……」
「時間は常に進み続けるものだ。巻き戻るなんてありえない」
「え、じゃぁ、国王かその部下に……」
「時間が巻き戻ったなんて話、僕は知らない。未来を語る予言者にも会った事は無い」
「……」
再び黙った彼女、そして彼女は
「じゃぁ!なんで!こうなったのよ!私は!前回と同じように!やったのに!」
急にそう怒鳴って暴れ出した。
しばらく暴れてやっと彼女が落ち着いたのを見て、僕は疑問を口にした。
「じゃぁ、君は本当に時間が巻き戻ったのかい?」
「……ええ、そうよ。信じられないだろうけど」
「じゃぁ、ひょっとして今までの君の行動にも、それが関わるのかい?」
「ええ」
そう言って彼女は話し出した。
一度目の人生。
僕の婚約者になったマリアだが、僕は彼女を「可愛くない」とか言って徹底的に無視したらしい。
そして、その後母親が病気で死去。
父親がすぐ再婚し、彼女には義母と義妹が出来た。
なんでも、義妹は彼女の物を欲しい欲しいと言って全て奪って言ったそうだ。
家族もそれを見て見ぬふりをしていた。
そうして数年後、僕と彼女は貴族の学校に通い出した。
そこで僕は王族という事で生徒会長になり、彼女は副生徒会長に。
だが、僕は学校で出会ったピンク髪の少女である彼女の義妹にうつつを抜かし、生徒会長として、そして王子としての仕事を全てマリアに押し付けて遊び惚けていた。
挙句の果てに、卒業パーティで婚約破棄。
そして義妹との新たな婚約を宣言したそうだ。
しかも、義妹に対し嫌がらせをし、そして人を雇って襲わせたという冤罪をマリアに着せ、処刑したそうだ。
しかし、マリアの運命は大きく動く。
なんでも、処刑された後に女神に出会ったそうだ。
そして、女神に「貴方の人生に心残りは無いか?」と聞かれた彼女は、こう答えたそうだ。
「幸せになりたい」と
そして、女神に時間を巻き戻してもらったそうだ。
そして、二度目の人生。
彼女が戻ったのは、学生時代の始まり頃だったそうだ。
そして、自らの運命を変える為に努力していた所、留学していた帝国の皇子に見初められる。
そして、一度目の人生同様の僕からの婚約破棄。
そこで帝国皇子からプロポーズされ、王国と帝国の力関係から王国は強気に出れず、彼女が二度とこの国に入らない事を約束の上でこの結婚を認めた。
というか、王国は認めざるを得なかった。
しかし、その後彼女が王国にいなくなった事により様々な問題が噴出。
王国は、彼女の誘拐を目論み、そしてそれに失敗したので今度は毒殺しようとしたそうだ。
そして、帝国は皇子の婚約者の誘拐未遂、殺害未遂を理由に王国に対し宣戦布告。
戦争が始まり、あっという間に王国は攻め落とされて滅んだそうだ。
なんでも、その時王国内は彼女がいなくなった事により様々な問題が次から次へと起こり、何も対処できなかったそうだ。
そして、王族は全員が(僕と婚約していた義妹とその母親である義母も含めて)死刑になり。
王国地図から消えては帝国の一部となったそうだ。
その後、彼女は帝国妃となり、子供を何人も産み、国民にも愛される生活を送る。
それはそれは幸せな日々を送ったそうだ。
そして、三度目。
これが今の人生だそうだ。
彼女自身は前回の人生であり得ない程の幸福に満足していたそうだが、巻き戻ってしまったらしい。
それも、幼い、まだ私と婚約する前の時間に。
転生してすぐ女神と再会したそうだが、女神に「あなたは死ぬ前に幼い頃の苦労が無ければもっと幸せだったと思っていた。私はあなたを幸せにすると約束した。だからこの時間に戻したの。だから、今度こそ幸せになってね」と言われたそうだ。
こうして、マリアは再び幸せになる為の努力を始めた。
そして、その結果がこれだ。
「ねぇ、なんで?なんでなの?なんでこうなったの?」
彼女は今や牢屋の中。
明日には公開処刑で斬首の上さらし首。
裏切り者にお似合いの末路だ。
「私、頑張ったんだよ。前回の記憶を元に、もっと幸せになろうとして……なのになんで、どうして幸せになれなかったの?」
彼女は狂ったように泣きながら言う。
そんな彼女を見ながら、僕は思った。
彼女のいう事を信じたわけじゃない。
だが、彼女の行動を思い出すと、なんだか納得できた。
そう、それは初めて彼女と出会った時。
確かに、僕は彼女に対して可愛くない、という感情を持った。
だが、それ以上に僕が不快だったのは……彼女が僕をまるで親の仇、いや、汚物でも見るような目で見ていたからだ。
いくら当時幼い子供だからって、さすがに傷ついた。
なんでそんな目で見る?
