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転生竜 ー最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?ー  作者: プロト・シン
一章【最強種になったら成熟する前に世界が消滅って、どういうコト?】
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growth 17〔転生竜、時にかなって美しく〕②

 低い唸りは事切れる直前の断末魔。

 色を失った獣の瞳に映る、金色の輝き。

 それは戦いで乱れた髪の流れをサッと直す女の手にある一振りの刃。

 刃渡りは三十とやや短めのダガーナイフだが、刀身に対し鍔の形状が著しくまるで十字架を模す様に握り手の先で横に伸びている。

 短剣は柄だけでなく全体が同じ金を帯びており魔獣を散り散りに消し去った後でも穢れの無い輝きを保ち緊迫した状況下でも常に聖なる象徴として、存在し続ける。

 持ち主は微笑む。

 手の聖なる美しさ、ではなく――待たせていた相手の方を向いて。

 だが其処に対象となる人物は影も形もなく、代わりに魔獣の去る姿が地下空間に響く、足音を追いかけて。

 ――瑠唯は苦々しく笑む。


「……マズいわねー」




  *




 魔獣――現状、詳しくは明仁の知るところではない。が迷宮内を闊歩する様に存在する大柄の四足獣。外見はネコ科というよりも狼等のイヌ科に近く尖った特徴は控えめで胴体は短く尾が長い。

 但しそれ等はあくまでも外見上の形、見た目としての在り方でしかない。

 本質は闇。真っ黒に染まる獣の影、他に体色は無く全てが暗。

 否。正確には獲物を追うその紅い眼と唸る口が大きく角を上げる時、露になった鋭い凶器が暗黒に浮かぶ白い鎌と成り、後退(ずさ)る――追い詰められた者に畏怖の念を見せつける。


「ガゥァールァッ!」

「ひィッ」


 壁際、次いで接する。一寸の逃げ場すらも無い。

 大きく開かれる獣口がダラダラと涎を垂らす。

 見開く少年の視界で白い鎌が襲い掛かる準備と姿勢を低くし身構える。

 と、あるはずのないものが現れる。

 ――一匹の黒い猫。

 悠然と間を横切る。


「ガッ……」


 しかしそれ以上に衝撃的な光景が刹那に起こる。


「ガグッアッッ――、――ッツ!」


 文字通りに一蹴、一瞬の出来事だった。

 吹き飛んだ獣が構内の壁に激突し黒で霧散する。

 跡形もなく消え去った箇所には衝撃の痕だけが残り。

 いつの間にか現れた謎の人物、物珍しそうにしつつもニカッと歯を見せてわざとらしく表情を作る。

 ……何?

