growth 46〔転生竜、ワタシがアナタに名を……〕
別れとは出会った時に比べて、非常にあっさりとしている。
――万国共通、もとい万界共通?
「また会いましょー」
「ありがとう、ランディ君」
二人は、主たる神が開ける転送空間へと入り、その管轄する世界に行く。との事で。
そうする主な理由は、“休暇を楽しむ気が削がれたわ”と“どうせなら宿縁にしちゃおうかしら”だった。――羨ましいぞ、少年。
ただ一応、好かったのかと然りげ無く問い掛けてみたところ。
「いいのよー、私にとっては義孫みたいなものだから……」
と。言ってる意味はよく分からないが、とにかく問題はない。らしく、それ以上の追究は止めて。
――二人を見送った。
最後の最後、去るその姿を見て。ふと、自分が子供の頃に弟が欲しかった事を思い出す。
けれどもそれは幼い日の記憶で、取るに足らない小さな妄想。
それでもいつか、弟の様な存在を乗せて風を切り走る事が出来ればと――夢の絵を、今は胸の内、想像として思いで馳せる。事とする。
…
此処は異世界、文字通り現世とは異なる別の空間。
精神だけが訪れ心で浮遊する。
所は暗く景色が明るく、対象も輝き眼を見張る。
途轍もなく不思議な場所だが、今や心からほっとする。
ならば久しぶりの質疑は元の姿に戻り落ち着き払った女神と、これからの事に付いて、議題から始めるとしよう。
「はーッ、やはり抑制されぬ姿は生きた心地がしますねーっ」
……そりゃ良かった。てか球体はどういう状態なんだ?
「まぁ何と言いますか、余所行きのネコと言った感じでしょうか」
うん、何が言いたいのか全く分からんぞ。
「――それはいいとして、先ほど申し立てた願いの全容は依然変わらずに揺るぎもありませんか?」
「そうね、特に何も変わってはいない」
「本当に後悔はありませんか……?」
あとになって悔やむ事か……、あるかもしれないな。――けどさ。
「後悔は先に立たず、いろいろと考えた結果の事だし後は、なるようになるさ」
ケセラセラはそんなに好きではないけどね。ただ停滞していたって、とどのつまりは何も始まらんのさ。
「――で、念押しだけども」
「はい、しかと。此度の恩寵を行使した後の、次なる所在は既に有力な候補があります」
ならば――。
「発するに及ばず、余剰の恩寵によって再生した世界への一時的な訪問を許しましょう」
――完璧。しかし言いたいコトがある。
「ところでアマウネトさん、ちょっといいかしらー?」
「ェ。ぁ、……何でしょうか?」
「アナタ口調が若干移ってますわよ、さてはこっそりと観てましたわね?」
「……はて、何のコトでしょうか……」
さては感化されやすいタイプだな。
「――此度の最後となる時を刻む。さすればアナタの願い、新たなる刻の祝福にて世界を彩る稀少な一輪の華とせん」
あ。――ま、いっか。
「完全な再生には僅かながら時を要します。その間は女神としての役割を果たす事が出来ませんので、悪しからず」
あいあい。ほな、オッサンはその間に寝るとしようかなっと。
「フフフ」
ん、何?
