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転生竜 ー最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?ー  作者: プロト・シン
一章【最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?】
23/48

growth 22〔転生竜、迷宮には見せかけの友が居る〕②

 



  *




 エルミアが放つ数発の魔力弾が悉く相殺される。

 角度、威力、タイミング、全てが同一。

 外見は瓜二つ、服装は同様、所持している物までが完全に本物。

 恐らくは思考すらも――。


「くッ」


 自身の周囲に展開する術式の魔力弾。

 一、二、三、四、最大の五。

 対象の右側面へ曲線で二発、時間差で左にも一発、残りを先発の着弾に合わせ最短距離で発射する。

 全てが目標の中心、予定していた地点で集まる力の合流。

 僅かにでもズレていれば自身の放った魔力で打ち消し合う。

 先見する弾道も、判断が異なっていれば反応も遅れる。

 しかし寸分の狂いなく。

 集合点で予め同等の魔力弾を形成し、放つ事無く威力を零にされる。

 ただ衝撃だけはその場での飛散。無力となった魔の粒子が美しく視界を一時的に覆う。

 短い時、その間に両手で握り締める杖の底面から堅く舗装されている床へと属性変換した魔力を流し入れる。

 それ等の技術は今は亡きマウネの世界で一般魔術士の標準とした能力を上回る。

 だがエルミアは元より戦闘員ではない。

 事務方であり、戦いの駆け引きは経験に乏しい。

 連続した魔力行使の技量も直線的に振るうだけで、結果が伴わない焦りは視野を狭める以上の失態に繋がる。攻撃対象となる相手の接近を許す――事に気が付いた時点で、彼女の次なる行動は意味をなさない。

 ――全てエルミア自身の考えを理解した上で、彼女らしからぬ強襲である。


「ェ……」


 使用上の最たる不正答。

 刃先は無い。間違っても尖ってすらない杖の底を突き動かす場面。

 両手の握りが弱まる。

 流していた魔力も術式が消えてはただの痕跡。

 エルミアは自身を見て、刹那に思う。

 ――ワタシって結構コワい顔してるな。と自己投影を得た、直後彼女の額が一筋の光に貫かれる。







 後頭部まで穿たれた自身の最期を目の当たりにして起こる吐き気を辛うじて抑える。

 引き抜かれる刃、その瞬間の我がモノ顔は一生忘れる事が無いだろう。


「大丈夫ー? 死んじゃうかもと思って、余計なコトしちゃったかしらー」

「……いいえ、感謝します」


 情けない。けれども、せめてという気持ちで立ち続ける事だけは残る力を尽くす。


「滅多に見ない魔獣ねー」


 ただ口振りからして。


「知っているのですか……?」

「そーね、何度か経験があるわー。初めてで生きてるのはラッキーよー」


 うん、確かにそうかもしれない。

 正確な実体ではないと思う。けれども戦っている間に得た見解としては――。


「――対象の複製、もう一人の自分が相手……」

「そういうコトねー。独りだと、先ず勝てないわー」


 全くの同等、実力が嘘偽りなく互角の相手に勝てない訳。

 戦ってみて、分かった。


「人は不安定ねー、常に十全で動けるのは機械。ぁ、人じゃなくエルフだったわねー」


 魔獣は、倒されると霧散する。

 その状態によって散り散りに消えていくが、時折。


「あら、貴方のも出たわねー。確定かしら」


 自身と成る魔獣が消えたアト、亡骸無き所に物品が残される事がある。

 戦果の品。目下は――。


「これは……?」

「見たところカードキーかしら」


 ――多少だがしなる。手の平に収まる板状の。


「カードキー?」

「そういう形の鍵ってコトよー」


 鍵。単純な機能すら見込めそうにない、この形状で?


