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転生竜 ー最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?ー  作者: プロト・シン
一章【最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?】
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growth 18〔転生竜、時にかなって美しく〕③

「あっちこっち魔獣を倒しながら一ヶ月間歩き回ったが、殆ど似た構造だった。ここ以外はな。ただ何書いてんのかもサッパリ分かんねえし行き詰ってた感じだ。で、どうよ?」


 乱れる呼吸、安定するには全くと言っていいほどに時間が足りていない。


「ハァ、ハァ――ッ、ハゥ、ハァ……ッ」

「……大丈夫か? てか体力なさすぎるだろオマエ。普通これくらいの距離、子供でも平気だぞ……」


 そうは言うが単純な直線距離ではない。

 途中何度も線路上に降り、ホームに登る。繰り返し行う作業は積み重ねる度に鼓動が速くなり全身で汗が流れ出す。


「なんつーか、見た目よりも軟弱だな」


 それは……。


「そーね、アキ君てスポーツとかしてそうな感じなのに」

「スポーツ? 何だそれ」

「運動するコトの総称よー」

「何だソレ」


 ともかく、二人が話をしている内に呼吸を整える。

 見た目の事は――人に話す程の、大した理由もない。




  ※




 中学校の入学式、その帰りに交通事故で両親だけが死んだ。

 僕は元々仲の良かった叔母に引き取られて少し遅れはしたが二学期から地域を変える事なく予定していた学校に通い始める。

 若干クラスに馴染むのには時間を要したが周囲の友人等が支えとなり学年を上げる頃には自然に振る舞えていた。と思う。

 そして何より叔母に対する感謝や、相手の接し方に家族としての愛情を深く感じた。

 きっと叔母が居なければあの時の僕は今以上に内なる方向へと影を落とす事となっていた。心からそう思う。

 感謝の気持ちは次第に叔母が好む外見や生き方にも影響し、内面インドアで外面は活動的に見える様相が出来上がる。


“好きな生き方をすればいいんだよ”


 と叔母は言うが、それでも彼女の笑っている様子は心だけでなく今を生きる上でも大切な要素であった事に間違いはなかった。




  ※




 幾つかの駅を跨ぐ様に、辿り着いたとある構内の部屋。

 一面に大きなモニターが備え付けられた内装はこれまでのどの室内とも違う。

 確かな情報を映す。稼働し、反映されている。

 勿論その全てを理解できている訳ではない。が。

 ――動いている。

 少なくとも目の前の事実として、捉えることはできる。


「なんか分かるか?」


 考える素振りすらも見せない。

 直情的に生きている。そんな人柄なのだと初対面の内から明仁は思っている。


「……たぶん電車の行き来に関係する」

「分かるのかッ?」


 正直に言うと分からない。

 ただ図として示されている表が具体的ではないにしろ何を扱っているのか推測できなくもない。実際に――。


「――ここが今居る駅、だとしたら……」


 画面には収まりきらない数の駅が縦にずらっと並んでいる。

 そして各駅の枠内には数字、恐らく駅名の代わりとなる。と思う。

 結果一つ気になる点が。


「てか前から一つだけピカピカと光ってるヤツがあるんだよな。意味分かるか?」


 そう点滅している駅がある。

 今居る所からは十数駅離れた番号だ。


「もうすぐ電車が着くってコトじゃないのー?」


 多分間違ってはいない。

 路線の運行を管理する詳細な画面を見る経験など過去に一度も無い。けれども馴染みのある形で表示されているコトが雰囲気として受け入れ易い。


「ならその場所に行けば何か分かるのか?」

「それは行って、見るしかないわねー」

「見て、どうするんだ?」

「電車だから乗る物よー」


 ――だとしたら。急ぎ伝えた方が良いと思える、情報に気付く。


「到着まであと十分……」


 と言ってる内に桁は一つ下がる。


「まあ余裕だろ」


 余裕――表情が歪む。と見て察したのか、後ろ手で頭を掻き。


「急ぐか」


 見送るという選択は無さそうだった。







 足早に部屋を出た途端、独り言葉を失う。


「何だコイツら、どっから湧いた」


 数は見渡すそばから増え続ける。


「迷宮の意思ってやつねー」

「何だそれ、聞いたことねぇな」

「私が居たところだと、そう例えるのよ」

「ふーん。まあ分からなくもないな」


 どちらかと言えば、現状で悠長に話し合える二人の方が明仁としては理解に苦しむ。


「で、どうする? ちまちましてたらさすがに間に合わねえぞ」

「二人で走るのは苦手ねー」

「なら殿しんがりだな。て訳だ、イケるよな?」


 ニヤリとほくそ笑む。その見た目以上に大胆不敵な笑顔を見せられ、明仁は息を呑む。


「んじゃま行くか、急いでな。――吐くなよ?」


 ェ。




  …




 腹部の奥、定期的に圧迫される胃やその他内臓類が悲鳴を上げる。


「ゥぷ……っ」

「ヨッっと」


 たったの一息、一度の跳躍で線路に降りる事なくホームの間を跳び越える。

 その際に起こる上下の衝撃は全て抱える腕を通し奥深くに入り込む。


「ぁウッ、……ぐゥ、うぷ」

「押えとけ!」


 既にやっている。が両手の隙間からイツ飛び出すかは予測できない。


「ふふ、ファイトねー」


 言いつつ瑠唯もまた軽々しく線路の上を跳ぶ。

 しかもスカートの裾が上がらない様に手で押さえながら。

 何で、どうして、一体。そんな疑問が起こる、よりも沸く吐き気に独り悩まされる。


「意外にすんなりと行けそうねー」

「ぉ、そろそろ見えてくるか?」


 恐らくは各構内で記されている番号を見、判断した発言と思われる。


「もうちょいだ、我慢しろよッ」


 一際力の入った跳躍そして食い込む衝撃。

 その威力はいっそ胃ごと出してしまったほうが楽になるのではないかと思う沙汰に陥りそうな程で。


「アキ君、大丈夫……? 顔色が青いわ」

「吐いても死にゃあしねえよ」


 それ以上の地獄を味わっている最中。


「――っと。さすがに最後までとはいかないか」


 突然これまでとは違う方向からの力が加わり、辛うじて異物は体内へと逆戻り。


「群れて待ち伏せるなんて、変わった魔獣ねー」

「そうか? 結構あるぞ」


 意見としてはかみ合わない二人だが、息を乱す事無く目的地目前まで来た異常な身体能力、と同調する動きの――。


「前を開く、後ろの粒は任せるぞ」

「頼りにしてるわー」


 ――決断力。に協力できるだけの体力は明仁に残されていない。

 故に手放された後の、有無を言わせぬ扱いはぞんざい。


「とりま休んでろ。最後はまた、今度はテメェの足で走るぞ」

「……ハィ」


 重なる拳、関節を鳴らす音で魔獣を威嚇している様にも見える。


「電車ってのが来るまで、後何分かは知らねえが。乗客はテメェらじゃねえ、アタシらで貸し切りだ。とっとと散りな」


 そして後方では見惚れる程に美しい刃を手に取り、艶めかしい声で。


特別車両(グリーン)でお願いねー」


 明仁の視界で対照的な二つの逆光が――弾け跳ぶ。

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