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転生竜 ー最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?ー  作者: プロト・シン
一章【最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?】
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growth 47〔転生竜、僕の夢は変化することなく走り出す〕外伝

 都会の喧騒をほんの僅かに抑える効果を期待してか、並木のある公園を行く人々。

 園内には大きな池もあるが清潔とは程遠い色をしている。

 小さな塀の向こうで走る排気ガスも、周辺の疲れ切った植物では防ぐ事すら出来ない。

 それでも近隣から訪れる人は絶えず、この地を利用する。

 ――普段ならサラリーマンが小休止に使うベンチ、今はまだ昼前とあって客は一人。

 座っているのは女性、名は浪川(なみかわ)星華(せいか)。今居る公園の近隣マンションに住んでいる。

 訳あって立ち寄ったが、その目的を確かめる事が出来ずに小一時間。ついには諦める気持ちでその場を去ろうとし腰を上げる。

 途端に強めの風が吹く。予報にも無かった一時の突風が彼女の帽子を横から奪い取ると偶然にも居合わせた他人の足に物が引っかかり。

 慌てて駆けつける星華――を見て、自身の足元に落ちた帽子を拾い上げる少年は滞りなく、モノを手渡す。


「……ゴメンなさい、急な風で」

「いえ、大丈夫です……」


 そう言って会釈する少年は見た目活発そうにしているが不自然なほど内気な外向性で、目を背けられてしまう。

 自分的にはさして気にもならない事だったが、何故か直ぐに立ち去る気持ちにはならなかった。結果として、気まずくしてしまったのは自分の方と気付かされる。


「ぇっと……」

「ぁ、ゴメンなさい……。その、何処かで見た事があったような気がして……」


 よくよく考えれば可笑しな話だ。

 二回り以上も離れていそうな相手に。こんなのはまるで若者と出会えて良からぬ事を考える不埒な地雷、そう見られてしまっても不思議ではない。


「――ゴメンなさい、今のは忘れてください」


 いい歳して恥ずかしいとは正に現。

 そそくさと擦れ違い、逃げ去ろうとした。


「待って」


 何――恥の上塗りが頭をよぎる。が親切にされた手前、無碍に扱う事も出来ずで。


「……はい、何でしょう……?」

「その帽子は……子供の? 横に可愛い名前が……」

「いえ……、これは私の名前です。――変、ですよね……オバさんなのに。でも息子がくれた物なんですよ」

「そうなんですね。変でもなく、良い息子さんだと思います」

「……そうですか?」

「はい」


 思わずホッと胸を撫で下ろす。

 けれどまた余計な事、自ら恥を掻きにいく失態を――おかしてしまう。


「でも、もう息子は居ないんです……今年、事故で……」

「……――ごめんなさい」

「ぁ、謝らないでっ。私が勝手に言ったことだから……」


 本当に情けない。恥ずかしい話になっていく、自ら足を踏み入れる。

 ――ズブズブと。


「……もし、気を悪くされないのなら少しだけ――私の話を聞いてくれませんか……?」


 あの日と同じ様に、今日は何故だか車道から聞こえてくるクラクションの音が鼓膜を刺すみたいに胸を――締め付ける。




  …




 ベンチに戻って、再び近況だったはずの過去の変事を振り返る。

 事は数ヶ月前、私には息子が居た。

 ――今は居ない。事故で亡くなってしまったからだ。

 旦那とはその後を要因として現在別居中、心を病んでしまった私にきっと疲れてしまったのだろう……。

 それでもほぼ毎日連絡をする私に、愛想を尽かす事はせず対応してくれるのは何の所以か。――普通に考えて優しさなのだろうと思いはするけど。

 ただ最近になって不思議な事があった――気がする……。

 というのも――。


「――まるで息子が、最近まで生きていたような感じがして……。変ですよね?」

「……、――今は……?」

「今は――、……ちゃんと、分かってます……死んだってコトを」

「そうなんですね……」

「でも本当は違うんです。息子だけど、息子じゃなくて……何て言っていいか、知らない息子と一緒に暮らしてた、みたいな感じで……自分でも、よく分からないのよ……」


 本当に何を言っているのだろう。と、しかも赤の他人に。


「……その人は、どうなったんですか……?」

「ェ。ぁぁ、いつの間にか息子とは関係がない、別の……」


 言ってて馬鹿馬鹿しい。私は本当にもう――。


「居なくなってしまった、その知らない人との暮らしは――どんな感じ、だったと思いますか……?」


 ――どんな、暮らしだった……。