僕が君に何かしたのか?
そんな彼女を見て、僕は彼女をギャフンと言わせたくなった。
僕に振り向かせたくなった。
だから、僕を徹底的に無視する彼女に何度も話しかけたり、様々なプレゼントをあげたり。
今までさぼっていた勉強にも力を入れた。
貴族学校に入る頃には、周囲から「王子は頭もいいし、なにより努力家だ。市井に積極的に降りて、様々な事を知ろうとしている。これで王国の未来は安泰だ」とまで言われるようになった。
そして、テストでは学年二位の成績を収めた。
一位はマリア、そして三位はシュナイゼルだった。
この結果に僕は驚いた。
マリアも、シュナイゼルも、どちらも授業をさぼってばかりで二人で遊び惚けているからだ。
なのに一位と三位。
いつ勉強しているのだろう、と疑問に思っていた事を覚えている。
だが、もし彼女の巻き戻しが本当なら、一度勉強した事だから勉強の必要性を感じなかったのだろう。
シュナイゼルには解答を教えてばいい。
そうすれば、シュナイゼルに対し自分が逆行している証明にもなるだろうし。
ちなみに、僕はマリアとシュナイゼルが二人でデートしている事に気付いていた。
側近はマリアに注意した方がいいのでは、と僕に進言してきたが、止めておいた。
あんなに幸せな彼女は初めて見たし、帝国との関係を鑑みればあまり強引な真似はしたくない。
それに、僕自身が努力して彼女を振り向かせたかったのだ。
そして、僕達は学生生活を終え、卒業パーティも何事もなく無事に終わった。
だが、その直後にマリアは行方をくらまし、なぜか帝国皇子の婚約者になっていた。
僕との婚約破棄すら行われず、だ
そしていきなりの宣戦布告、結果として帝国はあっけなく消えたのだった。
ちなみに、マリアの父親である公爵は再婚していない。
以前、「後妻を向かえないのか」と聞いた事があった。
家の存続の為、妻が早く亡くなり子供が少ない貴族の家が後妻を迎える事は当然だからだ。
だが、「娘の目を見ていると、怖くてできない。娘の目は私に早く死ね、でなければ殺してやると言っているようだ。そんな私が後妻を迎えたらどうなるか。娘に殺されるかもしれない。そう思うと再婚なんて恐ろしくて出来ない」と言っていた。
だから、僕はピンク髪の義妹になんか会っていない。
そもそもそんな女性は存在しないのだから。
後、これは聞いた話だが「私は公爵様の愛人よ!そしてこの子は公爵様の血を引く子なのよ!」と叫ぶ女性が公爵家に来たらしいが、公爵は追い返したそうだ。
なんでもその二人はピンク髪だったらしい。
公爵はそれからしばらく「娘に殺される……」と震えていた、と僕は聞いた。
そんな事を思い出して、僕は疑問に思った事を聞くことにした。
「君の話が本当だったとして、質問があるんだ。もちろん今回の人生の事で」
「なに?万年最下位の馬鹿王子。質問なんかしてる暇があるなら勉強でもしたら?というか質問を考える脳みそなんてあるの?」
どうやら、僕が学年二位の成績を出した事を知らないらしい。
無視して質問を開始する。
「質問一。今回の人生でピンク髪の少女……君の義妹、それから新しいお母さんとは話したの?」
「話すわけないでしょ。義妹はどうせあれも欲しい、これも欲しい、って言うだろうし、母親だってちょっとの事で私を責め立てて暴力を振るうんだもの」
やっぱり自分の父親が再婚していない事を知らないらしい。
「質問二。僕と君の義妹の関係をどう思う?」
「どうも思わないわ。どうせあなた達は隠しもせずにイチャイチャしていたんでしょ」
イチャイチャしてたのは君だろうに。
