growth 7〔転生竜、アナタはワタシの名を呼ぶ〕②
ちゃんと理解をもしくは聞き取れなかったかもしれないので、もう一度問おう。
「蘇生に必要な恩寵を全て得るまではアナタが彼の者として活きる、と言うコトです」
ぁ、神権。――此処はそういう調子で進行するのだった。
だがしかし断然と。
「何を仰りたいか分かりませんね」
「……――なればもう一度」
ああ御免。
「分かった。言いたいコトはもう分かったから……」
だからって。
「思い迷う事は当然です。先んじて申しましたが猶予などはありません、が決断を先延ばしにすることは叶いません。故に納得のいくまで思案し、必要とあらば問い掛けにも計らいます」
……そっか。
「じゃ悪いけど付き合ってくれる?」
「ェ、あ……ハィ。どうぞお気軽に」
ん? なんか頬が赤くないか。
まあいいや。――だったら時間なんて気にせず徹底的な質問攻めにしても、いいよね?
▲
――思い起こす数時間前の出来事を。
途端に響くノックの音、我に返って。
「ハイ?」
「ゴメンなさい、ギルドの事情聴取に協力をお願いしたく。……入ってもいいですか?」
――事情聴取? イヤ。
「どうぞお入りください」
「……、――失礼します」
はて、なんとなくだが少し間があったような? ――気のせいか。
「さっきは手短な挨拶でしたね。改めまして、ギルドから調査員として派遣されて来たエルミアです」
会釈を返す。次いでその特徴的な容姿に――。
やっぱりエルフだ。
――本能的な興奮が、内心で感情を高ぶらせる。
しかし事前に会っていた事もあり。
「これはご丁寧にありがとうございます。私は――」
――私は。何――名前、本名、それはさすがに。なら――。
「……えっと」
マズい、場の空気が変な感じに。
とは言っても俺の名、名前は。
「――ス…プ…ランディ、です」
「ぇ、ランディ……?」
文字通りハトが豆鉄砲を食らったような唖然とした表情。
何? ――そんなに面くらう名前なのか。
「名前が、ある?」
ヘ。次は逆に自分の方が――イヤ、そうか。
思い当たると同時に相手の反応もまた端無く、あっと気付く互いに不思議な光景。
……どうした?
「ゴメンなさい。村の住民から聞いた話だと名前が……その、孤児だからと」
なるほど、それか――、……――ん? ……――……――何。
頭の中に唐突な雑音。ザーと映る様にして消える身に覚えのない情報。
もしかして――これって。
「あのワタシ、その言い方が……」
おっとっと。逆に申し訳ない感じで――。
「――お気になさらないでください。名前は、自分で考えたものです」
「ェ。ぁ、そういう……。分かりました」
でイイよね……。
誰に聞くでもなく自己完結。
「それでは書類にはその名前で記載させてもらいますが、構いませんか?」
「問題ありません」
ではと手持ちの紙に、話の流れからして名が同じく有するペンで記入され。
「こちらの配慮不足で挨拶からモタついてしまいましたが、改めて聴取させていただきたい事がいくつかあります。ご協力ください」
「分かりました」
ま、取り敢えず――無難な回答を心掛けよう。
…
当初に居た島から出航し数時間、俺は現在迷宮を共に過ごした子供の身体で活動をしている。――何で?
ソレには深い訳がございまして。
それ故にかは分からないが折角の木造船に浮かれる間も無く船室にて事情聴取をも受ける始末。何処に行った、俺の異世界ドラゴンライフは。
とはいえ現実的には今居る状況、世界の成り立ちや在り方を知る事は有益な時間と言えなくはないだろう。
実際、知らない事は知る由も無い。
質問をするにしても何について如何な内容を聞きたいかは存在自体の把握をしていなければ想像にすら及ばない。
知ることだけが唯一“知る”を得る事となる。
しかし時の偉人は言う――。
「じゃあ守護者を倒した後、ずっと恩寵を何にするか考えていたの……」
――知ることだけでは充分ではない。と。
グレイス? なるほど。一般的にはそう言うモノなのか。
「……それで、何にしたのかな?」
ム。――それは。
「決めかねました」
当然エって顔をされる。
しかし事実を言う相手かの判断は現時点で出来るだけの材料がない。
「いろいろと考えてはみたのですが、現状でシックリとくる願いは無かったので女神様にお願いし保留にしました」
「保留ッ? ど、どういうコトかな……」
なんか思いの外、驚かれてる様な。
まあ妥当なのか。だって。
「迷宮攻略者が恩寵を貰わずに出て来たなんて、聞いたこと……」
この世界の事情はまだ知らない事だらけだが想像の範疇ではそういう感じになると思う。
「一応次回攻略時に今回の分を勘定に入れてくれるとの説示もありましたので、それで此度は叶えずに出て来ました」
てな感じで問題はないだろう。若干女神様の口調がうつった感じもするが、気にせずに。
「……そんなのって」
どうやら相当な衝撃を受けてしまった様子だ。
――さすがにその辺の加減は分からん。
だが今回の一件で判明した事もある。
この世界に於ける竜という存在は良くも悪くも有る宗教じみた象徴的な言葉であり、軽はずみに発するのを止めて注意すべき事柄と。
実際迷宮から出て来た時の事を思えば――。
▼
“さすればアナタの願い、新たなる刻の祝福にて世界を彩る稀少な一輪の華とせん”
定型句と言うヤツだろう。
本体は地味めだがやたらと輝く装飾品を多分に着ける女神の一声でその場が、もとい俺自身から眩い光が放たれる。
次いで感覚と言う輪郭がボヤけて浮く様に『自分』という存在が竜の肉体を離れて他人事と成る客観的視点に留まり、幾分かは困惑する。と近く現れた見覚えのある幼き容姿を持つその身柄が子竜と重なり再び眩い光が、今しも全てを呑み込む。
――人事、切り離されていた感覚が戻る。
それは懐かしさすらもたらす、久しぶりの。
「……本当に出て来よった」
そしてザワつく、口々に言う感じで。
まだ目は慣れていないのか開くこそすら儘ならない。
ただ聞こえてくる内容としては大部分が驚き、次いで感嘆とも取れる呟き。と。
“竜は何処だ?”
心配して言う声色では無く、悍ましいモノを口にするかの様な忌んだ心の音。
分かる気がする。
普段は何とも思わなかった大人の声に各々の本音が乗っているのが。
「退いて、道を空けてください。――離れて」
ん? 何だ。――声の調子が村人っぽくないな。
丁度目が明きそうだ。
「ここからはギルドの方で処理します。彼に近づくのもお止めください、無理に通ろうとした場合は実力行使をも行います」
……なんか、見たくない感じなのだが。
とはいえ恐る恐る。
「――君、大丈夫? 何があったのか、話せるかな」
声の感じは凄く――ぉ? ぉわ、スゴい。
「……えっと」
スゲェ、エルフだ。本当だッ耳が長いぞ!
おっさんのテンションは急――上昇ッ。