growth 8〔転生竜、アナタはワタシの名を呼ぶ〕③
自分が思うエルフの特徴は、容姿端麗・耳が長く上部は尖っていて長寿、あとなんか自然的なものを大事に崇めて営みとして共存をしている的な。
なので現状は容姿と耳くらいしか判別のつく特徴も見当たらないのだが、自前の勘が言う――間違いない。と。
ちなみに独断と偏見の責任は負わない。
「ワタシの言ってるコト、分かるかな……?」
おっと。黙秘を続けていた訳ではないのだが、どうやら変な勘違いをされて。
「分かります。私の方は問題ありません」
なんだけれども、何故か驚く様な表情をされて。
……何?
と戸惑っている内に沸き起こる周囲からの声。それは感情的な衝動で発する罵りや憤りが含まれており、場が荒れ始める。
その根源となるのは迷宮から出て来たばかりの幼き身柄の事なのだと直ぐに理解する。
なんというか、この場に居続けるのは状況的に言って良くはなさそうだ。が。
……どうしたものか。
勝手に場を離れる訳にもいかない雰囲気はあるし。
悩む、目の前に居るエルフの女性を見詰めて。すると華奢なその手が一層か細い子供の腕を掴み取り。
「一旦ギルドの船へ戻って、この子の安全を優先します」
次に屈強な見た目だが服装は似たり寄ったりの者達が手際よく役目を分担し退路を築くさまは軍人の演習を見ている感じで見惚れそうにもなる、が懸命さに引かれる我が身はその真剣な顔付きに心を移す。
エルフって本当に、綺麗なんだな。と。
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――結局、島の住民から守られる様な形で船に乗せられて、そのまま。
べつに懐かしむ事も無ければ、思い当たる節すらも無い。
当然と言えば当然で議論の余地はまるで皆無。
そらそうよ。だって半年程の間、迷宮でしか過ごしていないのだから。
共に暮らす内にとか生易しい環境でも無かったし、聞かされた内容だって思い出と言うよりかは過酷な、孤児の記憶。
いつか一緒に行ってみたいねーなんて、そんな過去を掘り下げてみようと思える場所では――、……――ま……――……――まただ。
一瞬だが頭の中で何かがフラッシュバックした。
「君、大丈夫……?」
あっと、いつの間にか――自分の方が。
「問題ありません。続けてください」
そうと可憐な呟き。
おっさんには堪らんエルフの息遣いである。
――ん?
なんか突然、睨まれてる……? まさか心の声が。
「ねぇ君、どこでそんな話し方を覚えたのかな?」
「……話しかた?」
「そう、なんと言うか――年長者みたいに話すから。君は子供だよね?」
「ぁぁそうと思います……」
「思う? どういうコトかな」
マズい。何故かは分からんが疑われ始めた。
いや理由は分かっている。が――。
「――島で周りの、大人が話すのを聞いて覚えました……」
「ァ。そっか、そうだよね。余計な事を聞いちゃったよね、本当に」
「お気になさらず……、私も慣れない事がいっぱいで混乱してます」
「そっか、そうだね、疲れちゃうよね。……――一旦聴取を止めて、外に出てみる?」
「外……」
「乗船してからずっと室内でしょ、外は海ばっかりだけど新鮮な空気って言うのかな、脳に酸素を送るのは息抜きになるからね」
なるほど。独特な誘い文句だが、意図は理解した。
という訳で。
「――是非にも」
おっとっと。――危うく転けそうになった。
実を言うと、まだ手足の感覚には慣れていない。
とはいえ元々は人間で幼少も当たり前だが経験済み。
言う間に思い出すとは思うのだが、身体の方ではなくて心? 感受性と言っていいのか分からないが、とかく。
「……凄い」
船の甲板にて一面の大海原が感動的である。
不思議だ。海くらいは来る前に何度か見る機会があったのに、まるで童心に返った様な。
「――不思議だね、陸から見るといつもの風景なのに海へ出て見ると、まるで一部になった気持ちになる」
