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転生竜 ー最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?ー  作者: プロト・シン
一章【最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?】
32/48

growth 31〔転生竜、欺き貶め損なう貴方は〕③

 



  ※




 翔陽が異世界に転移した際に授かった才能(ギフト)、それは“弱者”と名付けられた特有の加護。――真なる英雄は弱者を挫く事は出来ず。

 強者は彼の者を傷付ける事すらままならない。




  ※




 刃を突き刺す事で対象を従魔とする短剣。

 投てきした小刀が自動で追跡する暗殺の刃。

 地の精霊が宿る長柄錫杖。

 一日に一度だけあらゆる攻撃を無効とする命の帳。

 そして今居る世界の裏側に入り込み自身の存在を消す気配隠しの衣。

 宝器と呼ばれるそれ等を所持している自分を示す宝は、一つも無い。

 ――その理由は。


「殺した英雄の持ち物を奪って使う、いい趣味してるわねー」


 奪い取る? 違う。僕はただ自分を殺しに来た相手から危険な物を取り上げた、それだけ。なのに。


「聞いたわよー、魔王を倒した直後にその英雄を殺したのね? 寝首を掻くって感じかしらー。性格も良いのね」


 何も、知らない。僕の辿った経緯など、何一つ。


「それにしても凄いわねー、姿だけでなく気配まで消せるなんて。何処の英雄さんの持ち物だったのかしら……?」


 逐一癇に障る物言い。

 けれど二度目は安直に仕掛けない。

 先刻、理由は定かでない、が着衣している状態で居場所を明らかにされた。

 偶然と思いたい。

 しかし命の帳が無ければ――、否。

 彼女が僕を傷付ける事は出来ない。

 それは前回で立証済み。

 いっその事、このまま逃げるという選択肢も。


「あら、逃げる気かしら?」


 ――何故。


「ふふ、女の勘よ」


 それこそ何の根拠も無い。

 現に彼女の視線は関係のない方へ向けられている。

 言葉巧みで澄ましても、勘が働く世界に僕は存在ない。

 どちらを選ぶにしても主導権は自分に有る。

 不意に――目――が合う。

 ドキリと心臓が縮む。

 咄嗟に逸らす、体ごと移動し相手の正面から外れる。

 一方で。


「気が小さいのね、常に相手の背後に回ろうとする……」


 と聞く者にとっては余り有る口振り。

 その声が、一瞬にして――。


「私も同じだから分かるのよ」


 ――自分の背後に移る。

 動揺は隠せない。

 驚き、足が止まる。その瞬間に衣を剥ぎ取られる、あの輝かしい刃で。


「ショウ君、見ーっけ」

「……何で」


 分からない。

 何もかも、この人の存在すらも。今はただ、全てが怖ろしい。




  *




 時空(トキ)勇者瑠唯(ルイ)

 彼女の物語その始まりは数十年前へと遡る。







 瑠唯が異世界に転移した時点で、彼女には幼い我が子が居た。

 危急存亡(ききゅうそんぼう)の刹那、瑠唯は我が子の命を救う事を条件にし勇者としての道を行く決意を固める。しかしその旅は想像を絶する死の無い呪い、螺線で続く路の途中で幾度も心をすり減らす果てに彼女は天秤の針を――失った。

 そうして物語の幕が下りる機会を得たのは、瑠唯が異世界に転移し三十年以上の歳月が流れた後、その時にはもう彼女の顔から本来の笑みは無くなっていた。

 誰にも理解はされぬまま、皆と微笑む彼女は――再び、命を帯びる事となる。

 残酷な運命が心を刻もうとも今さら損なうモノは、……何も無かった。




  *




 彼女が微笑む。

 いつもの、含みで。


「タネ切れかしら? なら、最後にしましょー」


 ……最後。

 途端に何故か距離を取り、互いの間を空けてから――、振り向く。


「私はここから一歩も動かないわー」


 平然とした表情で告げる。


「何……?」


 言葉としての理解度を超えた結果脳が示唆する内容を拒む。


「その代わり次が最後、それで諦める事が出来なければ、残念だけど貴方を殺すわ」


 殺す。それは――。

 ――瞳――に真意が映る。

 本気だ。本当にそう出来ると思っている。

 何故? だって。けれど。

 否定できない恐怖。

 背筋を冷たいものが走るのを感じる。

 分からない。なのに、僕は核心を突かれた様にあの眼で否定が出来ない。

 無理だと分かるのに、不可能と知っているのに、――何故。


「どうしたのー、それとも、もう降参しちゃう? それだとお姉さん楽なんだけどなー」


 不敵な。――それは胸の奥で沸く。


「……今度は本当に、死んじゃいますよ……」

「そしたらまた来るわー、次は死なない様にしてね。けど、たぶんこれで終わりよー」

「どうして……」

「だって貴方は、弱いもの。男の子としてじゃなく、人としてね」


 本心からの。――心底より沸き起こる。


「……アナタも、同じなんだ」


 アイツらと何も変わらない。


「同じ? 何の事かしら」


英雄()”はいつも“弱者()”をないがしろにする。


 だから――。


「――死ぬのは僕じゃない、英雄(アナタ)達だ……」


 英雄殺し。ソレが僕を示す唯一の名だった。







 一見してソレは釘の様に見える、ただの小さな杭。

 けれども英雄が死ぬコトで生まれるソレは世界の理を厳守する死の定め。

 人は死して英雄を冠する。

 いずれ得る名誉を先んじて授かる者は、世界が理を以て正す。

 英雄としての格が高い程に、穿たれる掟が生を尽くして衰弱死する。

 ――暗殺の刃に括り付けた杭が標的へと迫る。

 刺されば決して敗ける事はない。

 弱者である自分が唯一生み出せる証。

 冠した名は英雄とは真逆の暗殺者だったが、決死の思いは強者に届きうる一死の矢。

 備えていない身、薄い布を経て、肌に突き刺さる――。

 勝った。

 ――刹那、空気が揺らめく。


「確信したわね」


 考える間も無く自身を断ち切る光が通り過ぎるのを目にする。


「勝ちを制するのは強者のおごりよー。貴方は今、私を“弱者”と決め付けた」


 傷は痛みを伴い、振り返り仰ぎ見る彼女の姿と空の無い天井。

 瞬時に遠ざかる――感覚を失い、倒れる。ところが身体の節々から蘇る激痛で、疎遠に成り掛けていた感覚が、復活する。


「――ァ――、――ッ、――ァ、ッ――、……ッ――ァァ!」


 声にならない叫びは吐き出す空気、引き連れて悲鳴を――吐き散らす。








  転生竜、欺き貶め損なう貴方は/了

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