「貴方には不思議よねー、ほら私のと同じ小さな穴が空いてるでしょー」


 穴。裏と表、面を隈なく観察するが欠損すら見当たらない。


「分かり難いかしら、ほらこの辺とかねー」


 しなやかな指が面を差す。

 それでも些細な凹みすら在るようには思えない。

 途端にカードを持つ手は根っこを掴まれ、反射的にビクつく身体に稲妻の様な魔力流の衝撃が走る。

 それは容易くエルミアの意識を絶する。そして力無い人形の様な肉体は手でぶら下げて落ちるのをとどめて。


「――貴重な機会だったけど、貴方はここで足踏みしてねー」


 そう言って、エルフの体を丁寧に床へと下ろす。

 放れ際意識が消失しているにも拘わらず手の内に残っている鍵を拾い上げる瑠唯は物を自身の手の平に持ち替え、瞬く間――極少量の魔力を放つ事で消し去った。


「次出現する魔獣を倒せば進行は可能よ、目くじらを立てる程の状況じゃないわねー」


 現状の地下迷宮、空を見る事象も無い。が瑠唯の顔はコンクリートが剥き出しの天井を面し瞳は背後の気配へと向けられていた。


「そりゃあ終わった後の言い訳か?」

「あら、聞く耳があるうちの言説よー」

「なら口が利く間に全部吐いとけよ」

「良い女には、秘密がつきものよー」

「だったらアタシは悪い女ってこったな。イヤ、部下にはバレたくねぇコト沢山あるか」

「じゃお互いさまねー。で、魅力的な話をする気はあるかしらー?」

「その手の物騒なモンを下げる気があるのならな」

「でも貴方はその手を下げないでしょー」

「――当然、先に手を出したのはそっちだからな」


 それならば他に仕方が無い。と金色に輝く柄を瑠唯の手が握り締める。


「背を向けてる相手を殴るのは気に食わねぇ、振り返るまでは待ってやるよ」

「あら、優しいのねー。じゃぁ――」

「いつでも来い」


 ――後ろを向く。瞬時の合図、飛躍する二人の速度は空間を一瞬にして詰め寄せ相対する中央にて、激突する。




  *




 竜は聴力にも優れているのか、それはブッチャケ知らない。

 多分人間よりは良いと思うのだが真偽は不明。

 ゾウは大きいからと言って何もかも人より勝っている訳ではない、のと同じ。

 竜も天から授かった能力が人間より上だとしても部分的には劣る事だってあるだろう。


「……カードキー?」


 自分も、見てそう思う。

 互いに倒した相手から出てきた板状の鍵を何とは無しに眺めている。

 一応、改めるがどちらも倒したのは俺です。


「どこで使うんだろう……」


 ソレを探すのも分担の内です。――ただ。


「一度、皆と合流してみますか?」

「そぅだね……」


 正直気になってはいる、おそらくは明仁少年も。


「皆、無事だといいけど……」

「大丈夫ですよ、たぶん」


 と言うのも所見ではあるが、何処かのタイミングでコピーしたとして。

 自分達の場合は元が弱かったのだ。

 一般の人と異世界とはいえ、ただの子供。

 能力を完全に複製したとしても、竜体と成った自分にどちらも敵わない。

 本人が居る前で悪い気もするが――本当楽勝だったよね。

 行動が冷酷な分、戸惑いはしたが実際のところワンパンKO。

 なんかさ、転生後初めて無双できたと思うわ。

 全てではないがなんだかんだ強さの実感は湧いてなかったし。

 活躍する場も結果として、まだ少ないしで。

 だからこそイイんだよコレで。俺はこういう楽に扱える件数を増やせればソレでイイ。

 ――勇者、英雄、魔王なんてのは必要ない。

 のんびりと異世界を楽しみつつ、竜体を駆使し通常は困難と呼べるものを楽々とこなす。

 ソレが俺の望んだ願いの全貌、――だったのに。

 あー……クソ。思い返すと腹が立ってくる。

 既に目星は付いている。

 皆、――二人も気付いてはいる筈だ。

 現状は動向を探るつもりで慎重に機を窺う流れだと、思ってはいる。が。

 これまでを鑑みると無性に文句を言いたくなる。

 イヤ、もう言ってやろうか? いいよね。ほぼ確定だし。

 次に顔を合わせたら単刀直入、開口一番に。


「あら、こっちは終わってたのねー」


 フヘェッ?

 振り返ると、いつの間に――。

 見ると明仁少年も同じ様に隣で不意打ちを食らった顔をしている。ので計画的な感じではなさそうだが……。


「大変だったでしょ、遅れちゃってごめんなさいねー。でもアキ君を守ってくれて、お姉さんは感謝するわー」


 おう、なんて笑顔スマイルしやがる。


「――……礼には及びません。大したコトはしていませんから」


 フッ。


「貴方、面白いのねー」


 自分不器用ですから。キリッ。

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