再婚していないからそもそも義妹なんて存在しないし、僕は誰ともイチャイチャなんかしていない。
勉強やら仕事やらで忙しくてそんな時間もない。
そんな事も知らないなんて、マリアの眼中に僕はなかったようだ。
「質問三。どうしてシュナイゼルとすぐ仲良くなれたんだ?彼も時間を撒き戻ったのか?」
「いいえ。ただ、彼は私の話をすぐ信じてくれたの。馬鹿なあなたと違って、彼は優秀だから」
……シュナイゼルは馬鹿なのか?
いや、テストの内容以外にも信じるに足る証拠を彼女は見せたのかもしれない。
例えば、これから〇〇が起きる、とか。
それが偶然成功して、信じられたのかもしれない。
「質問四。君が帝国に行った後、どうしてすぐ宣戦布告したんだい?」
「決まってるじゃない。王国民を助ける為よ。私が抜けた後国の混乱がすぐ起きるから、それで苦しむ民を一人でも救うためよ」
「よく帝王が納得したな」
「あなたと違って、シュナイゼルは信頼されているからね。私が今までの人生で知った王国の情報を教えたら、行動を起こしてくれたわ」
マリアは今回の前の二回で得た情報を教えたのだろう。
だが、三回目となる今回とは内容が全く違っていた。
さらに、王国が帝国に対して戦争準備をしている、とか誘拐や毒殺も、とかも二回目の人生であった事で、前もあったから今回もしているだろうと考えていたのだろう。
そして、軍を率いていたのはシュナイゼルだ。
信じた女の言葉を疑わずに軍をすすめ、あっけなく敗北したわけだ。
きっと彼女は帝王に「王国国内はガタガタです。大軍で攻めれば抵抗もなく降伏するでしょう」とか言ったのだろう。
で、それを信じた帝王、そして指揮官のシュナイゼルが馬鹿正直に信じて全滅、と。
シュナイゼルも馬鹿な奴だ。
どうせ疑問を呈した部下のいう事も聞かなかったんだろう。
「彼女の事を信じている。彼女が嘘を言うわけがないし、裏切る事も絶対にない。その想いに応えれれば、勝利は必ず来る」
とか言ったのだろう。
妄信だ。
いや、事実彼女は嘘を言っていたし、裏切ってもいないだろう。
だが、いくら彼女を信じていても、きちんと自分の頭で考えろ、と言いたい。
ちなみに。
僕は父上から結構信頼されているんだけど、ね。
実際「お前なら王国を任せられる、お前は私の誇りだ」と言っていただけたし。
質問を終えて、僕は呆れてしまい、言った。
「君は馬鹿か?」
「なんですって!馬鹿に馬鹿と言われたくないわ!」
激高する彼女。
僕は彼女に呆れながらも話し出した。
僕が成績優秀者で、皆から将来を期待されている事
彼女の父親が再婚していない事、だから当然義母義妹もいない事。
そもそも存在しない義妹とは会う事も不可能だからイチャイチャなんか出来ない事。
それらを話した。
だが、彼女は。
「つくならもっと上手い嘘を言ったら?」
そう言ってまるで信じなかった。
「本当だ」
「ありえないわ。私はあなたの事をよく知っている。私の父の事もよく知っている。他の人もね。だから、あなたの言う事は絶対にありえない。だから全て嘘よ」
……ああ、そうか。
ようやくわかった。
マリアは、僕や父親、義母義妹の事を単なる邪魔者、汚物としか見ていないのだろう。
いや、どうでもいい存在と思っているのかもしれない。
だから、興味がない。
関わりたくもない。
どうなろうと知った事ではない。
そうやって生きて来た結果が、この結果なのだ。
そうなると、もう僕の言葉は彼女には届かない。
彼女にとって、僕は一度目や二度目の僕と同じ考えをする人間なのだろう。
