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growth 1〔転生竜、汝隣人を愛せ〕

 



  ※




 幼き頃の記録――、何度も描いて重ね合わせた夢の絵は薄い紙の上で想像として動き出す。それはイツまでも最強の空想イキモノ

 何モノも徹さぬ硬い鱗と鋼鉄さえも軽く切り裂く鋭い爪や牙を持ち、空さえも我が物顔で翔ける――あまつさえ、燃え盛る灼熱の息をも吐く。そんな非現実的で空想上では最強と名高い、超絶憧れる唯一無二の存在。そう、それは――。




  ※




 ――(ドラゴン)、俺は確かに竜と成った。

 四十代に成り未だ平社員。パッっとしない所は探すまでもなくそこら中にある。

 それでも悪くない人生だった。と今でも本当思っている。

 彼女と呼べる相手は居なかったが、同僚や友人には良い奴が多かった。

 仕事もブラック等の過酷な職場ではなかったし、上司も気さくに話ができた。

 だから未練が無い。死んで清々する。てな感じの最期とも違う。

 ぁ、と唐突に、ぁぁ、と観念し、エっと目覚めた時には、――目の前に女神が居た。

 嘘だろ、マジか、これが噂の……? などと頭が混乱する中この世のものとは思えないお美しい御方は神々しい光を纏いて我が意識の闇を払い世界を白く輝かしい空間へと変え。

 ――そして。


「御察しの通りアナタは死して転生の機会を得ました。望みを教えていただけますか?」


 ぁ、やっぱり。ではなく望み――。

 それは勿論。


「のぞみ……異世界転生をする前に貰える、あのチート級の、希望アレですよね……?」

「はい、そのアレです」


 うぉッしゃあら! 来た、キタキタッ来たぞコレがっ!

 どうするッ? どうするッ? あああ、マジかッっしゃァ!


