growth 41〔転生竜、ならば神は敵を愛すのか〕④
収納、空間魔法? と言われる類いの方法だろうか、自分の持つ収納袋よりも便利で羨ましく思う。
――っと、危ない。本当悪い癖だ。
戦いの最中に余計な事を考えてしまう。
目の前の相手に集中できないのは――即ち死だ。
しかし何かがオカシイ、本当ならとっくに手討ちで終わっていても――と危うく、そうなり掛けながらも未だ命を保っている。
何なら武器までも取り出して振るっているのに間一髪、俺は生き続けている。
ただ反撃の機会は正直に言って無い。
只管周囲や周辺の状況、環境を利用しつつ避けるので目一杯。
余計な事も――なるべく考えないようにはしている。
「……小僧ッ」
そら声も上げたくなりますわな。
何せこちとら勝つ気は毛頭無いので。
隙あらば隙を見せるフェイントには一切興味がない。
直後に、ぁ今のそうかも。なんて思う始末ですよ。
「――頃合いだ」
ピタリと斬撃が止む。で注目しつつ様子を窺う。
……む?
「時稼ぎであれば十分に事を成したと言えよう。後を好きにするが良い」
剣を仕舞い、王が背を向ける。
恐らく歩み出す先は自分が来た方向と、思われる。
待――、イヤ。
確かに俺は務めを果たした。
義理だと言うのならば報いたのかもしれないし。――けど。
俺は英雄じゃない。勇者でもない、まして魔王なんかではなく、ただの異世界冒険者だ。
立場上の道義は元より存在しない。
魔王を見逃す、大した話だ。
魔王へ試みる、大それた考えを抱く必要は――無い。
だったら――。
「“待った”」
――最後にもう一発くらいは、全力の自分を翳すみたく。
「“グァッツ”」
背後からの跳びかかり一撃、後ろ手に首の根を前から掴まれる。
「二鼠の終わり、潰すもよし潰れるもよし。――互いに抗って見せろ」
完全に余分だった。
振り解く間も無く、放たれる自身と言う名の弾丸が空気の層を押し破り――一筋の光と成って投棄される。
うッ、ぐあああ――ッ!
着弾した所で思わぬ再会。
「“エルミアさんッ?”」
何か、謎の障壁みたいなモノで俺の身体を止めている。
しかし見えない壁にヒビが生じる。
途端にグンと弾丸が前へと進行し、咄嗟の判断で。
マズい。と思考を巡らす。
考えろ、何か――このままだとエルミア嬢を。
何が、無理だ、せめて軌道を――動きが取れない。
ググン――避けて、イヤ今からでは遅い。――なら俺が。
自身が――重くなって……!
…
何かを掴んだ気がする。
俺自身の特性を、創造竜としての在り方を。
けれども今は、――もう限界だ。
「小癪な真似、エルフであれば頷ける。地より流し入れる微弱な魔力作用、我が感覚を鈍らせて、的を濁らせたか」
空より見下げる王の言葉。
辛うじて命を繋げる事が出来た二人でソレを仰ぐ。
「今日日これより我が妨げとなれば興に入らず即刻滅する。ゆめゆめ忘れるな」
捉え方次第では一定の評価を得た者への褒美とも思える最終通告。しかし。
“遊んでいるのよ、今も、前も、ね”
ふと瑠唯の言葉が頭に浮かぶ。
「案ずるに及ばぬ、我が願いを成就すれば他の命など些かも好奇を持たぬ。相手取ったのはあのオンナが差し向けた者の程度を知る為、――そして高は知れた。其処で大人しく我らの勝敗が決するのを待つが利口よ」
と言われましても、既に疲労困憊で動きたくはない。
最後の最後で自身の特性を知る切っ掛けに気付いたのは生き残った事と同じくらい儲けものだった、が本日はこれまで。
告げられた通り、二人で仲良く天を見上げている他は――、ん?
何かの……音。
視界に居る王が、其方へと振り向く。
自分はまだ、動かしたくない。
と次の瞬間には横から飛来した謎の物体を瞬時に取り出す刃で払い落とす。
その内の一本が顔の直ぐ、傍らの地面に突き刺さった。
ひィ。……何だ?
形状としては小刀。ただ、以前に見たあの杭と思しき物が括り付けてある。
……これは。
記憶の中で確かめるよりも先に上空で響き渡る剣戟の音。
再び砕け散った小刀の一部で、身の毛もよだつ。
危ないって!
何が起こっているのかは不確か、しかし無理をしてでも場を離れる方が――と。
再三にわたった所為か突如としても驚かない。
――少年、外衣を着るショウヤが音も無く片膝をつく姿勢で目と鼻の先、自分の体に指で触れている程の手近な距離に現れる。
……ショウヤさん、いつの間に……?
「じっとして、安全な所に連れて行くから」
だったら先にエルミア嬢を――。
「あの人なら、先に」
――グッジョブ。
「そんなに遠くまでは運べないけど……」
問題ない。此処で放置されているよりは幾分か安全――というか完全な場所は何処にも無い。適当な物陰にでも運んでもらえれば十分だ。
「じゃ、行くね」
一応竜体から変えておく。
私、重たくないかしら……? なんてね。
…
互いに衝突を回避する為、全力を注いだ。
彼女は魔力切れ、自分は肉体変化の度合いを測り損ねた事で自身を叩き付けて自滅した。
重傷ではないものの暫く正常には動けそうもない。
……仲間に後を託すというのは、こういう感じなんだなぁ。
頑張れ少年、負けるなショウ年。中年は、――暫し寝ます。
※
僕が最後に殺した英雄が持っていた宝器は神の力と呼ばれる程の呪いを宿す神器だった。
効果は他者への転変、触れた相手の人生を奪う事。
記憶は改ざんされ記録すらも他人と為り変わる神的な呪いのまやかしは世界をも騙す。
結果、僕は浪川明仁と呼ばれる人物の後釜として存在し続けていたが解呪されて元の自分に戻った。
思い返すと不思議な体験だったと思う。
生まれ育った自分では無い、誰かと入れ替わる。
見ず知らずの他“人”と為り現実として“生”きる。
――一つ、今でも分からないコトがある。世界を騙す程の呪いを以て、愛していたはずの我が子を見る母親の瞳はまるで他人を見る失望の色――その眼差しだった事。
※
幾らかの交戦を経て、空に居つく絶望的な存在が落胆した様子で告げる。
「……もういい、キサマに割く余興は無い」
何で、まだ。
「命を駆る事を知らぬ者に戦いは務まらぬ、――早々に去れ」
僕は。――まだ。