僕と言う人間をきちんと見ない彼女には、何を言っても無駄だ。
残念だ。
僕は彼女に認められたくて努力したのに。
彼女は僕の事を石ころ同然に見ていたのだから。
僕は、牢屋を出る為に歩き出した。
そんな僕の背中から、彼女の声が聞こえた。
「見てなさい!次の人生では、あなたを必ず断頭台送りにして見せるから!!」
そんな彼女の声を聞いた僕は、
「君がそうなったのは自業自得だ。だいたい、君の話を信じるなら、傷付けたのは一回目と二回目の僕だ。今回の僕には関係無い事だ」
「馬鹿な事を言わないで!同一人物よ!」
「だとしても、僕は君に何もしていない。いもしない義妹といちゃついてもいないし、婚約破棄もしていない。まして、君にありもしない罪を押し付けて処刑にしてもいない!」
「だから何よ!前の時はしたわ!!」
「同一人物だとしても、一回目と二回目、三回目の僕は、それぞれ違う体験をしている。それによって考えた方が変わってくるかもしれないし、違う行動をする事だってあっただろう。第一、君の復讐相手は一回目と二回目の僕のはずだ。三回目の僕に対して復讐しようとするのは、単なる君の八つ当たりに過ぎない!」
まして、一回目の僕はマリアを処刑したらしいが、二回目の僕は処刑していない。
なのに、二回目の僕に一回目の僕の罪を背負わせるのは過剰な復讐ではないだろうか?
そして、今となっては復讐相手を間違えているのと同義だろう。
「そんな事ない!そんな事ない~!!」
そう叫ぶ彼女の声を聞きながら、僕は牢屋を去ったのだった。
僕の自室。
そこには、新しく僕の婚約者になった女性がいた。
ミーニャ・ロリリーナ侯爵令嬢。
彼女はまだ十歳だ。
僕の婚約者の座が急に空いたので大至急新しい高位貴族の令嬢を迎え入れる事になったが、皆婚約済み。
今更婚約破棄してくれなど言えるはずもない。
何らかの理由で婚約破棄した令嬢はいたが、一度王族より下位の貴族と婚約した令嬢と婚約するのも難しい。
王族には守らねばならない体面と言うのがあるのだから。
そして、選ばれたのがミーニャだった。
彼女は幼いながらも優秀で、婚約希望者が多数来ていた。
それゆえに、よりいい人と結婚させたいと言う彼女の両親の意向も有って相手がなかなか決まらなかったのだ。
こうしてまだ婚約者がいなかった彼女は、僕の婚約者になった。
未来の王妃としての勉強も、順調だと言う。
彼女なら王妃として上手くやっていけるかもしれない。
大変な事は、未来の夫である僕が一緒に負担すればいいのだから。
「クーズ様、どうされましたか?お疲れのようですが」
「あぁ、元婚約者と話してきたんだが、変な話を聞いてね」
ミーニャに、マリアから聞いた話をかいつまんで話した。
「変な話ですね。時間が巻き戻るなんて」
「だろう?」
「でも、よかったです」
「何がだい?」
「だって、それが本当なら、巻き戻ったおかげで、クーズ様と婚約出来たんですもの」
「そうだね」
僕は笑ってから、ちょっと意地悪な質問をする事にした。
「でもさ、もしかしたら巻き戻らなかった人生では、ミーニャはもっと幸せだったかもしれないよ」
そう、彼女の人生はどうなるか分からない。
未来の王妃になる為の勉強は過酷だ。
多くの内容を、大急ぎで習得しなければならない。
幼い彼女の負担は相当だろう。
「かもしれませんね。でも……」
彼女は笑って、続けた。
「私が生きているのは今この人生なんです。この人生で、私は精一杯頑張ります。たしかに、巻き戻しなんて力があったら便利ですけど、そうしたら一日一日を大切にしなくなります。だって、やり直しが出来るんですから。だから、私は今の人生を頑張ります!立派な王妃になる為に!!」