それは、そうか。そうなんだなと納得し船べりに肘を置く彼女の方を見る。
「……見て分かると思うけど、ワタシってエルフなんだよね。ただ森を知らない、見たことは何度もあるけど育んだ生き方をした事がない。きっと君もそう、人の中で海を見育ったけどまだ知らない事が沢山ある、人の子であるというだけで」
お察しの通りに、今自分は初めての感動を得ている最中。
「不安もあるとは思うけど、新しい事の始まりに万全てないんじゃないかな」
ム? ――あ、そうか。そういうコトね。
「しばらくは不自由に思うかもだけど、ちゃんとサポートをするから――その、……ワタシの言いたい事って伝わるのかな……」
本当有難く存じますよ。と。
「温かいお心遣い痛み入ります。ご厚情を賜り、しばらくの間お世話になりたく存じますので、よろしくお願いします」
吹く風清らかに向き合う二人の一瞬をなびかせて鳥が鳴く。
航路の先に何が在るのかは知らないが、水平線に近く落ちていく太陽は暮れる頃合いを示し。そんな中で、彼女は顔を不可解な面持ちにして述べる。
「……君、本当に変わってるね」
実を言うと女性に対する免疫が少なく緊張すると仕事口調になってしまうのだ。
お恥ずかしい限り。――しかし。
「でも、おかげで気がほぐれました」
異世界ファンタジー、その王道たる主役と言えるエルフ種の存在は転生後の生涯では初とも言える胸の高鳴りを感じさせるに至り今――俺は実感している。
本当に、異世界で転生したのだ。と。
改めて心が躍る。
そして焼け始める空と海に浮かぶ船の上で、微笑する彼女の姿を強く刻む。
始まりは唐突けれども運命は穏やかに――。
船体が時の流れに染まっていく、最中慌ただしく現れる何方かが。
「ギルドより通信です! 予定航路を変え着港地の変更との旨、到着は明朝となります」
――そう成り行きとはいつもその首尾で挟む宿命に過ぎないのだ。
▽
恩寵を決定する、定型句を聞く少し前の時点。
質問をし終えた纏めの段階に入る。
「……要するに、例の少年を生き返らせる為にはもう一度迷宮を攻略して恩寵とやらの預貯金を貯め込む必要がある、と?」
「ハイ、正確には蘇生するのに足り得る総量分の累積です」
なるほど。攻略そのものの回数は分けてもよいと。
楽な数回をこなす、ちゃちゃっと一発で、はたまたその組み合わせか。
しかし肝心なのは――。
「――具体的には」
「神位としては正三位に値する迷宮か等価であれば、人の子を蘇生するに十分な恩寵を受ける事が出来るでしょう」
しょうさんみ……。基準として耳馴染みはない、が。
「今回の分は?」
「此度は正五位上でしたが彼の者を保存する生命の保管を行いますので略残りません」
じゃあ完全に報酬的なのは無しか。
「そうでもありませんよ、此度は神位に相応しい褒美が存在しますから」
「でもそれは殆ど無いって今言ったじゃん」
「それは恩寵であり、褒賞とは別の施しです」
「ェ、マジ?」
「マジのモンです」
それ言っちゃっていいんすか!
「――でその褒賞と言うのはッ?」
「フフフ、女神アマウネトが授けし宝器。――所謂神器と呼ばれる代物です」
うぉおおおお! その響き大好きっスッ!
「存分に崇め奉りください。――詳しい内容は恩寵を決定したのちほどにでも」
ういっす!
「ところで、ここからはアナタ自身の願望についてなのですが……」
ム。――スッカリ、もといウッカリとしていた。
寧ろそっちが元来の目的だろうに。
「そもそも転生者の望みを成就させる支援をするのが、女神本来の務めです」
つまりサポートってコトですね。
「ただ残念な事に、このままでは当初の神託その予定を大きく変更せざるを得ない状況になりそうで、無論アナタの意思に基づく方針とはなりますが……」
ほう。よくわからんが、とにかく――聞こうじゃないか。
転生竜、アナタはワタシの名を呼ぶ/了