表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生竜 ー最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?ー  作者: プロト・シン
一章【最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?】
28/48

growth 27〔転生竜、尋問する時の距離感は内容次第で変わる〕

 床に斜めの角度で突き立つ金色の十字形。

 傍らには膝がつく程度の高さで垂れ下がっている瑠唯の姿。

 吊るされる原因は右手の平にコンクリートの柱深くまで打ち付けられた一本の杭。

 まるで聖者の死を連想させる象徴的な光景に。

 ――思わず見入ってしまった。

 ただいつまでも、そうしてはいられない。

 が探し人が見付かったことと、目の前の衝撃に自分だけではなくエルミア嬢も次の言葉が出ない。と不意な開眼に、一層意表を突く仰天で二人の背筋が跳ね上がる。


「あら、貴方達だったのねー。ご無沙汰ねー」


 長らくと会っていなかった程ではない。

 しかしどういう状況かを理解しているのかと確認したくなる、お手軽な態度が――流れを掴み難い。

 そう思ったのは、どうやら自分だけだったみたいで。


「動かないでください、下手に動けば撃ちます……」


 両手持ちの杖、その銃口と言える先端を対象に突き出し抑止と促す。

 出遅れてしまった立場の上、とやかく言う気は最初から無い。が見るからに――。


「……意気込んでるのに、ごめんなさいねー。今は元気がないのよー、私」


 ――外傷と呼べるモノはぱっと見一箇所だけだがその割に疲弊した様子を窺える。

 肩で息をしている訳でもないのに、とかく苦しそうだ。


「ワ、ワタシは本気ですっ」


 空回りした感じが決まりで悪かったと思ったのか、やや頑なな姿勢になってしまったご様子。と観察します。


「機嫌を損ねちゃったかしら、でも嘘じゃないわー。上のが見えるでしょー?」


 上とは当然手の平に刺さっている杭の事。――だが。


「口車には乗りません。アナタは一度、ワタシを騙してますからね」

「あら、指折り数えるなんて、まだ初心うぶなのねー」


 俺でも分かるぞ、余計な事と。

 ほらエルフのお嬢さんが耳を赤くしてるじゃないかよ。


「……質問した事だけに答えてください」


 おっと、コレはマジだな。

 さすがに相手もその空気を察した様子。


「いいわ、何かしらー?」

「アマウネト様から神器の回収を託されています、持ってますよね?」

「……アマウネト。女神のコトね。そーね、貴方達もやっぱりそうなのねー」


 ん? どういう意味(コト)だ。


「速く質問に答えてくださいっ」


 おっとっと、お嬢さんは現状火が付いておられる。


「貴方達の求めてる神器は、持ってないわー」


 ェそうなの。


「嘘を吐かないでっ!」

「……本当よ、私じゃないわ」


 私じゃない? なら。


「――……誰なの」


 エルミア嬢も困惑している。

 そして元気が無いと言うのは真実(ホント)だ。

 虚を衝くつもりならば今が絶好の機会だった、と思い至る。


「そう、分かったわ……。――どうかしら、私と手を組む気はない? そうすれば貴方達にとって有益な話もしてあげられるわよー」


 一応自己解釈としてだが、騙す気はない。と思う。

 ――どうする? エルミア嬢。


「……――先にその有益と言う話を、して……」

「いいわよー、ただ最終的に上の杭は抜いてね? 自分じゃ抜けないのよー」

「それは内容を聞いてから……」


 だな。

 ともかく、今一本気度に欠ける笑みをして油断できない相手ではあるが。

 亀の甲より年の功――年長者としての頑張りを見せていただきましたよ、エルミア嬢。




  *




 ぼんやりと無い空を見つめる。

 灯り点在する閉所の迷宮、その水路の行き着く先で少年は過去を振り返る。

 ――背後に忍び寄る巨大な影。

 いつの間にか水位が、僅かに上昇している。

 靴底を濡らす程度ではあるが、一体何処から来たのかは分からない。

 巨影は腹を擦って動く。

 ――ズル…ズル…と自身を引き摺る音を立てて、差し迫る。

 少年は佇む。天井を見上げて、何も意に介さない。

