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転生竜 ー最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?ー  作者: プロト・シン
一章【最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?】
25/48

growth 24〔転生竜、結局は古いものほど新鮮を感じる〕

 



  ▽




 巨大水晶柱に触れて瑠唯が忽然と消えた後、――明仁は帰路につく。

 その場から駅までは数十分、乗車し数駅先で降りる。

 自宅となるマンションの部屋までは改札を出て数分、駅直結型。

 未だ覚束ない状態のまま鍵を開けて、部屋に入ると叔母が居る。

 いつもの様にダイニングテーブルでアプリの無料通話をしながら幾つかの缶を空けている。そして同様に明仁の姿を見ると――。


「早かったのね」


 ――日々繰り返される、平常通り。

 ただその日は普段よりも甥っ子の返事がはっきりとしない事に、叔母は気付かない。

 故に変わらず。


「おつかいを頼める?」


 内容は不変で、拒否権もない。

 あるいは叔母の機嫌を損ねてでも選ぶ道はある。と言うのなら、それが選択肢に成るだろうか、と思い(つつし)みながらも明仁は金銭を受け取る。

 無言のまま、部屋を出て――後ろ手に扉を閉める。

 途端に話し出す声が明仁の耳に容赦なく届き。


「――本当に厄介者だわ」


 いつしかそう呼ばれている事に、慣れてしまう。

 気には留めず一度自室に入り荷物を置き。次いで大事をとって着替えを済ませさっさと自宅を離れる。

 行き先はなるべく時間のかかる、後々気を悪くされない距離が好ましい。

 二駅先のスーパーなら、配分的には丁度いい。

 自転車は一応押しては行くが乗る事にはならない。これもいつも通り。

 だったが一つだけ、気掛かりな思いが芽生える。

 黒い影が忍び寄るそんな怪しい雲行き。

 一旦傘を取りに戻ろうかと悩みはしたが結局はそのまま、何も変わらない。

 何かを変えようとは思えず、明仁は二つのタイヤを転がし歩き出す。

 ――生温い風が吹き始め。

 きっと、そうすれば良かったのだと度々思い返しはする。

 しかし彼の心は今や動き出さない。

 いつか描いた夢の絵が変わりなく、現実になった後も変化はしない。

 足は止まり、続きのない過去を振り返る。

 ――……振り返る?

 ふと言葉が思い浮かぶ。


“叶えたい願い”


 そんなモノがあるのか、もしあったのなら僕は――と、考えるより先に案の定。


「雨……」


 行き着くところ自分では変えられない。

 それが浪川明仁となる前からの、彼の生き方だ。




  △




 大型のエレベーターが停止する。

 優に数時間は乗っていたと思う。

 そして既に聞き及んではいるが、体調に変化はない。

 眠気は時折り、無くはない程度。他は感覚として気薄、求める意志が弱く不足しての認識が欠如している様な――そんな平行線で整う。


「あら、今度は変わったところねー」


 そうは言っても地下である事は照度で変わらない。

 また空の無い、閉塞的な空間が広がっている。

 ただ今回はある種の衝動が込み上げ、て――。


「――……これって」

「あら、アキ君知ってるー?」

「……知ってると言うか、テレビで見た記憶が……」


 たしか放水路。洪水を防ぐために建設された地下の水路に似ている。

 勿論、正確かどうかは分からない。

 けれど見学する事も可能と誰かが言っていたので、実際に見る機会はある。と思う。


「全体的に湿った所ねー。柱も変に長細いしー」


 うん。うろ覚えだけど、多分そう。

 というコトは……。


「……水が、来る?」

「どうかしらー、迷宮は現界してる場所や環境に影響される傾向が強いけど、完全な再現性はないわー。ここも形だけなら問題なしよー」


 それは、つまり可能性として“ある”というコト。


「先ずは探索ねー。ぁ、なるべく速くにネ」


 この人の笑みにはいつも含みがある。

 幾度か見ている内に、そう思うようになっていた。


「――……瑠唯さん」

「なーに?」

「……その、何を叶えたいですか……?」


 思いの外意表を突く質問だったのか、きょとんとした顔をする。

 しかし彼女は直ぐに瑠唯と成る。


「気が早いのね」


 そういう訳ではない。――けど。


「本当に願いを叶えられる……?」


 何故か、薄笑う。

 次いで近付いてくる瑠唯の、存在感が増していくのを感覚として――息を呑む。


「私にはないわー。だって、これは貴方の為だもの」

「……僕の、為……?」

「そーよ、アキ君の為にやっているコト」


 更に増す、目と鼻の先でソレが自分を見詰める。


「アキ君の願いは、なーに? ちゃんと叶えましょ」


 僕の、願い……。




  ※




 ――彼女が笑っていた。

 いつしかソレは過去の出来事となった。

 僕は厄介者。――邪魔な存在。

 もしもやり直せるのなら、あの日あの時に戻り。

 死んでしまいたい。

 願わくば、この記憶が、嘘偽りそのままの内に。




  *




 若干いつもの感じとは異なる。――が。

 女神の園? 感覚的には似ている。

 しかし不確かだ。

 いつもの様にハッキリとしない。

 暗がりで精神ココロが浮かぶ、夢を見ている様な意識に、霞がかかる。

 と、何処からか声が聞こえてくる。


『ようこそお越しいただきましたは女神の園、出張所』


 ェそんなのあるの。


『モチロンありません。今、命名しました』


 ……センス。あと、やっぱりお役所仕事じゃん。


『違います。簡易的な遣り様しか現状講じる手段がありません』


 ああ、だから光の球みたいに見えているのか。

 意識が薄らとしているので、錯覚かと。


『どうやら悠長に話せる状態ではありませんね……』


 自分的に無駄話は結構好きなんだけどな。


『……――単刀直入に申します。アナタ方に託しました希望、その目的を達成するまでの猶予があと僅かとなりました。急ぎ、果たすのです』


 ――さもなくば?


『……原初世界に取り込まれた世界が形跡無く消滅し、数珠繋ぎに他も消え去ります』


 それは困るね。てか、数珠とか言っていいの? 法具では。


旧態(きゅうたい)依然(いぜん)な考え方です。今は基本どの神もウェルカムですよ』


 マジかよ。


『ですが今はたわい無い話をしている場合でもありません。既に実感されていると思いますが間に合わせの場、知覚は出来うるに限りがあるでしょう』


 うーん、端的に?


『さっさと要件を話したいので、静かに聞きなさい』


 了解。――結構そういうのも好きです。


『……。では先ず、当初の目的である神器回収と即時破壊を速やかに決行してください』


 回収と言うか、内容的にほぼ奪取だった様な。


『神は一切加担しません』


 ものは言いようだな。


『……理解を深めてくださいよぉ、わたくしだって懸命にィ……っ』


 ぇ、ぇ、ちょ、ごめ。


『なーんちゃって。驚きました? 神が泣くと思い』


 ……。――ま、泣き顔が見れないのもそれはそれで残念だ。


『ぇ。ァ、でも……』


 薄々気づいていたが、ははーん。だな、コレは。








  転生竜、結局は古いものほど新鮮を感じる/了

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