「……あの、大丈夫ですか?」

「――ェ? ぁぁ」


 少々ハシャギ過ぎた。

 途轍もない美女の前では尚更お恥ずかしい。


「……スミマセン、ごめんなさい」

「フフ、謝る事ではありませんよ。もしお考えが纏まらないようであれば質問も受けつけておりますので、お気軽に」


 ハイ神、イヤ女神様っ最高ッス。

 しかし願い自体は既に。イヤ、とうの昔から決まってはいる。が。

 ――折角なので。


「願いはその、決まってはいるのですが……いくつか質問と言うか聞きたい事がありまして。宜しいですか……?」

「はい勿論です。お好きなだけ」


 アイ・ラヴ・ユア・スマイル――。


「――なら、転生先って指定とかはできますか?」

「その場合は細部の希望までを完全に叶える事を約束できませんが可能な限り望みに添う場所を選定します。当然主たる願いとは別に承ります」


 よし。なら――。


「――場所は、転生先は異世界系ならド定番の中世ヨーロッパ、魔法とか剣とか魔物が居てダンジョンとかで冒険者が活躍する正にっ、て感じの……!」

「承知しました。他の、希望はありませんか?」

「えっとあと、魔王とかは要らないです。ぁ、勇者も」

「承知しました。他の、希望があれば――もし、確言し終えたのであれば」


 来た、到頭だ。


「ハイそれだけです。それで、自分の願いは――」


 ぁー、ついに、ついにこの時が来たんだっ。ずっと子供の頃から思い描いていた、夢の。


「――……ゴンッ、俺を――(ドラゴン)にしてくださいッ!」

「ェ、……ドラゴン?」


 ぇ? 何だ。

 急に、今までとは違う雰囲気に。


「ドラゴンと言うのは……、あのドラゴンですね?」

「ハイ、そのドラゴンです」

「……いま少し具体的には?」


 具体的――。

 そう聞かれると、どう説明をすれば。

 考えたことも無かった。だって竜と言えば大抵は相手の想像でも補えるし、必要となれば絵で――ァ。


「――絵、絵で描いてもいいですか……?」

「それならば記憶を――。……なるほど、アナタの求む事物を理解しました」


 一瞬自分が輝く様な感覚の後に、そう告げられる。

 凄い、さすが神様。でもちょっと気恥ずかしい。


「アナタが望んでいる生態であれば元居た世界と異なる世界にて、多数の存在が確認されている生物です」


 ェそうなのん。


「生物の分類として幾つか種類もあるようですね。――希望はありますか?」


 若干異世界への嫉妬心も芽生えそうではあったが、そんな嫉視は最早必要が無い。

 何故なら個体(ソレ)すらも俺は既に決めていたからだ。


「バハムートッ、俺をバハムートにしてくださいッ!」

「……バハムート? 確かそれは巨大な魚の外見をした幻獣のはずですが……」


 ぇ、魚? イヤ。


「それはちょっと分かりませんけど、竜の方のバハムートでお願いします」

「承知しました……。それでは名も無き原初の創造竜と成り、その名を自身で宣言するというのは如何でしょう?」


 ぁぁなるほど。


「オッケイです。全然それで問題なしです」


 寧ろ二番煎じにならずに済むのならその方がテンションは上がる。


「それは善きことです。アナタであれば必ずや願いの成就に至ることでしょう」


 勿の論です。――ん? 至る……?


「あの至るってのは」

「さすればこの者に新たなる刻の祝福を、今一度世界を彩る稀少な一輪の華とならん」


 いやパァアアアじゃなくって。


「至るってのはどういう」

「汝隣人を愛せ。それではお達者で」


 それはイエス、ノォォおおおおお――。




  …




「スプランディ?」


 不安げに見る見慣れた瞳だ。

 ――ぁぁ。


「クァウ」


 なんら問題はない。

 先刻見た夢の内容を何気なく、耽っていただけ。


「無理しないで、……引き返す?」


 いいや。


「クァック」


 絶好の機会を見送る理由は全くない。


「……行くんだね。分かった」


 それならと前を向く少年のボロ布で隠された懐中にて、酸素を竜の肺へと送り込む。

 今の俺が出せるのは最大限にして一発の息。

 しかも下手に動くと吸い込んだ息が漏れて威力も下がる。

 なるべく微動だにせず最高火力で一気に勝負を終わらせたい。

 故に、自分達の戦いは常ギリギリの綱渡り。

 子供の胸で落ちない様にしがみ付きながら最大を維持しつつ少年は囮となり。


「ガゥアツ!」


 揺れる身体もとい震えているのがダイレクトに伝わってくる。

 しかし今回は逃げる必要がない。

 頭で胸を小突き、合図を送る。


「ガゥ?」


 左右に広がる薄汚れた布、それは一度きりの開えんを示す始まりの幕開け。


“じゃあな”


「ガッ、ッッ――!」


 視界が真っ赤に燃え染まるその時、吹き抜ける爆炎が獲物を黒い炭へと変貌させていくと残されるのは周囲を包む灰色の煙。それは文字通り最期を告げる終演の狼煙となり今居る場所を充満にする――ぁ。


 これはマズい。


「クァック!」


“早く!”この場から離れなければ。




  …




 知っての通り、煙とは有毒である。


「ゴホッ、ゴホッゴホッ、ゴホッ……」


 咳き込んでいた少年の呼吸は、徐々に安定し。

 取り敢えず、なんとか落ち着きそうだな。


「ゴホ、――ハァ、――スゥー、ハースゥ」


 吸え吸えドンドンと吸え、そして吐け。

 一戦を終え生き残った空気はさぞかし新鮮であろう。じゃなくても必要だから吸ってね。

 アンド吐いてぇ――、――……イケたか?


「……もう、大丈夫そう」


 よし。毎度ながら良くやったと言ってやりたい、が現状それは出来ないので。


「ぇ何? ――ァ、ハハ、クスグったいよ、ァハハ」


 悪いね、中身はおっさんだが知らぬが仏よ。


「ァハハハ、ちょっと待ってよ」


 本当無邪気な、ただの子供だ。

 当然こんな迷宮トコロに居るべきではない。

 だからこそ一日でも早く脱出し外の世界へと。

 その後いずれは大空を飛ぶ俺の背に、少年を乗せてやろう。

 今はそれを目標にし、この地獄から伴って抜け出す事を俺は心で誓うのだ。








  転生竜、汝隣人を愛せ/了

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