「いいえ、何もありません」
あっそ。じゃ、――オヤスミ。
「ハイ、――おやすみなさい」
※
それから女神の園で、時間にすると数ヶ月位は過ごした。
さすがに精神体なままでは三日で飽きた。ので、エルミア嬢と一緒に居た時同様自由に動ける身体を、瞑想モードの女神から反感を買ってでも取得し――その結果一ヶ月程延びたが、お陰様でなんとか堪える事ができました。
此度の恩寵で俺が願った事、それは――。
竜に転生した後の世界、消滅した異世界の再生である。
当然のように思えるかもしれないが、実現する為には幾多もの問題を解決する必要があり顧みれば単純な道程ではなかったと言っていい。
二人が譲ってくれた事もそうだが、気持ちの上でも一件落着とするには楽に呑み込める内容では無かった……。
言うまでもなく、自分独りでは解決は疎か志し半ばで終わっていた。
勿論言い分はあるし愚痴りたいとも思うが――それはまた何れ、女神を相手に。
今からは旧友に逢いに行く、そんな気持ちで、最後のお別れをしたい。
俺はもう、当初の異世界には戻らないつもりだから――。
…
世界の再生は復元というより、一からやり直す流れで決意した。
実際自分が居た時間はほんの僅か、世界の歩みからすると瞬く瞬間にも立ち会えない。
ならいっそ最初から――以前の世界が消滅したところまで進めればいい。
無論その後は何も起きる事がない。
歩むはずだった未来へと、回り続けるだけだ。
其処に再び自分が訪れるというのも悪くはない。がソレは止める事にした。
理由――は特にない。
未練がない訳ではないけど、俺は別の異世界へ行くと決め。その代わりに最後の我がままで世界を訪れた。
――そう、此処は世界が消えた最期の日に、エルミア嬢と迷宮入りした洞窟入口の前。
世界は見事なまでに記憶を映し出している。
そして風景に溶ける記憶が新しい二人の姿を捉えて一歩ずつ、――近付く。何も変わりない彼女達の生存に、――頭を下げて。
*
最初気付いた時から声を掛けるつもりはなかった。
俯いていて何か困っているかもと思ったが、今日ばかりは己に集中したい。
けど、マスターは本当に馬鹿な人なので絡み方も――余計だ。
「――少年、オマエひょっとして冒険者か?」
そんな訳ない。どう見ても人間の子供だ。
「……いえ、違います」
「やっぱりそうか」
聞くまでもない。
「ところで、スプランディって奴を知ってたりするか……?」
またこの人は急に何を。
「……――知人に、心当たりがあります……」
「マジかよ。ソイツって、直ぐ近くに居るのか?」
「――いえ、今は旅先へ」
「そうか……、じゃァしゃーねーか。少年、伝言いいか?」
「はい?」
「ギルドマスターのアルベールってのからだ。んーと……」
珍しい、何事も粗野なマスターが恥ずかしそうにしている。
「一度しか言わねぇからな、ちゃんと聞けよ……。――スプランディ、僕はたくさんの冒険をしたよ。次はスプランディの番、僕の体をよろしくね。――……だとさ。ったく、もうろく爺の使いは気が滅入るな」
それよりも使者を担えるだけの記憶力が有った事に、ワタシは内心で驚く。
「じゃ、頼んだぞ。――行くぞエルミア、何だ……まだ緊張してんのか?」
「ワタシ退職します」
「ここまで来てッ? なんでだよ! さっさと終わらせて、温泉に行こうぜ……な?」
「そう思うのなら口より足を動かしてください」
「わーったよ……」
目的地は目と鼻の先、歩き出して直ぐに子供とはすれ違う。
途端に木々を揺らす風が吹いて葉がさざめく。ワタシは、何故か足を止めて――子供の方を見た。すると目が合う。
刹那、ワタシは馬鹿な事を口走り。
「……ワタシは、エルミア――アヤネル、……アナタは?」
不思議と後悔は全く無かった。
「……ランディ、です」
記憶には無い。初めて聞いた、のに何故か胸は詰まる感じがして――。
…
――名を言い、その後に子供は直ぐ何処かへと行ってしまった。
もう二度と会う事はないだろう。
「オマエ、大丈夫か……?」
「――何がですか」
「だって名前、エルフってのはよ……」
「古い迷信ですよ、ソレ――」
「そうなのか。ま、そうだよな……相手はまだ」
――と言っておこう。
だってこれは、ワタシの初めての――告白なのだから。
転生竜、ワタシがアナタに名を……/了
今回の話にて【転生竜】の【一章】を終幕としました。
又、一章の終結後は投稿を暫く休止し別作品の物語を進める等したいと思っています。
※なにとぞ、ご理解のほど宜しくお願い致します。m(_ _)m
ここまでご一読くださった方々に、心からの感謝の意を込めて。
“R7.0614”