ミーニャの笑顔は、とても素敵だ。
それだけでは無く、何より未来に向けて頑張ろうとするその顔は、いかなる絵画にも描かれていない、素敵な物だった。
「そうだね、僕も未来の王として、頑張るよ」
そう言って、僕はミーニャの頭を撫でた。
マリアは言っていた。
「次の人生では、あなたを断頭台送りにして見せるから」と。
仮に彼女のいう巻き戻りが本当だったとしても、僕には関係ない。
僕が生きているのは今この人生なのだから。
この人生を、この時間を、僕は一生懸命生きる。
新しく婚約者になったミーニャと、部下と、国民と。
彼らを大事にして生きていく。
そして、翌日。
マリアは処刑された。
「見ていなさい!必ず、あなた達全員にザマァっていってやるんだから!そして、私は今度こそ幸せになって見せる!!」
彼女は最後までそう言って死んでいった。
……
…………
………………
……………………
…………………………
……………………………
「父上、母上。何か御用でしょうか?」
「おぉ、クーズ。お前の婚約者が決まったぞ」
僕、クーズの婚約者がようやく決まったようだ。
「父上、誰なのですが?」
「うむ、ミライノ侯爵家の、ニバーナ令嬢だ」
「あれ、ハッピナール公爵家の令嬢ではないのですか?」
確か、マリア・ハッピナールという令嬢が、僕と同い年だったはず。
家柄的にも侯爵家より上の公爵家だし、婚約者もまだ未定。
彼女になると思っていたんだけど。
「うむ、実はな、以前はそうするつもりだったのだが……」
「何か問題でも?」
「実は……いや、子供に言う事ではないか。下がりなさい」
「かしこまりました」
疑問に思ったが、国王たる父の言葉に従って下がる。
「まさか、あの令嬢がいきなり気が狂ったなどと言えるわけがないな」
「えぇ、公爵の話によると、『もう巻き戻るのは嫌』『死にたい』『やっぱり死にたくない』『もう苦しむのは嫌』『消えたい』『幸せなんかもういらない』等と言って部屋に閉じこもっているらしいですわ」
「部屋から出そうとすると暴れるらしいな。以前は公爵夫人が彼女は王妃にふさわしい、素晴らしい子だと自慢していたのに、なぜ急にこうなってしまったのか、医者に見せても原因は分からないそうだ」
「怖いですね。未知の病気とかでなければいいのですが」
両親が何か会話をしていたが、僕に具体的な内容は聞こえなかった。
これから勉強の時間だ。
勉強は嫌いだな……。
そう思いながら歩いていると、女神像が目に入った。
代々王家に伝わる、願いを叶えてくれると言う女神像。
僕はその女神像に願った。
なにか、勉強をしたくなるような事件が起こりますように。
そんな願い事をしつつ、僕は自室へ向かって歩き出したのだった。
一応、逆行物へのアンチテーゼのつもり。
なってるよね。
よく、一回目の人生で碌な目に合わなかった主人公が、二回目の人生で復讐するって話、ありますよね。
私も大好きです。
でも、もし二回目の人生で悪党共が主人公に何かする前に痛い目にあわされたら。
それって【ザマァ】って言えます?
悪党側からすれば、「俺何かした?」と思うでしょう。
そもそも、復讐すべき相手は一回目の人生の相手のはず。
だって、一回目の相手は復讐されずにのんきに並行世界で暮らしているのですから。
まぁ、色々考えがあると思うので、私の考えが正しいかはおいておきます。
この作品はこんな考えから浮かびました。