「……そうね、特別な事は無かったけど……。一つだけ、後悔してる事があるのよ……」

「それは、何……?」

「母親として、何もしてあげられなかった。むしろ傷つけてしまったとも思うわ……」

「……後悔」

「それは違うの、悔やんで反省したい訳じゃないのよ。ただ……とっても良い子だったから、嘘の母親を演じてでも一言、褒めてあげたかったのよ。それが心残り――」


 ――あれ、嘘の母親? 私は何を言い出して。


「……それなら、きっとその息子(ヒト)にも気持ちは届く、と思います……」

「ェ?」


 途端に見ず知らずの少年が、席を立つ。


「僕、そろそろ約束の時間なので……ごめんなさい」

「ぁ。いえ……こちらこそ、突然なのに話まで聞いてもらって――」


 ――……すっきり? どうして、オカシイ。

 まるで言わなければならなかったコトを、その相手に直接言えたような。そんな、胸のつかえが下りる様で。可笑しい。変だ、そもそもこの子は――。


「――アナタは、誰なの……?」




  …




 結局最後は何も言わずに一礼だけして、少年は去って行った。

 追いかける気は起きなかった。

 きっともう、二度と会う事はないと思う。

 関係はないけど、今の内に一つだけ――決めてしまおう。

 私は近日中、旦那と会う。そして家族が揃う場所へと、共に行こう。

 そのついでに久方振り、両親と挨拶するのも――いいかもしれない。




  *




「――もういいのー? 最後くらい、もっと甘えてもイイんじゃなーい」


 いつもと何も変わらず、相応に距離を置き物陰に隠れていた瑠唯さんが楽し気に言う。


「本当の親ではないので……」

「あら、重んじるのねー」

「……――瑠唯さんはもっと、誰かを尊重したほうがイイですよ……」

「言うわねー。これでも一応、ショウ君のコトを大切にはしているのよー?」


 軽口、ではないのかもしれない。

 現に今回の事を提案してくれたのは彼女だ。


「さ、帰りましょー。些細な皮肉も忘れずにネチネチする上司が、ゲートを開けてお待ちかねよー」


 ……本当に。


「僕も、行って良いの……?」

「――どうして? 言ったでしょー、私と一緒に居ないと死んじゃうのよ」

「……でもそれは、絶対じゃない……」


 本人の気が変われば、如何様でも。


「そーね、――怖い?」


 首を振る。恐らく、この気持ちは恐怖ではないからだ。


「僕が原因で見捨てられるのは、仕方ないと思う……」


 自分が英雄を初めて殺したと告げられた時、皆の希望を僕は叶える事が出来なかった。


「自分の命を犠牲にしてまで、僕は他人の命を救う事が出来なかった……だから、いつか瑠唯さんが助けてほしいって言っても、僕は何も出来ないと思う……」

「べつにいいわよ、私そんなコト、誰かに望んだりはしないものー」

「……そういう意味(コト)じゃ」

「そういう事よ。ねぇショウ君、英雄って何だと思う?」

「それは……」

「具体的な話をしてる訳じゃないのよ。耳障りの良い話でもない。ただ、英雄が何処で生まれるのか、分かるかしらー?」


 再度首を横に振る。


「――英雄はね、独りでは成れないの。いつだって弱者と同じ、弱い気持ちに勇気を被せて、強がっているだけのツマらない見栄っ張りで――成り立っているのよ」


 だとすれば――。


「――僕には、見栄を張る勇気が無い……」

「良いのよ小者でも、半分は同じ字だから。それにまだまだ若いわよー」


 うーん……。


「……結論を遠ざけてる」

「いいじゃない、未熟って、可能性があるわー。――けど、それでもショウ君が納得できないのなら、ズバリ言っちゃうわよ?」

「……ハイ」


 すると意外にも改まった表情を作る。

 何を言われるのか、素直に言って不安だった。が。


「私がショウ君に居て欲しいと思っているのよ、それじゃダメかしらー?」


 今の今まで取り繕う事を主張し、次は打って変わって飾る事をしない。

 本当にこの人の本心は何処に在るのだろうか……。


「……身の回りの世話なんかはしないよ」

「あら心外、逆に背中を洗っちゃうわよ? ふふ」


 何故か悪寒がした。


「じゃ、改めて言うわねー。ショウ君、私と一緒に、冒険へ行きましょ」


 そう言って差し伸べられる手を、僕は恐る恐る指で――、掴まれる。


「はい、契約完了ね」


 ェ何の。

 次いで引かれる手。そして彼女が微笑む。


「帰ったら先ずはお風呂ね、私の豪華絢爛(ごうかけんらん)な浴室を、見せてあげるわよー」


 結局のところ、僕は何も変わらなかった。

 ――けれども僕の夢は変化することなく、走り出す……。








  転生竜、僕の夢は変化することなく走り出す/了

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