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growth 4〔転生竜、竜生活の幕開けそれは運悪く〕③

 空中より観察、敵は図体では比較にならないデカさ。

 ――大部屋の全体に根付いている。

 本体の幹が部屋の中央で、その太さは旋回が出来る程に巨大だ。

 俗に言うトレントと呼ぶべき樹木の魔物って外形だろうか。

 某時〇カのデ〇の樹――おっと、これ以上は大人の事情なので。

 さてと、何処から……。

 正味、内心では余裕がある。

 何故なら木だからだ。

 ぜってー燃えるじゃん、相性最高でしょ。直接戦う上では超絶有利、しかし問題がある。

 ――現状まともに遣り合う訳にはいかない。人質となる少年の拘束を解かなければならず、助け出す為にも手立てを講じる必要がある。

 その身柄は、今もまだ樹木の手中にあり枝から伸びる触手の様な蔓に絡まれて捕らわれたまま。

 位置的に躯幹も近く下手に延焼すれば巻き込まれる可能性は極めて高い。

 防火布――イヤ、さすがに直接ともなれば防ぎ切るのは信憑性がない。

 何よりも問題は燃える際に出る煙の量だ。

 いくら部屋が大きくとも燃える対象が同じくデカいのなら利点にはならない。

 ああッなんて不遇! 相性だけなら文句無しの最高なのに悉く環境が不調和。

 せめて少年の身を確保するか意識を取り戻させて何らかの――。……いいや。

 既に子供としては十分過ぎる功績で。口内にはまだ少し薬草の苦味が残っている程。

 ――ならばだ。

 ここから先は大人の仕事じゃい! ミドル様を舐めるなよっ。

 先ずは成り行き任せ、行き当たりバッサリ。少年を捕らえている蔓を降下速度で増す勢いのまま接近し――切り裂きに行く。

 スパッン。

 これは予想を上回る爽快な音。と理想的な成果にて、引き続き。

 ――お、っとっと。

 さすがに、タダでは如何とばかりに妨害の蔓が予定していた経路を塞ぎに来る。だけでなくムチの様にしなる茎は我が身をも掴みに魔の手を伸ばし――襲来する。

 うおおおっほ、ヤベェ! ――気持ちヒィ!

 まるでシューティングゲームさながらの戦闘機状態。

 次から次へと襲い来る触手をすんでのところで逃れる疾走感が堪らない。

 まさか大空を見ずしてこんな地下の一画でこれ程の感覚を得られるとは。

 であれば尚の事、地上への復帰は是が非でも。

 この心地を知った以上は空を舞う欲望を回避するすべ無し!

 うやッほーい! ――ぬッ?

 回避行動を行いながらも若干速度を抑制し、見定める。

 ……何だ? なんとなく、今までと追撃の雰囲気が変わった。

 しかしこちらは天井に近い部屋の上部、枝から伸びる蔓を引っ込めて間を空けたとて距離を取るメリットは――。

 ……ぉぉ? ――部屋が。

 振動している。

 自身は空中に居るので影響を受けてはいないが、部屋全体が激しく揺れ動き始めた。

 何だ? なに、何が……?

 気付くと追撃の手は完全に止み。状況を見るのに集中し過ぎて行動がその場での停止となり滞る。と、――次の瞬間。

 ぇ何? うおッハ!

 背後もとい真上からの奇襲。

 ギリギリっていうかオマエッ!

 枝、イヤ根元から動くのかよ。

 だとすればヤバい。

 この部屋は床は勿論、壁や天井の至るところ樹木が根付いている。

 本体から離れていても空間を形作る部屋そのものが攻撃の起点となる。向こう見ずでは動く事が場当たりとなり、良くない。

 うはぁ……。――どうする。

 まだ何一つ成し得ていない。

 最初に一本蔓を割いただけ、なんなら既に別の蔓で補填されている可能性が大。


「――ッッ」


 うわ、なんだオマエそれって。――笑ってんのか?

 人面樹の縁取りで、馬鹿にしようってか。

 こちとら入社以来芽の出ないキャリアで同年代を見送ってばかりの哀れを度々経験し鍛えたメンタルよ。その程度のって、うわっ。


「ッ――ッッ」


 言葉とは似ても似つかぬ木々の擦れる不気味な轟き。

 だがそんなコトを気にする余裕は無くなる。

 ダアアアッ捕まってたまるかァ!

 縦横無尽と転じて四面楚歌、絶望的に逃げ場が乏しい追いかけっこが始まった。




  …




 油断大敵。――守護者が居ると知りつつ転送された部屋の中には巨大な樹木があるだけで、他には何も無かった。

 迷宮は次の階層の間に必ず休憩地(レストエリア)があり入室すると迷宮の名称と踏破した階が部屋の真ん中にて示される。その空間は何もない部屋で、中央の光源と思しき光る石の上で可視化されている踏破階数以外には特に取り立てて言う物がない。