 そして音が止むと影は上下に大きく別れて広がる。

 上と下、互いに噛み合う鋭い突起が開かれた暗黒を縁取って並び立つ。

 絶望的な黄泉の開門、少年を丸呑みにせんと最後の擦り寄りで――口を閉じる。


「――ゴッ」


 結果が噛み合わぬ音。

 自己概念が乏しい魔獣と言えども、その違和感には気付く。

 次いで刹那で消えた存在が再びこの世に現れる。

 巨大な魔獣の背、少年の手には一本の短い刃が有り。

 ――突き立てる、と瞬時に吐き出される魔獣の叫びが床に出来た薄い水の膜で広がる巨大な輪と成り、階層を轟く。




  *




 ……――つまり。


「目的はワタシ達と同じ、神器の回収……」


 話しの集約、さすが元事務員。

 自分だとダラダラ余計な質問とかしてそう。


「そう、だから私と手を組むのは最善よー」


 最善ね。ならば、とは行くまい。


「フザケないで。アナタは……――ッ、マスターを殺した……!」


 その点を許せない以上は、どう有用であろうとも協力は叶わない。


「殺した……そう、やっぱり死んだのね」

「他人事ですかッ」


 ソレはそうだろう、けど。――許せない気持ちは俺にも有る。


「否定はしないわー、正当化もね。でも貴方達のマスターさんは、どう言うかしら?」


 そう来るか。言う割に悪くない釈明の仕方だ。が。


「アナタにマスターの何が分かるのッ!」


 再び点火したお嬢さんを――如何、欺く?


「頼まれたのよ、アマゾネスさんに貴方達の事を――宜しくってねー」


 なぬ。イヤ、騙されるな。

 しかし鮮やか、戸惑いを隠せていないのは一目瞭然。


「……嘘、――ッ!」


 止める間も無く、杖の先端から放たれた一発が釘付けの瑠唯を掠め頬に赤い線を残す。

 ただ避けようと思えば、躱すだけの自由はある。それだけ振るわないというコトか、それとも別の。

 一つ、確かなのは全く動揺した様子を見せていない。という在り方のままで。


「勘違いしないでねー、私は断ったのよ。足手纏いは要らないわーてね、本当よ」


 それは――。


「なんで……ッ、そうやって!」


 ――待った。

 熱くなり過ぎて冷静な判断が出来ていない。ので、選手交代かなと手で制止しつつ半歩程前へと出る。


「……ランディ君?」


 あら次は貴方。と言った余裕の表情で尋問されている筈の側と、顔を合わす。


「いくつか質問をさせてください」

「いいわよー、ご自由に」


 何で、そこまで平然と構えていられるのか。

 まあソレはいいか。で。


「マスターを殺して、エルミアさんを殺さなかった理由は――どちらも最初から殺す気が無かった。というコトですね?」

「あら正確、探偵さんだったのかしらー」


 そういう茶々を入れられると無性にヤル気が削がれる。


「……マスターのは、事故ですか?」

「結果的には自爆かしら……? 止めはしたわよー」


 なるほど。


「どういうコトかな……」


 当然説明の義務は生じる。

 ただ本人亡き後なので言葉を慎む、配慮を払う。


「恐らくマスターは制止を振り切る形で最後力を使い、自滅した。と推測します……」

「ピンポーンご明察ねー、でも強かったのは私が保証するわー。けど、どうして分かったのかしら、貴方の才能(ギフト)?」


 イヤ……なんて言うか。


「いいえ、損傷の感じとかが内側からの……」


 あと言わないでおくが、バツの悪そうな顔。というか仕事でミスをした時の後輩とかがよく上司の前で、自分も含めて――。

 ――ま、とにかくそんな雰囲気をも察しての問い掛け、そんな形式で口にしてみた。


「本当に探偵さんだったのねー。貴方って、やっぱり面白い人ね」


 ッく、なんて――ぉ?


「それが事実だとしても、マスターを殺した事に変わりはありませんよねッ」


 まあそれはそうだが。何故かさっきとは違うベクトルで、怒ってませんか?

 一旦落ち着いたのならば、問題ない。と思いはするものの、問い詰められている筈の相手が微笑ましい表情でこちら側からは確認できないエルミアを見上げている。

 ていうか、近付き過ぎでは?

 本当、人との距離感って難しいよねー。








  転生竜、尋問する時の距離感は内容次第で変わる/了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