 内面でも困惑する明仁。だったが寸刻突如として合わされる手の平に更なる動揺を覚えるも合掌の奥で行われる真剣な眼差しでもって開く口に注目する。


「会ってイキナリでなんだが食い物を持ってないかッ? あったら分けてくれ!」


 頼む。と更に請われる。が――。


「――……持ってないです」

「マジかー、くっそォ……」

「……ゴメンなさい」

「いや気にすんな。最初から期待して言った訳じゃねぇからな、人生そんなもんだろ」


 とは言えガッカリとしている姿は客観的にも見るに忍びない程で。

 なんとかしたい。とは思いつつも、先ずは――。


「――あの、ありがとうございました……」

「ん? ああ。それも気にすんな、流れっつーか――あッ」


 突然なにかを思い出したかの様に。しかし明仁にとっては再び悪夢の始まりかと戸惑う、が特に状況の変化はなく。


「……何」

「えっと、変なの見なかったか?」


 変なの。と言うのなら今居るこの場所、その全てがオカシイ。

 だが質問の意図はそうではない事を理解して思い当たる唯一の現況、からの報告なら。


「さっき猫は見ましたけど……」

「ネコ? 何だそれ」

「ぇ、と――黒い」

「尻尾のある小せぇヤツかっ?」

「そ、そうです」

「ソレどこ行ったッ?」


 ――何処。周囲を見渡す、が見当たらない。


「あいつアタシの飯を最後食いやがったんだっ、絶対に許さねぇぞ!」


 怒り心頭に発する。それより。


「……誰、その……何で」


 何故この人は現状の様な所に居て、猫に対し平然と怒る事を厭わないのか。

 もっと他に考えなければならない事柄や今の身の上を気にする。どころか意に介している様子すらも見えない。

 ――どうして。


「ああ、一応名乗っとくか。アタシはピュアモルト、でそっちは?」


 ピュアモルト……。変わった名前だが外見からしても同じ人種ではなく異国と思える。


「僕は……浪川明仁です」

「ナミカワアキヒト? スッゲー変な名前だな」

「名前はアキヒトです……」

「ああその方がイイな。で――」


 で。報せが無くなる。

 代わりに相手の目線が、その先に事の次第を知らせる。

 居たのは瑠唯、先刻凹んだ壁の前でこちらを見ていた。

 明仁にとっては知った相手だが初対面であろう事に警戒した目を向けている。と思った矢先に。


「あッ、オマエっ!」


 その肩に居る探し人もとい探し猫に注目が向く。


「待てコラッ!」


 ピョンと跳ねて逃げ去るネコ科の小動物を追う。

 その姿は果たしてどちらが獣なのかと悩む程に獰猛な様子で。

 逆に飾り気の無い行動に瑠唯とは違う性質を感じ、独りたじろぐ。


「テメェ! ぜってえ食ってやるからなっ!」




  …




 散々追い掛け回した挙句に捕まえる事が出来ず。

 最終的には腹が減りそうだからと謎の物言いをし落ち着いたところで、瑠唯が一言。


“チョコレートで良ければ食べるかしら”と言ったことで状況が一転。


 少し前に探索を終えた駅長室へと戻り、渡された菓子をむしゃぶり付いて食べる近代文化とはやや異なった恰好の人類。

 ピュアモルトと名乗った人物の、愚痴とも言える身の上話を聞く事となった。


「――でまあ、んぐ。光ってだな、――あぐ、そしたら水晶に引き寄せられて。ゴクン。気付いたら、この迷宮に居たって訳だ。しかし美味すぎるだろコレ、もっとあるか?」

「もう品切れ、本来必要ないもの」

「まあそりゃそうか。あんがとよ、おかげで気が済んだ」

「いいのよー。その代わり情報交換しましょ。先ずは達成条件からで、どうかしらー」

「ああイイぜ。ただこの迷宮はよく分かんねぇコトだらけだ教えられるモンが少ねぇぞ」

「いいわよー、分からないコトは考えるより口にして頂戴。解決できると思うわー」

「頼り甲斐がありそうだな。よし、んじゃまくだんだが正当じゃねぇな。魔獣が尽きねえ」

「あら面倒ね。確証は?」

「そりゃ無理だな、広過ぎる。一ヶ月程ここに居るが数は減っても無くならねえ、根拠っつーならそれで十分だ」


 ……一ヶ月。明仁だけが良くない気持ちへと傾く。


「転送地点はどうー?」

「それも見掛けてねえ。てか見たコトねぇ物ばっかりで訳分かんねえし」

「そう。ちなみに、この子はどうしたのー?」


 珍事件の後、何故か懐かれる様になった足元の一匹を差して言う。


「さーな、気づいたら付き纏われてた。最初は魔獣かと思ったが襲ってはこねぇし、害はあるけどな」

「害?」

「アタシの食い物を盗む、圧倒的に害だろ」

「そう……。変わってるのね」

「全くだ。ここじゃ食う必要もねえのによ」


 食べる必要がない……?

 どうして。


「ところでよ、ダメ元で聞くが、ここの文字って読めるか? 例えばソコんとこ、張り紙に書かれてるそれっぽいヤツとかさ」


 紙――。を見て、なんとなく近場に居たので。


「――マスク着用のお願い……?」


 ソレが一体、何の。


「ェ。オマエ読めるのかッ?」

「ぁハイ……」

「何で読めるんだっ、イヤまあそれはいいや。だったら一緒に来てくれ!」

「ェ……何処に?」

「行けば分かるっ」


 ェ、ちょっと。

 半ば強要した手引きが始まる。

 その凄まじい引きの強さは全くと言っていい程、歯が立たず。

 無意識に助けを求める視線の先で。


「行って、見るしかないわねー」


 諦めを感じざるを得なかった。


「痛いっ」

「お、悪い」

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