 なので疲労がなく途中休憩もした後だったので、わりかし直ぐ転送に踏み切ったのだが。

 地下迷宮“蔓延る魔獣”の最上階。その守護者とは如何なる魔物か――。

 その名称、故に出現する魔物は獣であろう。と思い込んでしまっていた。

 結果なにも現れぬ緩みと地下に生える巨木の視覚的衝撃で一人と一匹は観光気分。

 そして疑いもせず。

 咄嗟、何かが擦るような音で気付いた時には、もう手遅れ。

 身動きを封じられながら微かに香る花の様な匂い、その記憶が最後で。

 恐らくは――。


「ッァァァ」


 ――あの蔓に捕まるのは、避けるべきだ。

 十中八九なんらかの催眠作用があると思われる。

 例えるなら食虫植物等が獲物を捕らえてその後ゆっくりと栄養を吸収する様に、捕獲し行動を封じるだけでなく――反撃等を阻害する為。

 実際に体験した身としては夢心地。催眠術や幻覚を見せられていた様な感覚だ。

 それでも結果として抜け出す事ができたのは運良くではあるものの効果が完璧では無いという不確かな裏付け。

 だとしても不用意に捕まる訳には――。

 イヤ無理っしょ。

 ――攻撃の手が、激し過ぎる。


「クァァァッ!」


 先程までと見渡す景色がまるで違う。

 襲い来る蔓の間に少なからず逃げ場、空間としての隙がいくつも存在していた開始とは違い赤茶色の太い枝や木の根と思しき部位が次の行き場所を埋めていく。

 四方八方内壁に近い所は見るまでもなく危険な領域、降りてくる根の幕に追い回される状況で逃げ道は完全に――塞がれ。

 閉幕と成る。

 うぁぁ、これは……。




  ▽




 念願の竜に転生した初日の夜、異世界地下迷宮に居ながら初めて経験する女神の誘い。


「ようこそお越しいただきましたは女神の園、今宵よりアナタ様をサポートします女神アマウネトと申します。これからよろしくお願いします」


 転生時にお会いした女神とはその身なりからしてハッキリと別神? と分かる。

 その特徴として装いは清潔でさっぱりとしているのに、やたらと煌びやかな装飾を着けており、古代エジプトの偉い人――みたいな。


「これですか? わたくしの出処(でどころ)由縁でして、詳しくお話をしましょうか」

「……結構です」


 と言うか今のって。


「お察しの通り、神の前では言葉にせずともアナタの考えは知れます」


 やっぱり。てかセコくない? 自分の方だけって。


「……これは神としての才幹で多種多様なモノと接する上では重要な力、神権なのです」


 なるほど。ま、そうか。


「実際アナタとも隔てなく話ができるのは神権がある故、そして個としての要求や渇望を精確に把握する為にも必要なのです」


 オーケー。十分理解した。

 ――そしたらば、だ。


「アマネト様は、サポート? 俺の?」

「アマウネトです。ハイ、管轄下にある世界へと転生したものが完全に望みを成就するまで支援するのは女神の担う古来よりの務めです」

「……それって中間管理職の」

「違います」


 食い気味に否定した。


「それはさておき、転生初日から過酷な状況となりましたがお困りごとが色々とあるのではないですか?」


 ァそうそう。――本当メチャクチャ波乱な幕開けなんよ。


「ぇっと、……どうすれば?」

「差し当たり地下迷宮からの脱出が優先事項となるでしょう」

「……それをどうすれば」

「頑張ってください」


 ハ、ガンバ……?


「神が直接現世に関わる事は原則なりません。できるのは助言とした神託のみです」


 ぇ役に立たねェ。


「お言葉ですが、情報は金なりです」


 神様が御金とか言わないでほしい。


「女神としてのイメージが、ぶっ壊れますか?」


 なんと言うか、ちょいちょいアレだな。

 ま、今はそんなコトどうでも良くなる情感だが。


「じゃあさ、さっさと大人になる方法は?」


 成長さえすれば現状を打破するなど造作もない。


「ありません。しかし迷宮の攻略が全ての鍵となります」


 マジか。な、なら。


「まともになら、どれくらい……?」

「百億年です」


 ――ハア?


「厳密には九十九億――」


 イヤイヤイヤイヤ、――百億って言ったよね?


「はい言いました」


 待て待て待て――百億って、以前なにかで地球は五十億年後太陽にのまれて滅亡って。

 ……その二倍?

 え、それって――先に世界が滅びてね……?


「ちなみに迷宮内は外界と時の流れを共有していますが肉体的な生育はありません」

「詐欺じゃん、詐欺」


 よもや女神がエって顔をする。


「……サギ?」

「そうでしょ、だって百億とか叶わないでしょ現実的に」

「それはまだ……」


 あーダメだ本当。


「まさか神様が嘘を吐くなんて、信じられんわ本当」

「待ってください」

「最悪……」


 べつに無宗教だったけど。こんな喜ぶ相手を地に落とす様な、悪魔の所業をあろうことか神様、女神様が。


「と、とにかく攻略を優先しッ先ずは現状を打開するその心を保つ事が何より」


 いやいや何の為によ。


「いいですか、彼の者を救えるのはアナタだけなのです! 汝、隣人を愛さなければ」


 それは現状の俺とは全く別の儀で。


「……――なるたび望めば今宵の園にて、アナタ様をサポートします」


 ぁーハイハイどうぞご勝手に。


「女神アマウネトの加護があらんことを。それでは、今宵のところは」


 浮き上がる感覚。意識が遠退いて――ていうか、逃げてるよね?


「逃げてませーんッ、さようならー」


 逃げてるよねー!




  △




 走馬灯にしては最近の、真新しい記憶。

 というコトはだ。

 ――俺はまだ現実に活きている、というコトだな。

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